39, 決意 2

 

 

 

 
「ミリアリア。それは…どういう事だ?」
 
 
アスランまでもが、狙われている、だと?
イザークは驚きもあらわに、ミリアリアにそう問いかけた。
 
 
『カガリが攫われた時点では、私もそんな事思わなかったの。でも、“あの方”の関与を疑い始めて、犯人であるセリーヌ・ノイマンの動機を聞いた時、もしかして、って思ったのよ。
カガリは、オーブ総領事館に対する人質としてだけではなく、アスランに対する人質でもあるんじゃないか、って。』
「動機を聞いた時…?どういうことだ?」
あまりの急展開に、イザークの頭は今ひとつ回らない。
『イザーク。あなたとディアッカの共通点は?』
「俺と…ディアッカ?」
急な問いかけに固まるイザークの代わりに返事をしたのはシホだった。
 
 
「アカデミーの同期で、赤服。そして先の戦争では同じクルーゼ隊に配属。ヘリオポリスでGシリーズを奪取。ディアッカが投降するまでクルーゼ隊として地球軍と戦う。
戦後ザフトに復隊したディアッカは、イザークの副官に就任。
二度目の大戦時は終戦まで共に戦い、今に至る。こんなものですか?」
 
 
簡潔だが的を得ているシホの言葉に、ミリアリアは頷いた。
 
『じゃあ、そこにアスランを足したらどうなる?』
「…ディアッカの復隊前までは、ほぼ同じですね。ザラ隊長も。」
『セリーヌ・ノイマンは先の大戦、パナマでのザフトと地球軍の戦いで婚約者を亡くした、って言っていたわよね?
アスランもディアッカも、その頃もうザフトにはいなかったけど…クルーゼ隊は、あの戦いに参加したんでしょう?イザーク。』
 
 
イザークははっと顔を上げた。
 
 
「では、あの方、とは…」
『わからないわ。私の考えなんてただのこじつけみたいな話だし、考え過ぎなのかもしれない。
でも、内通者がいた時点で、カガリとアスランの関係が相手に知られていてもおかしくない。
そう考えたら、もしかして、って思ったの。
あの方は、先の大戦時からあなた達、もしくはクルーゼ隊に何かしらの恨みを持っている人物なんじゃないか、って。それならセリーヌ・ノイマンとあの方の利害は一致する。
だから、カガリが攫われた本当の理由は、アスランをおびき寄せるためなんじゃないか、って思ったのよ。』
 
イザークはゆるゆると息をついて、肘掛け椅子にもたれ込んだ。
 
「荒唐無稽な話だが…可能性が無い訳じゃないな。」
『うん、そうよね。でも、どちらにせよあの方が絡んでいるのなら、私やカガリだけに危害をすぐ加えるとは限らない。
セリーヌ・ノイマンが手駒として動かされているのならなおの事、私達に勝手な真似は出来ないはずだわ。』
 
 
ぽんぽんと言葉を発するミリアリアは、いつもと少しだけ雰囲気がちがう。
きっと、ジャーナリスト時代はこうして取材に赴いた先でこんな風に話をしていたのだろう。
 
 
「……ディアッカの話も、あながち嘘ではないようだな。」
『え?』
「よく聞かされていた。“俺の惚れた女はとんでもなく無鉄砲で頑固だ”とな。」
『イザーク…』
 
 
イザークはアイスブルーの瞳で、モニタの向こう側のミリアリアを射るように見据えた。
 
「あいつには、言ったのか?」
 
少しだけ目を見開いたミリアリアは、俯いて首を振った。
 
「ならば、あいつにまずきちんと話せ。それでなくては俺も認める事は出来ない。」
『…うん。今から…連絡して話をしてみるわ。』
 
「ミリアリアさん…」
心配そうに声をかけるシホに、ミリアリアはまた微笑んだ。
 
 
『すんなり行くなんて思ってないわ。すぐに納得してくれないかもしれない。
でも、約束したから。だから何を言われても大丈夫。こんな時に喧嘩なんてしないわ。』
 
 
シホは、泣きそうな顔で頷いた。
「…また、連絡下さい。」
『うん。ありがとうシホさん。イザークも。』
「俺たちはここで待機している。焦らず、きちんと話せ。」
『…うん。じゃあ、また後で。』
 
 
 
 
ぷつん、と通信が切れる。
イザークは深い溜息をつき、執務机に肘をついて項垂れた。
 
「…イザーク。紅茶、飲みませんか?」
「…ああ。すまん。」
 
シホがイザークのそばから離れ、簡易キッチンに向かう。
イザークはゆっくりと立ち上がり、ソファへと移動した。
 
焦燥感や無力感につい取り乱してしまう自分を落ち着かせるために心を砕いてくれるシホの存在が、今のイザークにはとてもありがたくて。
すぐに温かい紅茶を持って自分の元へと戻ってきたシホを、イザークはやや強引に引き寄せ隣に座らせると、そのまま抱き締めた。
 
 
「…数分だけでいい。このまま、いてくれないか」
 
 
いつもなら、仕事中なのに!と口にするシホ。
だがシホはそっと腕を上げ、柔らかくイザークの体に回すと、宥めるようにゆっくりと背中を撫でた。
 
「例えミリアリアをプラントから出す事になるとしても…俺は諦めない。俺だって、大事な親友に約束したのだからな。」
「それで、いいと思います。私達に出来ることは、まだあるはずです。少し休んで、また考えましょう?
イザークは少し…根を詰め過ぎです。それでは名案も浮かびません。」
 
そっとシホがイザークから離れ、ソファに深く座り直す。
そして手を伸ばし、イザークの頭を自分の膝に乗せた。
 
「な…おい、シホ!」
「ミリアリアさんから連絡が来るまでの間です。ここには誰も来ませんし。
少しでいいから休んで下さい。」
 
あの事件以来、自宅にも戻らず仮眠もそこそこに奔走しているイザークをずっとシホは見て来ている。
いくらイザークが有能でも、これでは判断能力も低下し、ネガティブな思考に陥りかねない。
 
 
「……すまん」
「いいえ。私はイザークより休ませて頂いてますから。」
 
 
シホの優しい声に、張り詰めていた心が少しだけ和らいで。
イザークはいつしか目を閉じ、浅い眠りに落ちていた。
 
 
 
 
 
 
 
016

ミリアリアの覚悟、そしてディアッカへ寄せる深い信頼に触れ、戸惑いを
隠せないままのイザーク。
それをいち早く見抜いたシホもまた、イザークを信頼し、またミリアリアの
事も心配しています。

そして、プラントをを出ると決めたミリアリアは、自分の決意をどう
ディアッカに伝えるのでしょう…

 

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