41, 覚悟 3

 

 

 

 
「隊長!カーペンタリアから通信が入っています。…エルスマン隊長からです。」
本部に戻ったイザークにそう声をかけたのは、メイリン・ホークだった。
「ディアッカから?…分かった。隊長室に繋げ。それと、万が一通信が傍受されていないかのチェックを頼む。」
「了解です!」
 
 
メイリンはシホの教えもあり、また類い稀なる才能もあって瞬く間に情報処理のエキスパートに成長していた。
外部からのハッキングや盗聴、通信の傍受の探知などお手の物であり、イザークもその才能には内心感服していたのだった。
 
 
 
アスランを従え隊長室に戻ると、程なく通信が繋がり疲れた顔のディアッカがモニタの向こうに映し出される。
アスランがイザークとともにいる事には気付いているようだったが、それどころではないのか特段驚いた様子もディアッカは見せなかった。
 
『……イザーク。ミリアリアの言っていた事は本当か?』
「ああ。あと少ししたらラクス嬢がテロリストとの交渉に臨む。」
 
アスランは言葉もなく、淡々と会話を交わすイザークとディアッカを見つめる。
 
 
「……俺は、お前に約束した。お前のいない間、ミリアリアを守ると。その事を忘れたつもりも、約束を反古にするつもりも全くない。」
 
 
きっぱりとそう口にするイザークに、ディアッカは怒ったような、それでいて戸惑ったような表情を浮かべる。
 
『あいつが、ひとりで決めたのか?プラントを出るって。』
「ああ。俺も今日聞かされた。ラクス嬢から渡された許可証を使ってターミナルに入り、情報収集をしていたようだ。
きっと、それまでにも色々と考えてはいたんだろう。
誓って言うが、プラント側では、誰ひとりミリアリアをテロリストに渡すつもりなどなかった。全て彼女の意思だ。…俺も散々止めたが、無駄だった。」
 
『…そうか』
「それと。」
 
どこか悄然としたディアッカをイザークはじっと見つめ、口を開いた。
 
 
 
「ミリアリアが倒れた。」
 
 
 
ディアッカの顔色が変わる。
『倒れた?でもあいつ、さっきまで普通に…』
「過呼吸の発作だ。理由は…俺には分からん。」
ディアッカと再会して、一度起こしたのを最後にぴたりと治まっていたはずの発作に、ディアッカは言葉を失った。
『…あいつと話したい。どこにいる?』
「だめだ。」
イザークの冷たい言葉に、ディアッカの瞳に怒りが宿る。
『何でだよ!あいつは俺の…』
「彼女と何を話した?彼女は何と言っていた?ディアッカ。」
 
ディアッカの肩が、びくりと震えた。
 
 
「俺もシホも、ラクス嬢も。ミリアリアをプラントから出したくなどない。デイアッカ。お前は彼女の下した決断を、どう受け止めた?」
『…俺、は』
 
 
言葉を詰まらせるディアッカに、イザークは溜息をつき、アスランに目で合図をした。
「今から相手方との交渉に臨む。出来る限りミリアリアの安全を最優先に事が運ぶよう、ラクス嬢も俺も尽力するつもりだ。」
『イザーク、あいつは…』
「ミリアリアはまだ意識が無い。今連絡したところで話も出来ん。彼女にはシホをつけている。何かあれば連絡が入るはずだ。
…ディアッカ。俺は、お前とした約束を忘れたつもりはない。それだけ、覚えていろ。」
 
