舞踏会のその後に 1

 

 

 

 
 

 

 

このお話はR15要素を含んでいます。

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

閲覧は自己責任でお願い致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

シホは、気怠い体を叱咤して仮眠室で身支度を整え、イザークが持って来てくれた絆創膏を靴擦れした箇所に貼り付ける作業に勤しんでいた。
軍支給のブーツはしっかりとした造りになっているが、よく履き込んでいるためそれほど傷を刺激するような事はないだろう。
イザークは紅茶を淹れてくる、と仮眠室を出ていてここにはいない。
 
 
と、ベッドに無造作に投げ出されていたイザークの携帯が軽快な音を立てた。
どきり、としながらシホが端末をそっと覗き込むと、それはディアッカからの着信で。
ドア越しに声を上げイザークにその事を告げると、代わりに出てくれ、と言われる。
軍から支給された携帯とは言え…私が出て、いいのかしら?
そう思うシホであったが、イザークがいいと言うならいいのだろう、と腹を括り、通話ボタンを押した。
 
「ディアッカ?どうしたの?」
『へ?シホ?何でお前がイザークの電話に出んの?もしかしてまだ隊長室にいたのかよ?』
 
心底驚いたようなディアッカの声に、シホは顔を赤らめた。
いたのは隊長室じゃなくて仮眠室で、さっきまで色々取り込んでました、などとは死んでも言えるわけがない。
言ったら最後、この命が果てる瞬間まで事あるごとにからかい倒されるに違いないだろうから。
かたん、と音がしてイザークが仮眠室に現れ、アイスティーのグラスをシホに手渡す。
「そのまま話していて構わんぞ」
小さな声で囁かれ、シホは頷き、気を落ち着けようとアイスティーを口にした。
 
 
「え、えと、着替えたり色々していたの。それで、イザ…じゃない、隊長に何か用事?」
『ああ。ちょっと厄介な事になった。』
「え?」
危うくイザーク、とプライベートな呼び方をしてしまった事をからかわれるかと思ったが、意外にもディアッカは真剣な声で話を続けた。
 
 
『盗聴用の機材、俺が持ち帰っただろ?ミリィとやる事やった後解析しようと思って、早速今端末に繋げてみたんだけどさ…って、お前ダイジョブ?』
 
 
飲みかけたアイスティーを危うく吹き出しかけ、むせ返るシホにイザークもぎょっとした顔になる。
「や、や、や…ごほっ、やる事やったとか、けほ、あなた、サラッとなんて事…げふっ、ごほ…」
背後で「ぶほっ」とシホ以上に盛大な音が聞こえたが、愛は盲目と言う通りシホはそれを華麗にスルーする。
 
 
『え?だって俺たち夫婦だし。仲直りのセックス、って燃えるじゃん?まぁ…ちょっと激しくしすぎてミリィそのまま寝ちまって、夕食食いっぱぐれたんだけどさ。』
「知らないわよそんな事!!」
『ふーん。じゃあ今度イザークと喧嘩したとき試してみろよ。…ってか、割と重要な話したいんですけどね、副隊長殿。そろそろいいっすか?』
「だったら激しすぎとかどうとか言ってないでさっさと話しなさい!一体何事?」
 
 
声を荒げるシホの背後で、「ごふぉ」とまた不可解な音がしたが、それもシホは華麗にスルーした。
 
『お前…盗聴器のチェック、ちゃんとした?』
「は?もちろんしたわよ。普段からしてるじゃない。」
『んー、そうだよなぁ…。』
「ディアッカ。けほっ、一体何が言いたいの?」
 
まだ今ひとつ咳が治まらないシホだったが、続いたディアッカの言葉に思わず息を飲んだ。
 
 
『盗聴器を解析したんだけどさ…。半分以上、録音が失敗してるんだ。肝心な部分が聞き取れねぇし、これラクス嬢に提出するのはちょっとキツい、かも?』
 
 
「う、そ…」
呆然とするシホに気付いたのか、背後から手が伸ばされイザークがそっと携帯を取り上げると代わりに話し始めた。
 
 
「ディアッカ、何があった?」
『あ、何だよいたのイザーク?んー、今シホにも言ったんだけど、さっきの密談、半分近く不鮮明なんだよ。声が。』
「何ぃ?!」
『お前ら、どこに盗聴器付けたの?』
「密談が行われていた部屋の入口に大きな花瓶があっただろう。そこだ。」
『花瓶に?』
「いや、生けてあった花のうちの一つだ。最近品種改良されたロイヤルブルーの薔薇に仕込んだ。あれは高額な花だし、ホテル側でもすぐに処分する事などないと読んだんだ。」
 
