舞踏会のその後に 3

 

 

 

 
ホテル・オリエントを後にしたミリアリアの顔には、隠しきれない笑顔が浮かんでいた。
手には、大きな花束。
先程のメイドが丁寧にも花瓶から取り出したものを持ちやすいように用意してくれたものだった。
 
「花がお好きな方にこうやってお分けする事、ここだけの話、割とよくある事なんですよ。
まだこんなに綺麗なのに、って言って頂けると、私どもも嬉しくなります。」
 
そう言ってにっこりと笑うメイドに、ミリアリアは笑顔で礼を言いありがたく花を分けてもらい、サイも同じように花を包んでもらった。
 
 
 
ミリアリアは薔薇をメインに選んだ花束を見下ろし、嬉しそうに顔を近づけた。
中にはあの珍しい色合いの薔薇も含まれている。
と、ミリアリアはこの薔薇をどこに飾るか決めていなかった事に気付いた。
自宅に、とも思ったが、よく考えれば自分もディアッカも昼間はほとんど留守にしているのに、こんな豪華な花束だけ置いておくのも勿体ない。
総領事館も考えたが、そちらの分はサイが持ち帰っている。
 
ロイヤルブルーや濃紫、深紅に白。こんな色とりどりの薔薇を置いても遜色が無いような場所……。
 
ミリアリアはひとしきり立ち止まってうーん、と首を捻る。
そして、心を決めたかのように前を向き、花束を抱えて颯爽と歩き出した。
 
 
 
***
 
 
 
同時刻。
イザークとシホは、ザフト本部最上階にあるラクス・クラインの執務室の前に立っていた。
ディアッカは、もう一度受信機の解析をしてみると言ってジュール隊隊長室で端末とにらめっこをしている。
 
結局、あの後三人で散々探したものの、盗聴器も薔薇も発見出来なかった。
さすがに現在進行形で使用されている部屋には入室も出来ず、まさか同じホテルで、しかもミリアリアのいる部屋に目的のものがあるなどとは3人とも知る由もなかった。
 
「隊長。どう報告されるおつもりですか?」
 
疲れた声でシホが尋ねる。
心なしか、昨日負った踵の傷まで疼いているような気がした。
 
「どうもこうも…ありのままを報告するしかあるまい。ディアッカが限界まで解析してみると言っているのだから、それが終わり次第再度報告に上がる形になるだろうな。」
 
イザークもまた疲れた様子で溜息をついた。
ラクス・クラインはイザーク率いるジュール隊に多大なる信頼を寄せている。
砂漠の虎率いるバルトフェルド隊と双璧を成す、ザフトの精鋭部隊。
その隊を統括する隊長として、今回の任務の失敗はイザークにとっても屈辱であった。
 
 
ーー盗聴器の行方は絶望的だが、ディアッカが解析している受信機の中身に望みをかけるしか無い。
 
 
そう前向きに頭を切り替え、重厚な扉をノックしようと手をあげたイザークとその隣に立つシホの耳に突如、鈴を転がすような可憐な声が飛び込んで来た。
 
 
 
「そんな…無理ですわ、そんなに大きい…」
 
 
 
イザークの手が、ノックをする寸前でぴたり、と動きを止めた。
 
 
「大きいのはお好みでないですか?姫。」
「バルトフェルド隊長のものは、かたちが…ちょっと…」
「ほう。この凹凸こそが至高なのですがな。それとも、やはりヤマト准将の…」
「キラのはもっと小さいですわ。でも、大きさはともかく形は理想的ですわね…毎回、とても気持ちがいいですもの」
 
 
プルプルと震えだしたイザークの手に、シホは訝しげな視線を向ける。
「あの、隊長?」
しかしイザークの耳にシホの声は届かない。
 
大きい。かたちがちょっと。凹凸こそが至高。小さいけど理想的な形。
………毎回、とても気持ちいい?????
 
イザークとて、晩熟ではあるがれっきとした男だ。
そして幸か不幸か早熟な親友のせいで、晩熟なのに経験よりも知識だけは豊富に与えられる環境にあり。
さらに、現在はれっきとした恋人もいて(まさに今、隣にいる)、晩熟ながらそれなりに経験も重ねて来た。
 
そんなイザークでも反応出来てしまう、重厚なドアの向こうから漏れ聞こえる露骨な会話。
 
 
「隊長?入りづらければ私がノックしましょうか?」
「ば!ま、ままま待て!」
 
 
慌てふためくイザークに、シホはきょとんとする。
イザークしか男を知らない(かくいう本人もシホしか知らないのだが)恋人を、あのような不埒な会話を交わす二人に関わらせる訳には断じて行かない!
 
