『イザーク。私、明日プラントを出ようと思う。』
通信機から漏れ聞こえた言葉に、同じ室内にいたシホが驚き、がたん!と立ち上がった。
「おい…何を言って…」
『ワクチンの開発、明日までには間に合わないでしょう?向こうの提示した期限は明日よ?
カガリの身柄とプラントの安全を考えたら、私がここを出るのが一番…』
「ふざけるな!!」
地球で尽力しているディアッカの為にも、そしてテロリストの要求をこのまま受け入れる事も到底認められない。
イザークはつい大声を上げた。
「隊長。通信をオンにします。いいですね?」
シホが手早くイザークの携帯にケーブルを繋ぎ、モニタの電源を入れた。
程なく、目の前に落ち着いた表情のミリアリアが現れる。
「自分が何を言ってるか分かってるのか?殺されるかもしれないんだぞ?!」
『分かってるわ。でも、私がこのままここにいて、もしウイルスをばら撒かれたら?
あなた達やお父様や、他にもたくさんの人が感染したらどうするの?
カガリだって、どうなるか分からないわ。』
「それはそうだが…!はいそうですか、なんて簡単に認められるか、そんな事!」
ミリアリアはモニタの向こうから、碧い瞳にじっと力を込めてイザークを見つめた。
『私は、何があっても必ずプラントに戻るわ。だからお願い。今は…行かせて。』
「…だめだ。」
「イザーク!」
勤務中は頑なまでに恋人の名を呼ばないシホが、つい声を上げた。
「俺は…あいつに約束した。あいつのいない間、お前の事は何としてでも守ってみせると!」
あいつ、が誰のことを指すのか、ミリアリアには分かりすぎるほどに分かっていた。
実直で真面目で、そして情に厚く優しいイザーク。
この人がディアッカの親友でいてくれて、本当に良かった。
ミリアリアは、ふわりと微笑んだ。
『…ありがとう、イザーク。でもね、私も約束してるの。ディアッカと。』
「約束…?」
訝しげな顔になるイザークに、ミリアリアは静かな声で告げた。
『ディアッカ、約束してくれたの。どこにいても助けに行く、ひとりにしない、って。
だから、あの人は必ず私を探し出して、迎えに来てくれる。』
「っ…。」
イザークは言葉を失った。
『私も、約束した。ずっと傍にいる、って。二人で支え合って一緒に生きて行く、って。
でも、もし私が原因でディアッカに危険が迫ったら、その時は私が身を引く。
私にその覚悟があるってこと、ディアッカも知ってるわ。』
「あいつも…知っている?」
ミリアリアは微笑んだまま頷いた。
『うん。…その上でディアッカは、私がどこにいても探し出して迎えに行くって言ってくれた。
その約束を信じてるから、私はプラントを出ようと思ったの。』
その言葉に、ぎゅ、とイザークは拳を握る。
ウィルスのせいで動けないこの状況で、それが叶うとなぜミリアリアは簡単に信じる事が出来るのか。
戦時中もそうだったが、こいつらはーーAAのクルー達は、なぜこうも不可能を可能なものに変えてしまおうとするのだろう?
「ミリアリアさん。お気づきなんでしょう?」
いつの間にか自分の傍らに立っていたシホの声に、イザークははっと我に返る。
「この事件に、2年前のメッセージの主である、“あの方”が関わっている、と言う事…。
それを承知の上で、プラントを出ると仰っているんですよね?」
イザークは驚き、シホを振り返った。
「シホ、それは…」
『ーーー知ってるわ。』
ミリアリアは頷いた。
「その上で、今回の決断をされたんですね?」
『…うん。“あの方”が関わっているなら、少なくとも明日いきなり私が殺される事は無いはずよ。
こんな言い方はしたくないけど…私もカガリも、要は人質、って事でしょう?
本当の狙いは、ディアッカとイザーク、そしてもしかしたら…アスランも、じゃないかと思うの。』
ミリアリアの意外な発言に、イザークの表情が変わった。
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皆さんもおおかた予想はついていたであろう、ミリアリアの決断。
納得出来ないイザークは必死で止めに入りますが、シホの冷静な言葉と
ミリアリアの意外な言葉に驚きを隠せません。
2015,2,3up