「くっそ…!」
ディアッカは荒々しくベッドに腰を落とし、頭を抱えた。
さっきのは完全に、八つ当たりだった。
自分の知らないミリアリアを見せつけられ、また自分の知らない所で危険に身を晒そうとするミリアリアに対する苛立ちをぶつけてしまった。
あいつは言ってくれたではないか。あの照れ屋で天邪鬼なミリアリアが。
誰よりもディアッカが好きだと。愛していると。
それなのに、本当に自分を好きなのか、なんて。
なぜあんなことを言ってしまったのだろう。
ゆるゆると顔を上げると、ベッドサイドに置かれたポットが目に入る。
多分ミリアリアは、格納庫にいた自分たちのためにコーヒーを作ってくれていたのであろう。
あれだけの事をして、自分だって疲れていないわけがないのに。
追いかけなければ。
もう一度話をしなくては。
「俺もコーヒー飲みたいな、ディアッカ」
「うわっ!」
ドアが開いた事にも、そこにいる事にも全く気が付かなかった。
「この部屋は防音じゃないんだから。筒抜けだよ、全部」
サイが、ドアの横にもたれかかってこちらを見ていた。
「サイ、悪いけど…」
聞いていたなら尚更。そう思いミリアリアを追いかけようとするディアッカだったが、サイの言葉にぴたりと足を止めた。
「今のお前じゃまた繰り返しだよ」
「サイ…」
「コーヒー飲みたいな、ディアッカ。せっかくミリィがいれてくれたんだろ?」
サイは穏やかに微笑んだ。
ミリアリアは自室に戻ろうと走っていた。
息苦しさが止まらないが、走っているせいなのか過呼吸なのかわからない。
ディアッカの部屋からそう遠くないはずなのに、やけに長く走っている気がしていた。
「ミリアリア!」
誰かが自分の名前を呼んだ。
「ミリアリア、どうした?」
眼前に煌めく銀。イザークだった。
ミリアリアの前ではいつも冷静な顔をしている彼が、今はひどく驚いた顔をして自分を見つめている。
「イザ…ク」
大丈夫…そう口にする前に、急激に呼吸が荒くなる。
いけない、このままじゃ…
「おい、大丈夫か?くそっ、ディアッカは何をして…!」
ミリアリアは慌ててイザークの腕を掴んだ。
「だめ…!ディアッカ、よば、ないで…!わたしの部屋、に…」
さらに驚いた顔をするイザークだったが、すぐに状況を察したらしい。
「お前の部屋へ連れて行けばいいのか?医務室ではなく?」
ミリアリアはやっとの思いで頷く。
「過呼吸…発作…から、部屋…」
「分かった」
今にも崩れ落ちそうなミリアリアを、迷わずイザークが抱きあげる。
ミリアリアはそのまますぅっと意識を失った。
ゆっくりと、優しい手が髪を撫でてくれている。
ディアッカ…?
イザークの腕の中で、ミリアリアが恋人の名を呼び、うっすらと目を開けた。
「…気分はどうだ?」
そうイザークが尋ねると、ミリアリアはゆっくりと顔を上げ、「イザーク…?」と不思議そうに呟いた。
そして、きょろきょろと周りを見回す。
「ここは…」
「お前の部屋だ。俺が連れてきた。で、気分は」
「ん…、もう、苦しくない…」
「それは良かった。適切な処置が出来たか疑問だった」
「ただの発作…きゃっ!」
ミリアリアは慌てて体を起こした。
ミリアリアとイザークがいるのは、ミリアリアの部屋のベッドの上。
壁にもたれて座るイザークの足の間に、ミリアリアの体はあった。
ついでにミリアリアの左手は、イザークの軍服の袖をそれはしっかりと掴んでいた。
「イザーク、ごめんなさい!私無意識に…」
「そんなに急に動くと貧血を起こすぞ。今どくから横になれ」
イザークは表情一つ変えない。
「それより、あの、」
「ディアッカには何も言っていない。倒れる前にそのように言われたのでな」
「そう…」
ディアッカに、酷いことをまた言ってしまった。
もう、喧嘩なんてしたくないのに――。
「ミリアリア?まだこうしていた方がいいのなら…」
「え。え?あ、ごめんなさい!重かったわよね?」
ディアッカの事に気を取られて、イザークの腕の中から抜けるのをすっかり失念していたミリアリアは慌てて体を離した。
「ありがとう、イザーク」
イザークはデスクチェアを引き寄せ、そちらに腰掛ける。
「礼には及ばん。それに重くもなかったから安心していいぞ。俺も休憩するところだったから一石二鳥だったしな」
ミリアリアはそんなイザークの言葉に一瞬きょとんとし、くすりと笑った。
「それでもありがとう、イザーク」
するとそれまで表情一つ変えなかったイザークが、にわかに赤面した。
「べっ!別に…!」
さっきまでの方が、よっぽど恥ずかしい気がするんだけど…
そんなことを思うミリアリアだったが、ディアッカとの事を思い出し、思わず溜息をついた。
「イザークには、普通に話せるのにな…」
わずかに沈んだ声に気がついたのだろうか。
「ディアッカと、何があった?」
ミリアリアはびくりと震え、しばらく考えた後イザークを見た。
「ちょっとだけ、話、聞いてもらえるかな…?」
イザークが別人です(笑)彼はたぶん、フェミニストだと思う。お母様の影響?で…。
2014,6,10up