舞踏会のその後に 2

 

 

 

 
かたん、とタブレット型携帯端末といくつかの書類をテーブルに置き、ミリアリアはふぅ、とひとつ息をついた。
「それにしても綺麗なホテルね…やっぱり新しいからかしら?」
誰にともなくそう呟いたミリアリアは、懐で携帯が震えている事に気付き、慌てて通話ボタンを押した。
 
 
「もしもしサイ?どうしたの?」
『おはよ、ミリィ。もう会場にいるの?』
「うん。ホテル・オリエントって結構評判になってたじゃない?仕事とは言えせっかく中に入れるんだし、早めに現地入りして準備しちゃおうと思って。」
 
 
本日、ここホテル・オリエントでは在プラント・オーブ総領事館主催で、プラントの外交担当および報道関係者向けの会合が開かれる事となっていた。
この会合はミリアリアが発案したもので、カガリの了承を得て参加者を募った所、なんと領事館内の会議室に収容しきれない程の申し込みが来てしまった。
そのため急遽、サイがこのホテル・オリエントの部屋を押さえてくれたのだった。
 
会合の内容は、プラントにおける総領事館の役割や、オーブ連合首長国が今後プラントに向けてどのようなヴィジョンを描いているかのアピール。
特別報道官として総領事館に勤務するミリアリアは、発案者と言う事もありこの会合をアマギから任されていた。
外交も絡む事もあり、サイもサポートに入ってはいたが、基本的に今日の全てを取り仕切るのはミリアリアだ。
責任感の強いミリアリアは、いつに無く張り切っていた。
 
 
『こんなに早くから出て来て、ディアッカは大丈夫だったの?』
「うん、それがね、ディアッカも何だか急ぎで片づけないといけない任務があるとかで私より早く出かけちゃったの。だから心配いらないわ。」
『そう。じゃあ俺は開始30分前にはそっちに行くようにするからさ。悪いけど会場の方、頼むね?』
「うん、気をつけて来てね。」
 
 
そうして通話を終えると、ミリアリアは改めて室内を見渡した。
清潔そうなカーテンがかかる窓からは明るい陽の光が差し込んでいて、人数分用意された簡易テーブルや椅子もよく磨き上げられている。
プロジェクターも最新のものが用意されており、動作確認をすませたミリアリアは満足げに頷いた。
 
と、ミリアリアはどこか物足りなさを感じ、首を傾げる。
清潔感溢れる、明るい部屋。
最新型の機器。
でもーー何か、何と言うか…。
 
 
「あ」
 
 
合点が行ったようにミリアリアは声を上げる。
そして、部屋のキーを手にすると足早にその場を後にした。
 
 
 
 
「あの、すみません!」
廊下をうろうろとしていたミリアリアは、ワゴンを押すホテルのメイドを見つけ思い切って声をかけた。
「はい?」
ラクスに良く似たピンク色の髪にそばかすがチャーミングなメイドは、突然現れたミリアリアに驚く様子も無く小首を傾げた。
 
 
「あ、あの…その花、もしかして処分されるものですか?」
 
 
ワゴンに乗せられていたのは、大小いくつかの花瓶とそれに生けられた花、だった。
「あ、はい。当ホテルでは数日おきに飾らせて頂いているお花を少しずつ入れ替えておりまして。
こちらは昨日まで広間や客室に飾られていたものなのですが、ちょうど今日が入れ替えの日となっております。なにか…」
「あのっ!図々しいお願いで恐縮なんですが、この中のお花、いくつかお借り出来ませんかっ?!」
 
唐突な懇願に、メイドは目を丸くした。
 
「この先の会議室で…今日会合があるんですけど、今部屋を確認したらちょっと殺風景だったんです。
会議室だし普段はお花なんて置かないのかもしれないんですけど、会合の間だけでもいくつか花を置かせて頂ければお部屋も華やぐと思うんです。
でも、今さら花を準備する時間もないし、その、無理ならいいんですけど…」
 
