舞踏会のその後に 4

 

 

 

 
「ジュール隊長?どうしたね?」
「イザークさん?気分でもお悪いのですか?」
 
 
大きく開いたドアの入口で俯きプルプルと震えるイザークに、ラクスとバルトフェルドが不思議そうに声を掛ける。
「隊長?」
心配そうなシホの声に、イザークははっと我に返り顔を上げた。
そこには、いつもと変わらぬ可憐なラクス・クラインと精悍な風貌の砂漠の虎。
 
 
 
そして、大きな執務机の上には。
大小様々の、フットマッサージ機が所狭しと並べられていた。
 
 
 
「あの、ラクス様。お取り込み中でしたら出直しますが」
その様子に目を丸くしながらも、きりりとした声でシホがそう気遣うとラクスはにっこり微笑んで首を振った。
 
「お二人がいらっしゃると言うのに申し訳ありません。バルトフェルド隊長と議論していたらつい夢中になってしまって…」
「立ちっぱなしの式典ばかりで、足のむくみがひどいと姫から相談を受けてな。
今まではキラが用意していたそうなんだが、あまり効きが良くないと言う事で私のおすすめを持参していたのだよ。」
「キラのは、とっても気持ちがいいのですけれど…根本的な解消には至らなかったんですの。そうですわ、シホさんはこの中でどれかおすすめはございますかしら?」
「え、あの、私、ですか?」
 
突然全く任務と関係のない話を振られ、狼狽えるシホ。
そのやり取りを聞きながら、イザークは脱力感に崩れ落ちそうになる体を必死に奮い立たせていた。
 
 
執務室で何を紛らわしい会話をしてるんだ貴様らはっ!!!
 
 
かのラクス・クラインでなければ青筋を立てて怒鳴りつけるところだったが、なにぶん相手が悪すぎた。
とにかく、任務失敗の報告だけすませてこんな所からはさっさと立ち去ろうそうしよう、とイザークはぎゅっと拳を握りしめる。
その時、イザークの携帯が鳴った。
 
 
 
***
 
 
「ミ、ミリアリア、その薔薇…」
震える声でディアッカがそう問いかけると、ミリアリアはきょとんとした後ぱぁっと笑顔になった。
 
 
「すっごく綺麗でしょ?今日ね、ホテル・オリエントで領事間主催の会合があったの。
そこで使った花なんだけど、捨てるって聞いてメイドさんから分けてもらったのよ。だってこんなに綺麗なんだもん、勿体ないじゃない?」
「あ、ああ。」
「でもよく考えたら、うちに飾っても朝と夜しか見られないし、だったらこういう広いお部屋に飾った方がいいかなって思って。軍本部に届けなきゃいけない書類を渡して、ここへ来る許可も本部の入口でもらって来たのよ。」
「…うん」
「だから、さっきシホさんにお花持って行くねってメール入れたんだけど…あ、でも何本かは分けて欲しいよね?うちにもちょっとくらい飾っても」
「……ホテル・オリエント?会合?」
 
 
ミリアリアの言葉を突然ディアッカが遮る。
それは、その花束は、もしかして。
 
「うん。プラントの報道関係者と外交官達との…」
「それ、もしかしてでかくて白っぽい花瓶に生けられてた?」
「え、うん、そう。それをメイドさんが処分するからって他のと一緒にワゴンで運んでて、それで…」
「———ビンゴ!!さすが俺の奥さんだぜ!」
「はぁっ?!」
 
花束ごと抱き締められ、ミリアリアは目を白黒させる。
 
「悪い、ちょっとこの青い薔薇だけ先にもらっていい?」
「へ?あ、う、うん、刺に気をつけてね?」
「サンキュ。あ、その辺座ってて。速攻終わらせるから。」
「…うん。」
 
そうして薔薇の花弁を一枚ずつ丁寧にめくって行くディアッカの指を、ミリアリアは不思議そうな目で眺めていた。
 
 
そして数十分後。
 
 
「…っしゃああ!!ビンゴ!!」
装着していたヘッドフォンを投げ捨て子供のように歓声を上げるディアッカを、ミリアリアはぽかんと見つめた。
すかさず携帯を取り出し、ディアッカは手早く操作するとそれを耳に当てる。
 
