44, 明け方のミルクティー 2

 

 

 

 
イザークに手渡されたA4サイズ程のタブレット型端末に現れたディアッカの顔を見た瞬間、ミリアリアの胸は様々な感情で一杯になった。
少し乱れた金髪、睡眠不足な顔。
この分では食事も睡眠も満足に摂っていないのだろう。
自分の事は棚に上げ、ミリアリアはそんな事を考えながら口を開いた。
 
 
「なんて顔、してるのよ…」
 
 
意外だったのだろうか、その言葉に紫の瞳が見開かれる。
『ミリィ…』
自分の名を呼ぶその声を聞くだけで、ミリアリアの胸は疼く。
「疲れてても、食事くらいはきちんと摂らなきゃダメじゃない。それに睡眠も。それじゃ却ってみんなに心配かけるわよ?」
こんな事が言いたい訳じゃないのに、ミリアリアの口からはどんどん勝手に言葉が飛び出してくる。
 
 
『ミリィ。俺の話、聞いて?』
 
 
昨日とは打って変わって落ち着いたディアッカの声に、ミリアリアは驚き、ぴたりと口を噤んだ。
イザークが黙って病室から出て行く。
 
『その…昨日は、ごめん。動揺、した。お前の話、ちゃんと聞いてやれなくて…ほんと、悪かった。』
「……ディアッカ」
『…俺が何を言っても、お前は行くんだろ?』
 
ミリアリアは、端末に映し出されたディアッカの顔をじっと見つめる。
 
「…うん。行くわ。今はプラントだって、私の国だから。」
 
その言葉にディアッカが目を見開きーーふわり、と微笑んだ。
 
「…お前らしいよ。ったく…」
 
ミリアリアが大好きな、優しい笑顔。
どくん、と胸が疼き、端末を持つ手が、微かに震えた。
 
 
『あれから色々考えた。シンにも怒られて…でもあいつ、夜中にコーヒー持って戻って来てさ。
俺、あいつと話して、それで気付いたんだ。大事な事を忘れてたって。』
「大事な…事?」
首を傾げるミリアリアに、ディアッカはまた微笑んだ。
 
 
『無くしたらまた探せばいい。探して、どこにいても助けに…迎えに行く。何度でも。』
 
 
ひゅ、とミリアリアは息を飲んだ。
 
 
『怖かったんだ。約束を忘れた訳じゃない。けど、いざそうなってみたらお前を無くす事が怖くて…手放したら、もう会えないんじゃないか、ってそればっかり考えてさ。
今の状況で、俺はすぐにお前の所には行けない。でもそうやって諦めたら、そこで終わりなんだよな。
…でも俺はお前に約束した。手放して終わりになんてしない。不安要素を全部ぶっ潰して、何度でもお前を迎えに行く。それで…死ぬまで一緒に生きて行くって。』
 
 
ミリアリアの瞳から、つぅっと涙が零れた。
 
 
『俺は隊長だから、って…いつのまにか全部ひとりで背負って、周りを見ようとしなかった。
でもさ、俺にもお前にも、力になってくれる奴らがたくさんいるんだって気がついたから。
だから…今すぐにはここを離れられないけど。俺は必ず、お前を助けに行く。』
「…っ、うん」
ミリアリアは、ただ頷く事しか出来ない。
『お前も分かってんだろ?この事件の黒幕の事。…頼むから、俺が行くまで無茶な事だけはすんな。
それだけ、約束してくれるか?』
「…うん」
 
 
絶対に、泣かないと決めていたのに。
ディアッカだって、苦しい思いをしているのだから、泣き顔を見せたらダメなのに。
だから、信じてる、とだけ伝えられればそれで良かったはずなのに。
 
殺されない保証なんて、無い。
少なくともセリーヌ・ノイマンは、自分たちと刺し違えるくらいの覚悟でこの事件を起こしたに違いないのだから。
ただ、“あの方”の狙いがイザークとディアッカ、それにアスランならば、自分とカガリは彼らが来るまでは命を取られる事は無いはず。
そして、ディアッカは必ず自分を助けに来てくれる。
そう目論んで、ワクチンが一日も早く開発される事に賭けて、ミリアリアはプラントを出る決意を固めた。
 
本当は怖かった。
真の目的が分からないまま、敵の所へ赴くのだ。
いつも自分を守ってくれる温かい腕は、遠く離れた地球にあって。
もしかしたら、もう二度とディアッカに会えないかもしれない。
それでも、ディアッカと、ディアッカの大切にしているものを、自分も守ると決めたから。
 
 
「ごめんね…泣く、つもりじゃ…なかったのに…。信じてる、のに…」
『…泣いたら俺が余計心配すると思って、我慢してたんだろ?ったく、意地っ張りが…』
 
 
呆れたようにディアッカは微笑む。
本当に、いくつになってもこういう所は変わらない。
だが、そんなミリアリアだからこそ、好きになったのだ、とディアッカは思う。
意地ばかり張って我慢して、無鉄砲ですぐ突っ走って、気は強いけど本当は底抜けにお人好しで、優しくて、まっすぐで。
そんな、胸に溢れかえる愛おしさを隠そうともせず、涙ぐむミリアリアを見つめていると、不意にすっとその表情が変わった。
 
 
「あの、ね。もうひとつだけ…伝えたい事が、あるの」
『え?』
 
 
意外だったのだろうか、きょとんと首を傾げるディアッカをミリアリアは真剣な表情でじっと見つめた。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

やっと落ち着いて話が出来た二人。
そして、ミリアリアの伝えたい事とは?

 

 

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2015,3,22up