雨宿り 2

 

 

 

「…で、ミリィは出て行っちゃったと」

 

サイは二杯目のコーヒーをカップに注ぐと、ミルクないの?などと言いながらディアッカを振り返った。
「俺はブラックしか飲まねぇの。…まぁ、そういうこと」
ディアッカのカップをひょいと取り上げながら、サイはうーんと唸った。
 
「ディアッカはさ、何に一番嫉妬した?」
「嫉妬…。嫉妬?」
「カトーゼミでのミリィと俺たちの関係?ジャーナリストのミリィとその周りの関係?AAのCICのミリィとその周りの関係?」
 
ディアッカの前にカップがことんと置かれる。
「俺は別に、嫉妬なんて…」
「ディアッカ、本当にミリィのこと好きなんだな」
「サイ!こっちは真面目に話してんのに何だよそれは」
サイは、ふっと今まで浮かべていた笑みを消しディアッカを見つめた。
 
  
「じゃあ質問を変えようか。この先ディアッカはミリィをどうしたい?ミリィにどうして欲しい?」
 
 
ディアッカは言葉を返せなかった。
自分は、この先ー。
 
「俺は、あいつを守りたい。ずっと一緒にいたい。あいつの感じた喜怒哀楽全部受け止められる男になりたい。俺を気遣ってくれてんのはすげぇ嬉しいけど、俺を信じて頼って欲しい…」
 
サイの顔が綻んだ。
「その続きは、今度本人に直接言いなよ」
「サイ…」
「コーヒー飲んだら?冷めるよ?」
どうも今日のサイには毒気を抜かれる。
ディアッカはコーヒーを口に運んだ。
 
「このコーヒーやけに美味しいよね。バルトフェルド隊長のおすすめ?」
「…いや、俺のせい」
「は?」
 
訳がわからない、という顔で首を傾げるサイを見てディアッカはニヤリと笑った。
「サンキュ、サイ。あのままあいつを追っかけてたら、多分ますますこじれてた」
「うーん、そうかもね。でもさ」
「ん?」
サイは立ち上がり、伸びをした。
 
「お前らってさ、軽かったりツンケンしてそうに見えてお互いをすごく探り合ってる時があるよな。だから、今回ここまでお互い思ってることを素直にぶつけ合えたのは良かったんじゃないの?」
 
じゃ、俺はそろそろ行くよ。
そう言ってひらひらと手を振り、オーブの特別参事官補佐は部屋を出て行った。
ディアッカは二杯目のコーヒーを飲み干すと、今言われた言葉の意味を、目を閉じて再度考えたのだった――。
 
  
 
***
 
 
 
「で、部屋を出て来たと」
 
  
自分で勝手にいれた紅茶を飲みながら、イザークはミリアリアにも同じものを渡した。
「ありがとう。いただきます。…まぁ、そういうこと、かな」
ふむ、とイザークはしばし考え込んだ。
  
「あいつは、寂しかったんだろうな」
「寂しかった?えと…別れてた時のこと?」
それはこっちだって…と内心思ったミリアリアだったが、次に続いた言葉に驚愕した。
「再会してから、の事だ」
「…どうして?だって今はこんなに近くにいるじゃない。ずっと一緒とはいかないけど…」
イザークはカップをソーサーに置いた。
 
「あいつはお前を守りたいと、そう言っていたんだろう?頼って欲しい、何かあったら話をして欲しいと。要はそういうことだろう。再会してから現在まで、ディアッカに何かそう言った話をしたか?」
 
ミリアリアも、カップを置いた。
「…してない。でも、時間もなかったし…」
「そうだな、確かに時間などそうそうなかっただろう。特に今日のお前はサイたちとの方がよほど親しく話をしていた」
「それは!データ解析とか…」
「誤解するな。それは分かってる。ディアッカも頭では分かっているだろう。それでも、な」
イザークはそう言って、眉を下げ困ったように微笑んだ。
 
  
「お前が思っているよりあいつは寂しがり屋でな。おおかた、疎外感、のようなものを感じたんだろう。そしてそれを素直に表に出すほど、素直なやつでもない。自分の中でごちゃごちゃ考えて理屈をつけて、無理やり納得したんだろう」
「そんな…」
 
 
イザークはミリアリアのカップを優雅な手つきで取り上げると、新しく何かを作り始めた。
 
「ダストコーディネーターの件に関しても、キラから先に聞いていたなら尚更自分からは言い出せなかっただろう。変なところで気を回すんだ、あいつは…」
「そのこと、黙ってるつもりじゃなかったの。いずれ話すつもりでいたのよ。でも、ディアッカに、本当に俺のこと好きなのかって言われてカッとしちゃって。喧嘩なんてしたくなかったのに、気づけば再会してから漠然と不安に思ってたことや、別れてた時に考えてたことを全部ディアッカにぶつけてた」
「ミリアリア。お前は、ディアッカとこの先どうなりたいと考えている?」
 
突然の問いに、ミリアリアは驚いて顔を上げた。
イザークはこちらに背中を向けている。
何を作っているのだろう、柔らかい香りが漂ってくる。
  
「…大切な人だから、大好きだから、私もディアッカを守りたい。守られてるだけじゃなく、自分の出来ることでディアッカを助けたい。
じゃなきゃ、隣にいる資格なんてない、って思ってたの」
「ほう、それで?」
「本当はずっと一緒にいたい。ディアッカと一緒に生きて行きたい。怖いことや困ったことがあったら助けて、って言いたい。でもそんなのこの情勢じゃ無理だし、それじゃいけないと思うから、だから…」
 
ミリアリアの言葉は、そこで止まってしまう。
イザークが振り返った。
 
 
「ところで、その隣にいる資格とやらは、誰が認定するんだ?困った時に、信頼できる相手に助けを求めることのどこがいけないのだ?
ディアッカを信頼できないか?」
 
 
思いもよらぬ言葉だった。
「お前らは、雑なようで互いを思いやりすぎている。互いに何かを与えるだけしか考えていない。それでは、いつの日か関係にひずみが生まれる」
ミリアリアの手に暖かいカップが渡された。
ロイヤルミルクティーだった。
 
「頼ること、甘えることは悪いことばかりではないと俺は思うがな。だからこそ今回本音をぶちまけてみて、何か得るものがあるんじゃないのか?それと…もう少しあいつを信頼し、そして自分に自信を持て」
 
ミリアリアは首を傾げた。
「自信…?」
「こんな喧嘩なら、たくさんすればいい。お前はあのディアッカ・エルスマンに選ばれたんだからな。少なくとも俺は、あいつがここまで何かに執着するさまなど見たことがない」
イザークは立ち上がり、ゆっくり休んで、よく考えてみるんだな、と言葉を残して部屋を出て行った。
ミリアリアは、カップの中身をこくりと飲んだ。
「あ、美味しい」
イザークと話して、だいぶ落ち着いた。
土砂降りの中に傘もささずにいたのが、まるで雨宿りの場所を見つけたように。
 
「ディアッカ…」
 
同じ艦の中でディアッカがそうしているように。
ミリアリアもまた、イザークに言われた言葉の意味をじっと考えるのであった…。

 

 

 

016

長くなってしまい、すみません…

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2014,6,10up