「あ、イザーク?俺。もうラクス嬢に報告とかしちゃった?…マジ?じゃとりあえず出直せよ。盗聴器、見つかったし解析もバッチリだぜ?これなら立派に立件まで出来る。」
 
………盗聴器?立件?なんでただの薔薇からそう言う話になるの?
ますます訳が分からないミリアリアをよそに、ディアッカは上機嫌で通話を終え、つかつかとミリアリアの元へとやって来た。
そして、先程よりもさらに強くぎゅっと抱き締められる。
 
 
「ちょ、と、ここ、隊長室…っ!」
「ああもう、お前ってホント…たまんねぇ。」
「は?」
「やっぱりお前は、俺が欲しい時に欲しいものをくれる。さっきも言ったけど、俺の奥さんてやっぱ最高。」
「あの、話が見えな…ん、ぅ」
 
 
色々と説明を求めたいミリアリアだったが、それは叶わなかった。
噛み付くように落とされたディアッカの唇に自分のそれを塞がれ、熱い舌に侵入を許してしまい。
角度を変え何度も落とされる唇と、意識ごと絡めとるような舌使いに翻弄され、ミリアリアは微かに震えながらいつしかディアッカの逞しい腕に必死でしがみついていたのだった。
 
 
 
***
 
 
 
「隊長、どうしてさっき、あんなに狼狽していたんですか?」
 
 
ディアッカからの連絡を受け、早々にラクスの執務室から退室したイザークとシホは、ジュール隊隊長室に続く道を並んで歩いていた。
途端、はあぁぁ…と深い溜息を漏らすイザークを、シホはきょとんと見上げる。
 
 
「…まぁあれだ。人間、知らないですめばその方がいい知識もある。そう言う事だ。」
 
 
自分も決して“そちら方面”に明るいとは言えないが、仮にも成人した男であり、そちら方面に明るすぎる親友がいれば嫌でも知識は得られてしまう。
だからと言って、それを大切な恋人に懇切丁寧に説明するなど、イザークには出来るわけが無かった。
特にシホは、複雑な事情もあってそう言った事に関しては疎いし、ある意味トラウマに近い潔癖さもある。
もっとも、その潔癖さも疎さも、イザークの前では甘く溶けて消え去ってしまうのだが。
 
「そんな風に言われると、ますます知りたくなるんですけど?…ですから、ちゃんと教えて下さい!」
 
薄紫の瞳で拗ねたように見つめられ、そのかわいらしさにイザークの心臓がどきん、と跳ねる。
 
 
…いっそディアッカ辺りに調達させて、実技で教え込むか?
 
 
半分自棄になってそんな事を考えながら隊長室のドアを開けたイザークの目に飛び込んで来たのは、床に散らばった薔薇の花と、濃厚としか言いようの無いキスシーンの真っ最中な、自分の副官とその妻の姿、で。
 
「……っ」
その光景を目の当たりにしたシホが息を飲み、かあぁっと顔を真っ赤に染める。
イザークの拳が、爪が食い込む程に固く握りしめられ。
 
 
「お前ら、ここをどこだと思ってやがるっっ!!!」
 
 
きぃん、と耳に響く恋人の怒声を聞きながら、昨晩の自分たちの行為を思い出してしまったシホは、違った意味で顔を赤らめて俯いたのだった。
 
 
 
 
 
 
 

f02

全4話、いかがでしたでしょうか?
御都合主義だったりイザークが色々な意味で崩壊寸前だったり、DMの出番が
少なかったりと心配な要素もありますが、なにげに庶民的なラクスが書けて楽しかったです(●´艸`)

コーディネイターとは言え、立ちっぱなしじゃ疲れるし足だってむくみます
よねきっと。
女性らしい悩みじゃないですか(やけっぱち)!
仮面舞踏会の続編との事で、ちょっぴりギャグタッチを意識してみましたが、
笑えなかったらごめんなさい;;

リクエストを下さったぴぷ様、本当にありがとうございます!
 
気付けばもうすぐ12000hitです。
いつも私の拙いお話を読んで下さる全ての方々、そしてリクエストを下さった
ぴぷ様にこのお話を捧げます!

これからも、どうぞよろしくお願い致します!!
 

おまけの小噺(ややR15)は、こちらからどうぞ。

 

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2015,2,21up