40, 約束 3

 

 

 

 
「……なに、考えてんですか?隊長」
 
 
ミリアリアとの通信が切れ、静まり返った執務室に響くシンの押し殺した声に、ディアッカははっと顔を上げた。
 
「…なに?」
「どうしてあんな態度しか取れないんですか!?ミリアリアさんが強がりだって言うんなら、あんたはただの馬鹿野郎だ!」
 
胸ぐらを掴まれ、だん!と壁に押し付けられても、ディアッカは反応出来なかった。
 
 
「強がりに決まってるでしょ?怖くないわけないじゃないですか!
それでも守りたくて…あんたや、あんたの大事なものを守りたくて、プラントを出るってミリアリアさんは決めたんでしょ?
どうして分かんないんですか?なんで、応えてあげないんですか!」
 
 
自分より背も低くて華奢な副官に胸ぐらを掴まれ、振り払おうと思えばすぐに出来るはずなのにーーディアッカは呆然とシンを見下ろした。
 
「喧嘩してても、プラントと地球で離れてても!いつだってミリアリアさんはあんたの事を一番に心配して、悩んで!
こんなに信頼されて、愛されてるのに肝心のあんたがそんな弱気でどうするんだよ!」
「っ…なんで、お前にそんな事…」
「約束したからですよ!!」
 
シンの深紅の瞳が怒りに染まる。
 
 
「カーペンタリアに降りる少し前、あんた達が喧嘩してる時。俺とハーネンフースさんはミリアリアさんと話す機会がありました。
喧嘩の原因を聞いて、それはあんたの八つ当たりじゃないか、ってハーネンフースさんが言って…正直、俺もそう思いました。
でも、ミリアリアさんは言ったんです。
自分はあんたの奥さんだから、弱っている時、支えになりたい、って。ミリアリアさんが弱ってる時、いつもあんたがそうしてくれるように、って!!」
 
 
どうしてこんなに悔しくて、どうしてこんなに、胸が痛いんだろう。
何で俺は、自分の上官にこんな態度を取っているんだろう。
血の昇った頭の片隅でシンはそんな事を考える。
 
「お前とあいつのした約束、って…」
 
落とされた声に思考を中断され、シンは我に返る。
そしてディアッカの胸ぐらから手を離すと、きつい視線を目の前の上官に向けた。
 
 
「不真面目なところもあるけど、きっと一人でぐるぐる考え込むこともあると思うから、そんな時は何でもいいから思ったことを言ってあげて、って言われました。
ディアッカの事、お願いね、って…。」
 
 
ディアッカは紫の瞳を大きく見開きーーーゆるゆると息をつくと、額に大きな手をあて、そのまましゃがみ込んだ。
 
 
「あんたは、ミリアリアさんの事を助けに行くべきだ。約束したなら、絶対。
それなのに、ただ行くなとか強がるなとしか言わずに、信じてるって言ったミリアリアさんの想いに、全く応えてあげなかったじゃないですか!
俺にいつも言ってる事は口だけですか?
あんなに不安な顔したミリアリアさんのこと見て、それでも自分の感情が優先なんですか、あんたは?!
ミリアリアさんの信頼に応える為に、何かしようとは思わないんですか!!」
 
 
ディアッカは何も言わない。
普段見る事の無い豪奢な金髪のてっぺんをシンは見下ろしーーー踵を返した。
これ以上ここにいたら、何を言ってしまうか分からない。
それでも、執務室のドアまで足早に歩き、ドアノブに手をかけたまま、シンは振り返らずに吐き捨てた。
 
 
「…見損ないました。そんな、口先だけのあんたなんか、ただの馬鹿野郎でしかないですよっ!!」
 
 
ばたん!と大きな音を立て、ドアが閉まる。
そしてそこには、無言のまましゃがみ込むディアッカだけが残された。
 
 
 
 
 
 
 
016

二人のやり取りを聞き、ミリアリアの想いを感じ取りディアッカを罵倒するシン。
かつて交わしたミリアリアとの約束を初めてディアッカに語り、ただ怒りをぶつけてしまいます。
そして、シンに聞かされた言葉に驚き、悄然とするディアッカですが…
次は、プラントサイドのお話です。

 

 

戻る  次へ  text

2015,2,13up