 
そう言えば、バーカウンター近くにあった豪奢な花の中に、見た事のない色の薔薇があった事をディアッカも思い出していた。
 
「会話が不鮮明と言う事だが…念の為、盗聴器自体にも録音機能がついているものを仕込んでおいた。
早急に盗聴器自体を回収し、分析すれば問題はなかろう。バルトフェルド隊長推奨の高性能なモデルの上、あれだけ近くに設置したのだからな。」
 
落ち着いたイザークの声に、隣で聞いていたシホはほっと胸を撫で下ろした。
あれだけこっ恥ずかしい格好で臨んだ任務が失敗だなんて、あんまりすぎると思ったからだ。
だが同時に、あれがあったからこその先程のイザークとの甘い時間も…とつい思ってしまい、シホはまた顔を赤らめた。
 
 
『今から取りに行く訳にも行かないっしょ。どうせお前ら、ろくに服も着てないんだろうし?
明日の朝一で支配人に正式に話を通して回収するしかねぇな。』
「ばっ…ばばば馬鹿者!着替えはとっくに終わってるわ!!」
 
 
ーーーイザーク…お願いだからそれ以上墓穴を掘るのはやめて…。
シホは愛しい恋人の馬鹿正直さを、少しだけ呪った。
 
 
***
 
 
「こちらでございます。客室のキーはお預け致しますので、どうぞご自由に」
少しだけ焦った表情の支配人からイザークはキーを受け取り、鷹揚に頷いた。
 
「ご協力感謝する。この件でホテル・オリエントの悪評が流れる事はない。どうか気になさらずにいて欲しい。」
「は、はい!それではわたくしはこれで…。」
 
支配人がそそくさと立ち去ると、シホは軽快な足取りで件の花瓶があった場所に向かう。
思った通り、履き慣れた軍用ブーツは靴擦れに全くと言っていい程響かず、任務に支障をきたさずにすんだ事にシホは内心安堵した。
 
「この奥にあった白い花瓶に…」
後ろからついて来たディアッカに説明しながら角を曲がったシホは、驚愕に目を見開き立ち止まった。
 
 
「無い…無くなってる」
「はぁ?!」
 
 
ディアッカの声に、離れた所にいたイザークが慌てて二人の元へ近づいて来た。
「どうした?」
「隊長!昨日の花瓶が無くなってるんです!他の花瓶はそのままなのに…。」
「な…」
確かに、イザークもこの場所に置かれていた花瓶にシホが盗聴器を仕掛けた事をしっかりと記憶していて。
予想外の出来事に、二人の頭は真っ白になる。
 
 
「…いや、他にも数個、花瓶が消えている。さすが評判のいいホテルだな。既に清掃が始まっているのだろう。」
「っ…とにかく、無いものは無いんだからこんなとこにぼんやりしててもしょーがねぇだろ!
もしかしたら清掃じゃなくて何かの理由で別の場所に移動したのかもしれねぇ。その辺の従業員捕まえて聞き込むぞ!」
 
 
ディアッカの現実的な提案に、二人ははっとしたように顔を上げた。
 
「最悪…生花なんて必要なくなればすぐに処分されちまう。急ごうぜ?チェックアウト前のこの時間ならまだ間に合うかもしれねぇ。」
「…そうね。手分けして探しましょう、隊長!」
「ああ。行くぞ!」
三人の顔つきが軍人のものへと変わる。
そして、ザフトの精鋭部隊であるジュール隊の中でもトップと謳われる三人は、あっという間に部屋を後にしたのだった。
 
 
 
 
 
 
 

f02

9999hit御礼小説になります!
リクエストを募集した所、6666hitをリクエスト頂いたぴぷ様より
「仮面舞踏会」の続編を、とのお申し出を頂きました!
ぴぷ様、いつもありがとうございます!!
全4話となるこちらのお話、御都合主義満載で恐縮しきりですが、
皆様にも楽しんで頂ければ幸いです!

 

 

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2015,2,18up