40, 約束 2

 

 

 

 
「……は?」
ミリアリアが、プラントを出る?
先日ラクスと話した時にはありえない、とされていた言葉に、ディアッカの頭は真っ白になった。
 
『お父様やイザークには話をしたわ。もちろん止められたけど…もう、決めたの。
このままじゃプラントにも、ディアッカにも危険が及びかねない。だから…』
「ふざけんな!何…ひとりで勝手に…!」
 
ディアッカの瞳に怒気が浮かぶ。
 
 
『…ごめん。でも…』
「ずっと、一緒にいるって。離れないって言ったよな?お前。」
 
 
ミリアリアの瞳が潤む。
 
『そうよ。私だって離れたくないし、ずっとディアッカのそばにいたいわよ。
でも、私がここにいるせいでウィルスがばら撒かれたら、元も子もないでしょ?』
「ワクチンの開発だってあと数日だろ!本国だってお前をむざむざ引き渡すつもりもねぇし、きっと犯人と交渉するはずだ!だから早まるな!」
 
ミリアリアは首を振った。
 
 
『いくら交渉を持ちかけても、ワクチンが無ければ手出しはできないわ。自殺行為だもの。
お父様も、完成まではあと数日かかる、って言ってた。それまで相手が待つとは思えないでしょう?』
 
 
ミリアリアの言葉は確かに的を得ていて。
ディアッカは言い返す言葉を失った。
 
 
 
『ディアッカ、聞いて。』
 
 
 
ミリアリアの言葉に、ディアッカは顔を上げモニタの向こうにいる愛しい妻の顔を見つめる。
 
 
『カガリが攫われた日…ラクスから、ターミナルの許可証を渡されたの。これで、この事件について調べて欲しい、って。
ターミナルに関わるの、迷ったけど…結局使って色々調べたわ。
許可証の事、この間の通信で言おうと思ったんだけど言いそびれたの。ごめんなさい。
それに…黒幕に関しても話を聞いたわ。』
「な…だったら、尚更お前は行くべきじゃないだろうが!」
『それでも!もう、決めたの。私達が結婚する時…言ったよね?あなたやお父様に危険が迫るような事があったら、私が身を引く、って。』
 
 
それは、まだ二人が婚約を発表する前。
ディアッカの父であるタッドの前で、ミリアリアが宣言した言葉。
もちろん、忘れた訳ではなかった。
黙り込んでしまうディアッカに、ミリアリアはふわり、と微笑んだ。
なぜ、笑えるのか。
ディアッカも、そして固唾をのんで二人のやり取りを見守っていたシンも、こんな時だと言うのにその笑顔に目を奪われた。
 
 
『でもね、私、殺されに行くつもりなんて無い。信じてるから。私がどこにいても探し出して、迎えに来てくれるって言った、ディアッカの言葉。
だから、私は大丈夫。ちっとも怖くなんて無いわ。』
 
 
「…何でお前はいつも、そうやって何でもひとりで決めちまうんだよ…」
「隊長!」
ぽつり、とディアッカの口から零れた言葉に、シンは思わず声を上げていた。
『…ごめんね。』
「謝るくらいなら、行くな!」
聞いた事の無いディアッカの怒声に、シンも、そしてミリアリアもびくりと身体を震わせた。
 
 
「迷ってるからそんな顔してるんだろ?いつものお前なら、自分の決めた事に対してそんな顔なんてしねぇだろーが!
強がるのも大概にしろ!!」
『ま…迷ってなんてないわよ!こうするしか今は方法が無いんだし、それに言ったでしょ?信じてるって!強がってなんていないわ!!』
 
 
二人はモニタ越しに睨み合い、無言になる。
碧と紫の視線がじっとぶつかり合って。
 
ーーー先に目を逸らしたのは、ディアッカの方だった。
 
『…とにかく、私は行くわ。もう決めたから。ターミナルに入って整理した情報、さっきメールで送ったから。時間のある時に見て。ーーーそれじゃ。』
「ちょ…ちょっと!ミリアリアさん!」
 
通信を終わらせようとするミリアリアに、シンは慌てて声をかける。
ミリアリアはボタンに手を伸ばしたまま、シンに、そしてディアッカに視線を向けた。
俯いていたディアッカは、意を決したように顔を上げ、ミリアリアを見つめる。
 
 
「…ミリィ」
 
 
小さな声で、名を呼ばれて。
ミリアリアの碧い瞳が、心もとなく、そして切なげに、揺れた。
だがそれはほんの一瞬の事で。
 
 
『信じてる、から。』
 
 
その一言を残し、ぷつん、と通信は切れた。
 
 
 
 
 
 
 
016

喧嘩がしたい訳じゃない。その気持ちはお互い同じはず。
それでも、手の届かない場所で進んで行く事態にディアッカは戸惑い、
ミリアリアもまた想いを上手に伝えきれないまま、二人の会話は終わります…。

 

 

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