38, 過去の傷跡 2

 

 

 

 
「どういう、事ですか?」
「そうだよイザーク、それって一体…」
 
状況が分からないノイマンとサイが疑問を口にする中、ミリアリアの顔がすぅっと青ざめた。
いち早くそれに気付いたシホが、静かにミリアリアの傍に向かう。
 
 
「すまない…。今、詳細を説明する事は出来ない。ラクス嬢に口止めされている。
ここプラントももちろん一枚岩ではない。我々を敵視する人物だってもちろん存在する。
今回の事件、そう言った輩が一枚噛んでいる、と思って間違いはないだろう。」
 
 
イザークの言葉に、2年前の事件を知っているサイの表情が僅かに変わる。
だがそこは仮にも外交官。一瞬で元の表情に戻ったが、イザークにはそれだけで自分の意図が伝わったと充分に理解出来た。
「秘匿義務、という事ですね。…分かりました。」
「あの、ノイマンさん!」
ミリアリアが突然発した声に、そこにいた誰もがそちらを振り返った。
 
「お姉様は…ベルリンにお住まいだったんですか?その…勤務先、とかお分かりになりませんか?」
 
ノイマンは驚いたような表情になり、慌てて頷いた。
「先の大戦中のものであれば記憶しているが…ドイツの製薬会社だ。」
「会社名、教えて下さい!」
モニタに詰め寄らんばかりのミリアリアに、ノイマンはたじろぎつつもとある社名を口にした。
 
 
 
「我々はコペルニクス宙域に待機している。そこからなら、カガリ様に何かあってもすぐに向かえるからな。」
「ザフト軍の軍事施設もその近辺にある筈ですが?いつからそこに…」
 
コペルニクスに駐留している隊は、哨戒活動をしていないのだろうか?
イザークも、そしてシホも不思議に思って顔を見合わせた。
 
「アスカ副官が掛け合ってくれてな。コペルニクスに知り合いがいるらしい。我々がいるのは、哨戒ラインぎりぎり外の宙域だ。デブリに紛れている。」
「シン・アスカが…。そうですか。」
 
優秀だがどこか情緒不安定なシンをディアッカに任せたイザークは、やはり正解だった、と胸を撫で下ろす。
「これ以上はこちらも控えさせて下さい。万が一の盗聴等に備えて、情報は出来るだけ出さないようにと艦長から言われているのでね。」
「当然の事です。ではAAはしばらくは…」
ノイマンはしっかりと頷いた。
「ええ。何かあれば即座に動けるよう、ここで待機します。ハウ。…無茶はするなよ?」
ミリアリアは少しだけ目を見開いてノイマンを見上げーーこくり、と頷いた。
 
 
 
***
 
 
 
ミリアリアは自宅で、端末の前に座っていた。
一昨日、ロイエンハイムに送ったメールにはすぐ返信があった。
やはり、セリーヌ・ノイマンはロイエンハイムの経営する企業に籍を置いていたのだ。
 
「遺伝子工学…。お父様と同じジャンル、かしら。」
 
ならば、ウィルスを作ることも可能だろう。
ミリアリアはセリーヌに関するデータを分かりやすくまとめ、ファイルを作って保存した。
 
 
その後も久しぶりのターミナルを存分に利用し、ミリアリアはどんどん情報を集めて行った。
「こんなものかしら…え?」
ふと目に止まったスレッドがあり、スクロールしていた画面を元に戻す。
 
「未確認の…MS?」
 
それは、マイウス近辺の宙域で未確認のMS数機が確認されたとの新しい情報だった。
どこかその事が気になったミリアリアは、念の為にファイルにその事も書き加え、保存した。
 
 
 
ミリアリアは、ひとつ息をつくとぐるりと部屋を見渡す。
ディアッカが地球に降りて1ヶ月と少し。
ひとりで住むにはやはり広過ぎて、どこか殺風景にすら感じてしまうアパート。
感傷的になってしまう自分に、ミリアリアはつい苦笑する。
 
そして通信機に手を伸ばしーーータッド・エルスマンにに通信を繋いだ。
 
「お忙しい中すみません、お父様。」
『いや、構わないよ。そちらはどうだい?何か新しい情報は?』
 
ミリアリアは、AAがコペルニクス付近に停泊していること、そしてセリーヌ・ノイマンの経歴についてタッドに説明した。
 
『オズのところのスタッフか…。それなりに優秀であることに間違いはなさそうだね。』
「そのようです。ただ、先の大戦の折に負傷し、現在も療養中とのことでした。もしかして、そこに鍵があるのかもしれません。」
『ふむ…。そうか。』
 
タッドは溜息をつく。
 
「あの、お父様。ワクチンの開発は…」
『ああ、解析は終了したよ。ワクチンの開発も、だんだんと目処は立ってきている。だが、あと数日はかかるだろうね。』
「…そう、ですか…。」
『ミリアリア?どうかしたかね?』
ミリアリアは真っ直ぐ、モニタに映るタッドを見つめた。
 
 
「少しだけ、よろしいですか?お父様。」
 
 
 
***
 
 
 
「じゃあイザーク、僕ちょっと出てくるから。ラクスと一緒に戻るね。」
議会で動けないラクスの代わりにイザークの元を訪れていたキラが、彼女を迎えに行く為足早に執務室を出て行く。
同時に、イザークの携帯が鳴った。
 
 
「…ミリアリア?」
 
 
イザークは通話ボタンを押した。
 
 
 
 
 
 
 
016

ノイマンとの会話を通してぼんやりと見えて来た新事実。
AAもついに動きます。
そして、ミリアリアもまた動き始めます。

 

 

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2015,1,29up