「皆様、遅い時間にご苦労様です。」
ラクスが真剣な表情で、集まった面々を見渡した。
メンバーは、アマギにサイ。
キラ、アスラン、イザーク、メイリン、バルトフェルド。
そしてラクスに呼ばれミリアリアの元からこちらに駆けつけたシホと、タッド・エルスマンの姿もあった。
「タイムリミットは、明日です。タッド様、ワクチンの状況は?」
「ウィルスの解析は終了しています。現在はラボにて抗体の精製と検査を。あと数日で完成するでしょう。」
ラクスは頷く。
「…先程、ミリアリアさんから申し出がありました。明日、プラントを出ると。」
沈痛な空気の中、シホが俯きメイリンが泣きそうな表情になる。
イザークは一切の表情を消しており、タッドもまた、表情を変えないままだった。
「ワクチンの開発が終わるまで、なんとかリミットを延ばす案も提示致しました。
それでも、ミリアリアさんの意思は変わりませんでした。
万が一にも、ウィルスをばら撒かれるような危険はおかしたくない、と。」
「…私も、事前に話は受けました。彼女の気持ちを無駄には出来ない。ワクチンの開発を出来る限り急ぎましょう。」
タッドがラクスに頷く。
「…ワクチンがあれば、我々も動くことが可能ですか?」
それまで黙っていたイザークが口を開いた。
「ああ。可能だ。」
「…よろしくお願いいたします、タッド様。」
ラクスは、全員を見回した。
「ミリアリアさんは現在、体調を崩され軍本部の病院におられます。
先程酸素マスクは外されたようです。
ただ、鎮静剤の効果もあり、このまま明日までお休み頂くようになります。」
そこまで、ひどい発作だったのか!?
イザークの眉が顰められた。
「ドクターストップはかかっておりませんが、念の為の措置として。サイさんに、ミリアリアさんとともにクサナギに向かって頂きます。」
サイが、ゆっくりと頷いた。
「ミリアリアさんの目が覚め次第、不明艦にいるセリーヌ・ノイマンさんには私から話を致します。
それまで、各自待機をお願いいたします。」
と、不意にメイリンが固い表情で立ち上がり、手元の端末のキーボードを叩いた。
シホの表情が厳しいものとなり、ラクスもまた真剣な表情で頷き一同を見回して唇に人差し指を当てる。
「…すみません、逆探知は…。ひとまず、回線のシャットアウトには成功しました。」
緊張したメイリンの声に、イザークは目を見開きシホを振り返った。
「シホさん、メイリンさん。ありがとうございます。やはり…この部屋も盗聴されていましたか。」
「そのようです。メイリン、逆探知は失敗だったのね?」
「はい…すみません」
小さくなるメイリンに、ラクスはにこりと微笑み首を振った。
「盗聴の事実が判明しただけでも大きな進歩ですわ。それに、メイリンさんが回線を遮断して下さったおかげで、この後の交渉の内容を敵に知られずにすみます。」
「ラクス嬢、これはどういう…」
話が見えないイザークに、ラクスは困ったように微笑んだ。
「わたくしがシホさんにお願いしたのです。この部屋が盗聴されているかもしれないので、調べて欲しい、と。」
「な…」
「ラクス!」
イザークとアスランが同時に声を上げた。
「“あの方”の諜報員がわたくしの周囲に潜んでいる可能性を考慮して、の事です。
シホさんに内密に、と頼んだのはわたくしです。どうか彼女達を叱らないであげて下さいね?イザークさん。」
「それは…そのような事は、ありませんが…しかし、なぜこの部屋までもが?!」
この執務室は、ザフト本部内、しかも最上階に特別に設置されたもの。
セキュリティのレベルも高く、おいそれと盗聴など出来る仕組みではないはずだ。
「それだけ…“あの方”はプラント内で力を持っている、と言う事ですわね。無論、内通者と言う存在もある事でしょうし、一概には何とも言えませんが。」
ザフト本部内のシステムに侵入出来る程の力を持つ、“あの方”とその仲間達。
イザークの背中に悪寒が走った。
「皆様にひとつ。ミリアリアさんの容態ですが、発作は軽くなかったものの既に意識は回復しております。
少しでもこちらに有利な交渉が出来るよう、盗聴の可能性を意識してあえて先程はあのようにお話させて頂きました。
今晩は護衛を付けて、エルスマン家系列の病院に宿泊頂くことになっています。ですのでどうか、ご心配なさらず。」
どこまでも先を見越していた聡明なラクスに、サイは内心舌を巻いた。
たおやかな外見からはそう見えないが、ラクスはやはりあの戦争の中心にいた人物だけのことはある。
「それでは、始めましょうか。サイさん、不明艦への通信をお願いします。」
ラクスの水色の瞳が、強い決意の光を放った。
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ついに、交渉が始まります。
2015,3,5up