こいつ、相変わらず顔に出やすい性質だよな。
食堂で見つけたミリアリアは、現在ディアッカの部屋でコーヒーの入った保温ポットを抱え立ち尽くしている。
「…俺、コーヒー飲みたい。」
「…あ、うん。待って。」
仕方がないので会話のきっかけを作ってやると、いそいそとミリアリアは動き出した。
「はい。」
「サンキュ」
「これ、コーヒーこのまま置いておくから。また格納庫に戻るんでしょ?」
「ああ。」
…再び沈黙。
と、ミリアリアが意を決したように話し始めた。
「あの…明後日の作戦、私とサイも降りることになったの。」
「は!?」
ディアッカが顔色を変えた。
「カズイの救出部隊と一緒に行くわ。必要がない限り、艦内に待機だけど…」
「当たり前だそんなん!つーかサイもお前もって…なんで…」
ディアッカはがしがしと頭をかきむしった。
そういえば、と昨日の話を思い出す。
地球での潜入取材、ダストコーディネイターの事件…
歯痒さがディアッカの胸に拡がった。
「俺は、お前を守りたいだけだ。あの時も、今も。」
てっきり怒鳴られるとばかり思っていたミリアリアは、ディアッカがぽつりと呟いた言葉に弾かれたように顔をあげた。
「ディアッカ…」
ディアッカの紫の瞳が、昏く不思議な色を湛えてミリアリアを見つめていた。
悲しい…の?
ミリアリアにはディアッカの感情が読み取れず、ただその昏い瞳をじっと見つめ返すことしか出来ない。
そんなミリアリアに、ディアッカの中で何かが弾けた。
「なぜ俺に連絡してこなかった?」
「え?」
ミリアリアはたじろいだ。
ディアッカの紫の瞳が、今まで見たこともない位怒りに燃えていた。
違う、これは、苛立ち…?
「俺がいないところで、もうお前に辛い思いをして欲しくないんだよ!過呼吸になるまで打ちのめされたり、危険な場所に突っ込んでったり…。俺はお前を心配することも許されないのか?」
ディアッカの言葉に混乱したミリアリアは、とっさに頭に浮かんだ言葉を口に出していた。
「それって…どうして知ってるの?ダストコーディネイターのこと、よね」
俺の話よりそっちかよ!!
ディアッカの苛立ちがさらに募った。
「キラから聞いたんだよ!ていうかお前、俺の気持ちよりそっちに反応すんのかよ!」
ディアッカの怒声にミリアリアがビクッと肩を震わせた。
ミリアリアは戸惑っていた。
以前のように頭ごなしに何か言われているわけではないけれど、ディアッカが酷く苛立っていることは分かる。
でも、どうすればいいかわからない。
ミリアリアはディアッカに守られたくないわけではないのだ。
もちろん心配されて迷惑なはずもない。
でなければ別離の期間、あれだけディアッカを想って泣いたり苦しんだりしなかっただろう。
ダストコーディネイターの件は、きっとキラあたりが気を利かせてディアッカに話したのだろうが、ゆっくり話す暇がなかっただけで特に隠しているわけでもなかった。
ミリアリアはとにかく混乱していた。
こんな時に、せっかくまた会えたのに喧嘩がしたいわけじゃない。
それなのに、何から言えばいいのかわからない!
しかし次のディアッカの一言が、ミリアリアの心にざくりと突き刺さった。
「俺のことほんとに好きなわけ?お前はさ!」
だん!
ディアッカが苛立ちのあまり壁を殴った。
ミリアリアの顔から、表情が一気に抜け落ちた。
「わたし…ちゃんと言ったよね?好きって。」
ディアッカはハッと我に返った。
俺は今、何を言った?
俺のことを本当に好きか、って?
「…信じてなかったの?」
無表情なミリアリアが発する、感情が抜け落ちた声。
「違う!今のは…」
パン!
乾いた音が室内に響いた。
「私だって頼りたいし守られたいよ!好きなんだからそんなの当たり前でしょう?でも、ディアッカいなかったじゃない!近くにいなかったじゃない!」
ディアッカは打たれた頬を押さえ、言葉を失いミリアリアを見た。
ミリアリアは泣いていた。
大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「私だってディアッカを守りたいと思って何がいけないのよ!私がテロに巻き込まれたらすぐ地球に来られた?発作起こしたらすぐ病院に来られた?出来ないじゃない!いつ戦争が始まるかも分からない、ブルーコスモスに狙われちゃうかもしれない中で、地球に降りてきて無事でいられる保障がどこにあるのよ?」
ミリアリアはいつしか立ち上がっていた。
「今だってそうじゃない!この作戦が終われば、ディアッカはプラントに戻るんでしょ?そしたらもう、次にいつ会えるかなんてわからなくて、それだけでもこんなに苦しいのに、不安なのに…ディアッカが…」
「ミリィ…」
ディアッカはミリアリアの涙を拭おうと腕を伸ばした。
「触らないでよっ!」
そこまで言って、ミリアリアは息が苦しくなっていることに気づいた。
ディアッカの前で倒れる訳にはいかない!
この後に及んでもミリアリアは、ディアッカに余計な心配をかけたくなかった。
一旦深呼吸をする。
「ディアッカが死んじゃったら…いなくなっちゃったら、私どうしたらいいの?」
声が震える。
息苦しさももう限界だった。
そのまま踵を返して部屋を走り去るミリアリアを、ディアッカはただ無言で見送ることしかできなかった。
想いをぶつける事も、時には必要。
2014,6,10up