そう、ミリアリアが先程感じたのは、あまりにも殺風景過ぎる会議室への違和感だった。
オーブは自然も豊かで、一年中何かしらの花が咲いているような国だ。
そんなオーブの事をPRするのに、花の一つもないなんて、とミリアリアは思い、何とか今からでもそう言ったものを用意出来ないかと従業員を捜していたのだ。
 
 
「…かしこまりました。使い古しになってしまいますが、この中のものであれば是非お使い下さい。」
「本当ですかっ!?」
ぱぁっ、と顔を輝かせるミリアリアに、メイドはにっこりと頷いた。
 
 
 
 
「ミリィ、この薔薇変わった色だよね?ホテルで用意してくれたの?」
プロジェクターの近くに置かれた一際大きな花瓶と花束に、サイは驚いた顔を見せた。
「あ、うん。まぁそんな所かな。あと二つ、お花を置いたんだけどどうかしら?
この薔薇はプラントで品種改良されたお花なんですって。あっちの花はオーブでもよく見る品種にしてみたの。
あんまり殺風景でも良くないと思ったんだけど…要らなかったかな?」
「うん、いいと思うよ。やっぱり女性の目線が入ると違うよね、こういうのってさ。」
 
サイの言葉に、ミリアリアは笑顔でロイヤルブルーの薔薇の花弁をそっと撫でた。
 
 
ーーーその薔薇こそが、現在同じホテルの別フロアで、ディアッカ達が血眼になって探している“盗聴器付き”のものだなどと、ミリアリアは知る由もなかった。
 
 
 
 
 
昼食を挟んだ会合が無事終わり、最後の客を送りだすとミリアリアとサイはほっと息をついた。
 
 
「質疑応答、思ったより時間がかかったわね。」
「うん。でもさ、それだけプラントのジャーナリストや外交官達がオーブや地球に興味を示してるって事でもあるんじゃない?」
「だと、いいんだけどな…。明日の新聞を見るのがちょっと怖いわ。」
「ミリィはきちんと受け答え出来てたよ。さすが元ジャーナリスト、だよね?ディアッカに見せたかったなぁ…」
「サイ?余計な事ディアッカに言わないでよね?」
 
 
途端に目を眇めるミリアリアに、サイは苦笑いを浮かべた。
 
 
「失礼致します。…あ」
「あ!さっきの…」
 
 
部屋の片付けの為だろう、ノックとともに現れたのは、先程ミリアリアが頼み込んで処分予定の花を使わせてもらったあのピンクの髪のメイドだった。
 
「先程はありがとうございました。本当に助かりました!」
「とんでもございません。お役に立てたのであれば光栄でございます」
 
二人のやり取りを不思議そうに眺めているサイに気付き、ミリアリアはばつが悪そうに微笑んだ。
 
 
「サイ、実はこの部屋のお花、この方にお願いして処分予定のものを貸して頂いてたの。」
「え?!こんなに綺麗なのに処分?」
 
 
そう声を上げるサイに、メイドは苦笑まじりに頷いた。
 
「当ホテルでは、花が萎れてしまう前にローテーションで入れ替えをしているんです。
ご自宅等であればまだまだ充分楽しめるのですが、やはりこう言った場所柄、万が一にもしおれた花は飾っておけませんので…」
「でも、処分しちゃうなんて勿体ないわよね。ほんと、これなら充分家に飾っておけるもの。」
「確かに…。総領事館にもこのくらい豪華な花があればだいぶ華やぐよね。」
 
そう言って頷きあう二人をメイドはにこにこと眺めていたが、ふと思いついたように口を開いた。
 
 
「よろしければ、こちらのお花、お持ち帰りになられますか?」
 
 
その申し出に、ミリアリアの目がまんまるに見開かれた。
 
 
 
 
 
 
 

f02

第2話です。
御都合主義な展開で、ただただ恐縮です;;
偶然、ディアッカ達が探していた盗聴器付きの花がミリアリアの元に!
これもある意味、前作から続く「すれ違い」なのでしょうか(笑)
 
余談ですが、結婚式や式典などで使用されたお花を持ち帰った経験、
ないでしょうか?
うちは私の母がお花が好きなので、機会があればよく持ち帰ってました。
それをヒントに思いついたのが、今回のシーンです(笑)

 

 

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2015,2,19up