ディアッカからの連絡を待っていたのか、タッドとの回線はすぐに繋がった。
『ディアッカ!無事か?』
普段あまり感情を表に出さないタッドだが、流石に心配なのだろう。
「ああ、俺は大丈夫。今カーペンタリアに戻ったとこ。親父、今どこ?」
『ザフト軍本部だ。イザーク君やミリアリア達オーブ総領事館の面々と今後について話をしていた。』
意外なタイミングでミリアリアの名前を聞き、ディアッカは無意識にぎゅっと拳を握った。
「…今、あいつ近くにいる?」
『いや、私はウィルスのデータを持って外に出たところだ。これからフェブラリウスに向かう。』
「ウィルスの…データ?」
なぜそんなものが、タッドの手に?
話が見えないディアッカに気づいたのだろう。
タッドはカガリからのメールについて、そしてウィルスについての現時点での見解をディアッカに説明した。
「ナチュラルの遺伝子構成を基本としてる、って事は…コーディネイトが緻密な程、症状も顕著に現れる、って事か?」
『ああ、私はそう考えている。だからディアッカ、お前は…』
「正に、俺みたいのは要注意、って訳?」
思わずディアッカは皮肉げな笑いを浮かべてしまう。
他のコーディネイターよりも緻密な遺伝子調整を施されている自分。
今更その事実は変えようがない。
「…こっちでは兵士達に防護服の着用を義務付けた。ウィルスに感染している兵士の数はおよそ50。俺がここに戻る前に本国からの指示ですでに隔離されている。
あと、今出来ることってなんかある?」
『ディアッカ、まさか…』
「ガキの頃からラボに入り浸ってたのは、無駄じゃなかった、ってね。
こっちの軍医だけじゃ到底追い付かねぇだろ?俺も治療班のサポートに入る。」
『感染の危険があってもか?万が一お前が感染すれば、1週間も持たんぞ?!そんな事になったらミリアリアはどうする!』
「経口投与での感染なら俺が気をつければいいし、万が一空気中にウィルスが拡がったとしても防護服で防げるだろ?!あいつらは俺が本国から連れてきた…イザークから預かった大切な隊員達だ!
駐屯兵も、俺の指揮下の奴らだ!出来ることがあるのに何もしないなんて、それこそあいつに合わせる顔がねぇよ、俺は!」
あいつーーミリアリアは、自分が治療班に加わったと知ったら、きっと胸が張り裂ける程心配するだろう。
そしてディアッカも、同じようにミリアリアのことが心配でたまらない。
それでもーー自分のしようとしている行為を、ミリアリアはきっと責めないだろうと言う確信が、ディアッカにはあった。
「あいつには…ミリィには俺から後で連絡する。
無茶な事はしねぇよ。これでも家庭持ちの自覚くらいあるんでね、俺も。」
言い出したら聞かない息子の性格を誰よりもわかっているタッドは、ゆるゆると溜息をついた。
『…隔離場所に着いたら、もう一度連絡をよこしなさい。
症状を説明してくれれば、こちらでもある程度の指示は出せる。
軍医は基本、外科的な処置が専門だろう?』
ディアッカはその言葉に柔らかく微笑んだ。
「…サンキュ、親父。あと、俺にもウィルスのデータ送って?こっちでも調べるから。」
『分かった。後で送ろう。…お前は隊長なのだからな。上に立つものに何かあれば、それは全員の士気に関わる事になる。無茶だけはしないようにな。』
「りょーかい。」
ディアッカの紫の瞳に強い光が宿る。
ーーー負けてられねぇんだよ!こんなんに!
数分後に再度連絡すると約束し、ディアッカは通信を終わらせた。
***
ぱたん、とドアを閉め、ディアッカは深く溜息をついた。
カーペンタリアに着いてから約一日半、睡眠はおろか食事もほぼ取っていない。
いくらディアッカが強靭な体にコーディネイトされているとは言え、この状況ではさすがに体力の限界が近かった。
ウィルスに感染した兵士たちの容体は、それこそ様々だった。
コーディネイターの遺伝子調整は個人差がある。
それゆえ発現する様々な症状に、軍医達も、そしてディアッカもただ振り回された。
「隊長…。俺、何の病気なんですか?」
そう声をかけて来たのは、以前ベルリンでシンと一悶着起こした赤服の駐屯兵だった。
「…バイオテロに巻き込まれたんだ。だが、本国でも急ピッチでワクチンの開発を急いでる。
辛いだろうが、俺たちも出来る限りのことはする。だから心配すんな。」
そう言って安心させるように微笑むと、苦しげに息をつきながら赤服の兵士もディアッカに微笑み返した。
「あいつ…アスカと、飲みに行く約束してるんです。そういうの、した事無いって言ってたから…。
じゃあ俺たちが連れてってやるよ、って…」
「…そっか。」
彼と仲のいいもうひとりの赤服の兵士は、ウィルスとの相性が悪かったのだろう、吐血を繰り返し意識も戻っていない。
だがその事実を告げることなどディアッカには出来ず、手早く兵士の点滴を取り替え、脈と血圧を測定する。
「絶対大丈夫だから…必ず助けるから、もう少しだけ頑張ってくれ。良くなったら、あいつに色々と教えてやってくれよな。」
そう言ってまた微笑むと、赤服の兵士は弱々しく微笑んだ。
「アスカに…どこ行きたいか考えとけ、って…伝えてもらえますか?」
「ーーああ。聞いとく。お前も、ちょっと休め。」
「はい…。」
そう言って辛そうに目を閉じる兵士を、ディアッカはただ見下ろすことしか出来なかった。
「ミリィ…」
そうだ、ミリアリアはどうしてるだろう。
ソファにぐったりと座り込みながら、ディアッカの意識はミリアリアに飛んでいた。
オーブにいるミリアリアの両親についても、ラクスに警備を頼まなければならない。
まだ、やることがある。
ディアッカは重い体を起こし、まずはイザークへと回線を繋いだ。
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予想以上に酷い、カーペンタリアの現状。
自分に出来ることを、と危険を省みず医療班の手伝いをするディアッカですが、
その現状に心身ともに打ちのめされます。
そしてプラントでは…。
2015,1,18up