イザークは強い眼差しをディアッカに向けると、そのまま隊長室を出て行った。
 
 
「…ディアッカ。ミリアリアは鎮静剤で眠っている。発作は軽くはなかったが、命に別状はないそうだ。」
 
 
アスランの声に、ディアッカは顔を上げた。
「…俺達は、何が出来るんだろうな。」
ぽつりと呟かれた言葉に、ディアッカは少しだけ目を見開く。
 
 
「俺だってカガリを助けに行きたい。今すぐ。だが、俺はどうしたってザフトの、プラントの軍人で。ウィルス以前の問題なんだ。」
『アスラン…』
 
 
困惑したようなディアッカの声に構わず、アスランは言葉を続けた。
 
 
「コーディネイターとナチュラル。かつてナチュラル排斥を謳ったパトリック・ザラの息子である俺と、平和を願い、オーブの理念を身をもって娘に教え、託したウズミ・ナラ・アスハの娘であるカガリ。
目指すものが同じでも、どれだけ大切に想っていても、共にいる事は出来ない。そう思って俺は一度カガリから離れた。指輪まで、贈っておきながら!」
 
 
アスランは一息にそこまで言って、だん!とイザークの執務机を叩いた。
 
 
「お前にオーブでカガリとのこの先の話をされた時…正直、心がぐらついた。
俺は、カガリにも良く言われるけど…ぐるぐる、考えてばかりでなかなか前に進めないから。
それでも、オーブに降りて、軍属は違ってもまたカガリの傍にいられる。それだけで満足だった。満足しなければ、と思っていた。」
『アスラン。お前…』
 
 
アスランはモニタに映るディアッカを見上げた。
その瞳に宿るのは、決意の光。
 
 
「ワクチンが完成次第、俺は誰が止めようとカガリを助けに行く。それで軍を追われようと、構わない。
ただのアスラン・ザラになろうと、ザフトのアスラン・ザラだろうと。俺は俺だ。
お前が教えてくれたように、俺と父は、別の人間なんだ。
だからーーー俺は、行く。カガリを取り戻しに。そして今度こそ、本当の想いをカガリに伝える。」
 
 
『そう、か』
 
 
ディアッカはゆるゆると溜息をついた。
 
『情けねぇよな、俺ってさ。頭ん中ぐちゃぐちゃで、誰に何を言えばいいか、どうすりゃいいかも分かんねぇ。お前に偉そうな事言っといて、このザマだぜ?』
「…ミリアリアの処遇については、俺も交渉に立ち会うつもりだ。彼女の容態も含め、決定事項はすぐに連絡する。
お前も、ずっと兵士達の治療にあたってるんだろ?少しでいい、ソファでいいから休んだ方がいい。シンだっているんだから。」
『シン、か…。さっきあいつに、見損なった、って言われたばっかだわ、俺。』
「は?」
 
きょとんとするアスランに、ディアッカは気怠げに笑った。
 
 
『ミリアリアから通信を受けた時、シンも一緒にいたんだ。
あいつの言葉にたいした事も言えない俺に、あんなに不安な顔したあいつのこと見て、それでも自分の感情が優先なんですか、信頼に応える為に、何かしようとは思わないんですか、ってさ。胸ぐら掴まれて、怒鳴られた。』
 
 
アスランは、かつてミネルバで何度もシンとやり合った事を思い出し、こんな時だと言うのに苦笑を浮かべてしまった。
「シンらしいな…。だが今の俺にもきっと、あいつは同じようなことを言うだろう。まっすぐな奴だから。」
『ほんと、羨ましいくらいまっすぐだよ。あいつは。それに…強くなった。』
二人の間に、沈黙が落ちた。
 
 
「とにかく。何かあればすぐ連絡する。お前はまず自分の身の安全と休息を最優先した方がいい。
でないと…いざって時、動けないんじゃないのか?」
『…ああ。幸いこっちの兵士達も何とか落ち着いてる。少し…頭ん中整理するわ。サンキュ、アスラン。』
 
 
その言葉を最後に、カーペンタリアからの通信は切れた。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

親友と交わした約束を守りきれなかった悔しさを胸に抱えるイザーク。
それでもイザークはディアッカへの謝罪ではなく、自らの力で出来ることを探します。
アスランもまた、同じ境遇であるディアッカに胸の内に秘めた決意を吐露します。
そしてディアッカは…。

 

 

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