「ミリアリアを、無くすのが怖い。また自分の手の届かない場所に行っちまったら、もし二度と会えなくなっちまったら、って思うと、どうしようもなく怖くなった。
だが俺は隊長だ。今すぐにここを放り出してあいつを助けには行けねぇ。
そう思ったら…あいつに何て言えばいいか、分かんなくなった。」
ディアッカが心の最奧に持つ、喪失の恐怖。
それはかつて経験した母親との別れに起因しているのだが、シンはもちろんそんな事情を知る由もなかった。
「こんな状況で、あいつとの約束を俺は守れるのか?
なんであいつは、この状況で、あんな笑顔で俺を信じるなんて言えるんだ?マジ、わかんねーよ…。」
堰を切ったように自らの苦悩を口にするディアッカを、シンはじっと見つめていた。
無くすのが、怖い。
その想いは、かつて目の前で家族を亡くしたシンにも痛い程分かる。
ただ、自分と目の前の男が決定的に違うことがある。
シンはぐっと拳を握りしめ、口を開いた。
「……無くしたら、探せばいい。そう言う約束なんでしょ?」
ディアッカがはっと顔を上げ、シンを見上げる。
「隊長はまだ、無くした訳じゃない。ミリアリアさんがどうなるかなんて、分かんないじゃないですか。
ワクチンが開発されて届くまで、一ヶ月もかかる訳じゃないはずです。
そしたら、隊長は何を置いてもすぐにミリアリアさんを探しに行けばいい。
俺も、出来ることは手伝います。月にはルナだっている。本国にはジュール隊長達だっているし、アスランさんだっている。
だから…もっと周りを見てみたらどうですか?隊長やミリアリアさんの事、助けたいって思ってる人、ちゃんといるんですから。」
「シン…」
どこか呆然とするディアッカを、シンは赤い瞳でしっかりと見据えた。
「ひとりで決めちゃうのは、ミリアリアさんだけじゃなくて隊長も一緒ですよ。
信頼している仲間を頼る事は間違いじゃないし、それは立場が隊長だろうと司令官だろうと同じだと俺は思います。
それとも、全部ひとりで背負うつもりでいたんですか?俺やジュール隊長達の事、そんなに信用出来ませんか?」
かつてAAでイザークがミリアリアに言った、“困った時に、信頼できる相手に助けを求めることのどこがいけないのだ?”という一言。
言っている本人はもちろん、ディアッカもその事を知る由などなかったが、ほぼ同じ事をシンは口にしていた。
「……あいつとの約束。あれには続きが、あるんだ。」
「え?」
なぜ、忘れていたのだろう。
手放して、それで終わりではない。
守る事が出来ない、助けに行けないと悲観しているだけでは、あいつとの約束は果たせない。
「俺はあいつに言った。例え手放しても、それで終わりじゃねぇ。
不安要素を全部ぶっ潰して、何度でもあいつを捜しに、迎えに行く。
そして、死ぬまで一緒に生きて行く、ってな。」
「隊長…!」
先程までとは明らかに違うディアッカの声に、シンは思わず体に入れていた力を抜く。
「シン、サンキュ。お前がいなきゃ俺は立ち止まったまま何も出来なかった。
また……だらしねぇ真似、しちまうとこだった。」
ディアッカはすっくとソファから立ち上がる。
その紫の瞳に宿るのは、軍人としての誇りと、大切なものを守ると言う決意の光。
シンは、そんなディアッカを見上げ、つい思ったままの言葉を口にしていた。
「ミリアリアさんに、もう一度連絡してちゃんと自分の気持ちを話してみたらどうですか?」
ディアッカはその言葉に、ゆっくりと頷いた。
「ああ。まずはイザークかラクスに連絡を取る。テロリストとの交渉の結果が知りたい。
ミリアリアには…その後だ。あいつ、さっきの通信の後倒れたらしい。」
「え…!!」
驚いた顔をするシンに、ディアッカは少しだけ切なげに笑ってみせた。
「あいつさ、昔ダストコーディネイターのテロ現場に居合わせたショックで一時期体調を崩してたんだ。
今回もきっと、相当思い詰めた結果倒れちまったんだと思う。
傍に居てやれるのが一番だけど、それが出来ないならせめてモニタ越しでも、もう一度きちんと話をするさ。その為にも、状況は知っとかねぇとな。」
リミットは明日に迫っていた。
本国ではきっとラクス達が、アスランやイザークとともに、あらゆる可能性を考え対策を練っている。
父であるタッドも、全力でワクチンの生産に携わっているはずだ。
ーーーミリアリアは、渡さない。
ディアッカはキッと前を見据えると、通信機を引っ張り寄せ、温くなったコーヒーに口を付けた。
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今までならば、迷って悩んでいてもミリアリアの優しさに包まれることで自らを
取り戻して来たディアッカ。
でも今二人は離ればなれです。
そんな中、シンの言葉に助けられ、大切な事を思い出し自らの力で立ち直り
再び前を向くディアッカを書きたくて、このようなお話になりました。
シンもまた、ディアッカと行動を共にするようになり確実に成長しています。
前作までとは違う、それぞれの成長を少しでも描けていたらいいのですが…
拙い文章ゆえ伝わりづらいかもしれませんが、ご容赦下さい;;
2015,3,19up