35, 疲れた心 2

 

 

 

 
『ディアッカ!お前…どこで何をしていた?!』
 
 
きん、と頭に響くイザークの声に、ディアッカは思わず眉を顰めた。
 
「わり…。連絡、早くすりゃ良かったな。医療班と一緒にいるって親父に聞いてねぇ?」
『医療班と?いや、エルスマン議員とは昨日会ったきりだ。それよりお前、何を…』
 
驚いたようなイザークの声に、ディアッカは気怠げに微笑んだ。
「あいつらの治療、手伝ってんの。まぁ、対症療法しか今は出来ないんだけどさ。」
『おい…!エルスマン議員から聞かなかったのか?!あのウィルスは…』
「知ってるよ。俺みたいに緻密な遺伝子調整をされてるやつには覿面の効果があるんだろ?
確かに…親父から送られて来たデータを見たけど、俺も同じ意見だ。」
『なら、どうして…!』
ぎり、とイザークが歯を食いしばるのが分かる。
 
「防護服はオーブを出るときから着用してる。シンもだ。
一応それなりの知識は持ってるから、感染に関しては充分過ぎる程注意してる。心配いらねぇよ。」
 
宥めるようにそう言うと、イザークが大きく息をつくのが分かった。
 
 
『…ディアッカ。』
 
 
不意に聞こえたシホの声に、ディアッカはモニタに視線を移した。
 
『ラクス様が連絡を取りたがっていたわ。この後すぐに通信を。』
「ラクス嬢が…ああ、了解。どっちみち俺も連絡するつもりだったし、この後すぐにやる。」
『それと。ミリアリアさんはオーブ総領事館に泊まり込んでるわ。あちらも相当忙しいみたい。犯人の提示した要求のこともあるから、無理は無いけど…。
それと、総領事館の代表メールアドレス宛に、犯人から通信コードが送られてきたそうよ。ここに連絡をして来い、ってことでしょうね。
とにかくミリアリアさんにも早めに連絡してあげて。多分、すごく心配してると思うから。』
 
真っすぐなシホの視線を受け止め、ディアッカはふわりと微笑んで頷いた。
「…ああ。そうする。」
『ディアッカ。今回の事件の経緯は聞いているか?』
画面に割り込んできたイザークに、シホは苦笑し一歩下がる。
大分落ち着いては来たものの、相変わらず気性が荒いイザークに落ち着く為の時間を作ったのだとディアッカは気付き、同じようについ苦笑した。
ーーー扱いに慣れて来てるな、あいつも。
 
 
『なんだ?』
「いや。…事件の経緯、大体は聞いた。
所属不明の女が姫さんを拉致したこと、そいつの出した要求がオーブとプラントの国交断絶、総領事館の撤退、そして手始めにミリアリアをプラントから出すこと、だろ?」
『…ああ。彼女がプラントを出なければ、ウィルスをプラントに撒く、と言い残して女はアスハ代表首長を連れて宇宙に消えた。』
「そもそもなんで逃走用の足があった訳?どうしてザフトはそんな正体不明の艦をみすみす宙港に置いといたんだよ?」
『ザフトに籍を置く補給艦と偽って入港していたようだ。それすら簡単な事ではない筈なのだがな。
ーーー内通者、がいたのでは、とミリアリアも言っていた。』
「内通者?それって…」
ディアッカの目が見開かれる。
 
 
 
『ここから先は、俺個人の意見だ。だから聞き流そうとそれはお前の自由だ。
ーーー“あの方”の仕業、と言う可能性は考えられないか?ディアッカ。』
 
 
 
アイスブルーの瞳に射すくめられ、ディアッカはひゅっと息を飲んだ。
『幸せに慣れた頃、と当時のメッセージにはあった筈だ。あれから2年。まさに今がその時、とは思えないか?』
イザークの言葉に、ディアッカはじっと考えを巡らす。
ミリアリアの両親を尋ねた時の、あの感覚。
それがもし、“あの方”のせいだったとしたらーーー!!
 
「イザーク。ラクス嬢はそれ以外に何か言ってたか?」
『いや。とにかくお前と話をしたがっていた。そちらでも何かあったのか?』
「わかんねぇ…。でも、気になることはある。」
 
ミリアリアの身の安全は、総領事館内にいればとりあえずの保障はされている筈だ。
だとすれば、やはりラクスにミリアリアの両親の件について直接話をしなければ。
 
 
「お前の言う通り、その可能性も充分考えられる、よな。内通者がいたであろう事も考慮すればさ。
それに、まずミリアリアをプラントから出させたがってるってのも気になる。
国家間の話なら、アマギ館長だっていいはずだ。
…とにかく、俺はしばらくこっちでワクチンの開発を待ちながら感染者の治療にあたる。
で、“あの方”については、今からラクス嬢に連絡をして対応を話し合う。それでいいか?」
 
 
ディアッカの疲れた頭脳が再び回転を始める。
イザークは少しだけほっとしたように頷いた。
付き合いの長いイザークには、ディアッカの抱える疲労や懸念などお見通しなのだろう。
だがそれをいちいち口にすることはしない。
今のディアッカには、それがとてもありがたいものに感じた。
 
 
『ああ、カーペンタリアについてはお前に任せる。ただ…充分気をつけろ。
“あの方”の仕業であれば、狙いは俺たちだ。こちらもミリアリアにはしっかりと護衛をつける。
だから、無用な心配はせず、自分の事だけしっかりやれ。』
 
 
親友の力強い言葉に、ディアッカもまた頷いた。
 
「サンキュ。…ミリアリアの事、マジで頼む。俺は、傍についていてやれないからさ。」
『任せろ。なんとしても守ってみせる。』
 
ディアッカは今度こそ微笑んで頷き、明日にもまた連絡する事を約束して通信を終わらせた。
次は、ラクスだ。
ディアッカは出立前に渡された秘匿回線のコードを取り出し、慎重にそれを入力した。
 
 
 
 
 
 
 
016

“あの方”の仕業という事にいち早く気付いたイザーク。
オーブで察知した気配の件もあり、ディアッカも薄々考えてはいた事だったのでしょう。
次は、ラクスとディアッカの会話です。

 

 

戻る  次へ  text

2015,1,18up