「何ぃ!?それで!?」
慎ましいノックの音とともにジュール隊隊長室に現れたアスランは、携帯に向かいがなりたてるイザークの怒声に驚いた表情を浮かべた。
「応急処置はできるな?すぐに軍の病院に向かえ!俺も行く!」
何かあったのか?
携帯を手に立ち上がったイザークが、アスランに気付いた。
「…イザーク?」
イザークはつかつかとアスランの元に歩み寄り、押さえつけるような声で一言、告げた。
「ミリアリアが倒れた。過呼吸の発作らしい。」
アスランは言葉を失った。
「シホが本部内の病院に搬送してくれている。…ディアッカと何を話したのかは知らんが、きっと何かあったんだろう。」
ミリアリアが明日プラントを出る事は、今しがたキラから聞かされたばかりで。
アスランは状況について行けず、ただ俯き拳を握りしめた。
テロリストに捕らえられているカガリを助ける為、そしてプラントへのバイオテロを防ぐ為にテロリストの元に赴くと決めたのだ、とアスランはキラから聞かされていた。
だが、あれだけ彼女を大切にしているディアッカがすんなりその事実を認め、それを許すともアスランには到底思えなかった。
「俺も、行く。」
「アスラン…?!」
意外な言葉に、イザークの表情が変わった。
「俺だって、カガリを今すぐ助けに行きたい。だが、ワクチンの無いままではそれも叶わない。
それでも…少しでもいい。彼女の助けになれる事が俺にもあるかもしれない。
だったら、じっとしてなんていられないだろ?」
イザークは決然としたアスランの顔をじっと見つめ、頷いた。
「よかろう。ついて来い。」
「…ああ。」
足早に隊長室を後にするイザークの背中を、アスランは無言で追った。
「シホ!ミリアリアは?」
急ぎ足で現れたイザークとアスランに、シホは泣きそうな顔を向けた。
「発作が思いのほか酷くて…。今、酸素マスクを着用して鎮静剤で眠っています。」
「明日までに、動けるのか?」
「一晩しっかり休養を取り、無理をしなければ、とドクターが。隊長、それよりディアッカは?連絡は無いのですか?」
「いや、無い。発作の件はここに来るまでの間にキラに伝えた。この後ラクス嬢がセリーヌ・ノイマンとミリアリアの処遇について交渉するそうだ。
…内容次第では、おれからあいつに連絡をする。」
シホはその言葉に、悲しげに俯いた。
「…約束を破る事が、怖い。そう、言ってました。ミリアリアさん。」
「約束を?しかし、さっきの話では…」
「確かにミリアリアさんとディアッカの間では、先程の話にあったような約束が交わされていたんでしょう。
それでも!怖くないはずなんて無いんです!!」
「シホ…」
イザークをキッ、と見上げるシホの紫の瞳には、涙が浮かんでいた。
「いくら絶対の信頼を寄せていても。今の状況が分からないミリアリアさんではありません。
どれだけ信じていようと、どんな事態が待っているか分からない。それでも、大切なものを守る為にはプラントを出るしか無い。
一番支えて欲しい、頼りたい相手は遠い地球にいて、ミリアリアさんはひとりできっと必死に考えて!
だから…こんな…。どうして、こんなになるまで…」
ぽろりとシホの瞳から涙が零れ落ちる。
「……ディアッカと何を話したのかは、聞いたのか?」
アスランの言葉に、シホは首を振った。
「ミリアリアさんは、ただディアッカを案じる言葉しか口にしませんでした。
信じてる、と自分の気持ちを押し付けて、ディアッカの言葉は全部否定してしまったと。
あんなに大変な思いをしているディアッカを悩ませて、傷つけた、と悔いていました…」
イザークはぎゅっと目を閉じ、呼吸を整えた。
「…ワクチンが出来上がるまでは、確かに俺たちに出来ることなど限られている。
シホ、お前はミリアリアの意識が戻るまでここに残れ。アスランは俺とともにラクス嬢の所へ。
少しでも有利な条件で時間稼ぎが出来るよう、交渉に立ち会う。」
「イザーク?!」
「ディアッカがいない今、俺たちに出来ることはその位しか無かろう?!…出来ることをするんだ。今は、な。」
だん!と拳を壁に打ち付け、イザークが苦しげに呟いた。
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ミリアリアの想いに触れて涙するシホ。
無力感に苛まれるアスランと、それでも止まる事をやめないイザーク。
みんな、試練の時です。
2015,2,25up