 
「まぁ!なんですの、これは…?」
 
 
恐れと、ほんの少しの期待が入り交じったラクス・クラインの声にイザークははっと顔を上げた。
 
 
「プラントでは手に入らないものだそうで、ダコスタ君が地球に降りた時に調達して来たものですが…姫には子供騙しの玩具かもしれませんな。」
「こんな…こんな風に動くだなんて、わたくし初めてですわ。……気持ちが、よさそうですわね」
「ふふふ…このヴァイブレーションは病み付きになるでしょうな。早速、試してみましょうか?」
「え…?今、ここで、ですの?」
「こういう事は早い方がいい。さあ姫、足をこちらに…」
 
 
ちょっと待てコレはどんな展開だ!!!!!おもちゃ?ゔぁいぶれーしょんて、病み付きってなんだそりゃ?!
漏れ聞こえてくる会話の内容に、イザークは腰を抜かしそうになった。
キラと言うものがありながら…虎の魔の手に堕ちるのか?!あの清純で可憐な歌姫が?!
と言うよりこの緊急時にキラはどこで何をしている?
ああ、なぜディアッカを隊長室になぞ置いて来てしまったのだろう。
こういう事に場慣れしているあいつがいれば、ラクス嬢の貞操の危機を救えるかもしれないというのに!
青くなったり赤くなったりをせわしなく繰り返すイザークに、声をかけるのを躊躇っていたシホが意を決して口を開いた。
 
「隊長、ノックしますよ?」
「おっ!おまっ!!ででで、出直すからやめろ!」
「は?」
 
普段ならばあり得ない言葉に、シホはますます訝しげな表情になる。
…そんなに、任務の失敗を報告するのが嫌なのかしら?
確かにジュール隊において、与えられた任務が失敗に終わる、と言うのは珍事に近い。
だが今回ばかりは内容も特殊すぎたし、受信機側に多少なりとも何かしらが残されているのだから完全なる失敗ではないはずだ。
シホは、勇気づけるように優しくイザークに向かって微笑んだ。
 
 
「イザーク。きっとディアッカが何とかしてくれます。ラクス様と約束した時間も既に過ぎていますし、中にいらっしゃるのがバルトフェルド隊長であれば何かしらの解決策を伝授して下さるかもしれません。
とにかく、ここまで来たのですから報告だけはしてしまいましょう?」
「おいシホ、ちょ…」
 
 
受信機より何より、今この瞬間をディアッカに何とかして欲しいと心底願うイザークの目の前で、シホは無情にもドアをノックし、自分たちの来訪を告げる。
 
「はい、どうぞお入り下さいな」
 
目の前の恋人とは違った意味で敬愛する人物の鈴が鳴るような声。
イザークの端整な顔に、絶望としか形容出来ない表情が浮かんだ。
 
 
 
***
 
 
 
「やっぱ…いまいち聞きとりづれぇな」
ヘッドフォンを外し、ディアッカは冷たくなったコーヒーを口に含んだ。
本部のコンピューターで解析した受信機の中身は、自宅に持ち帰った際に解析したものより遥かに音質もよく、これならば何とか証拠になりうる、かも、という所まではこぎつけた。
だが、捜査令状をすんなり取れるかどうかは微妙で。
もう少しなんとかならないか、と優秀な頭脳をフル回転させうーん、と考え込んでいたディアッカの耳に、控えめなノックの音が飛び込んで来た。
 
「あ?んだよ、この忙しい時に」
 
一瞬無視しようかと思ったが、在室中の表示をシホがドアに掛けて行った事を思い出し、ディアッカは渋々腰を上げ、ドアを開いた。
 
 
「こんにちは、シホさ…あれ?ディアッカ?」
「な、ミリィ?!どうしてここに…」
「ザフトに届けないといけない報告書があってね。それでちょっと…」
「ーーーおい、お前、それ…」
「え?」
 
 
ディアッカは、ミリアリアが腕に抱えた色とりどりの薔薇をぽかんと見つめる。
その中には、先程までディアッカ達が散々探していたロイヤルブルーの薔薇が数輪、その美しい姿を主張するように揺れていた。
 
 
 
 
 
 
 

f02

あの…何かいろいろすみません…特にイザークファンの方…(土下座)
ギャグタッチのつもりが、半分くらいただのイザークのエロ妄想回と
なってしまいましたorz
もちろん知識を授けたのは彼の大親友です(笑)

 

 

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2015,2,20up