15,意外だ…! 1

 

 

 

天使湯で散々イザークの講釈に付き合い、やや湯あたり気味のディアッカがブリッジに入ると、待っていたのはCIC席に座りこちらに笑顔を向けるミリアリアと、いい知らせと悪い知らせ、それぞれひとつずつだった。
ブリッジに集合する主だったクルー達を前に、マリューが難しい顔で口を開く。
 
「まずは、いい知らせからお伝えします。地球からこちらに向かっていたサイ・アーガイル君と連絡がつきました。AAへの到着は明後日18:00の予定。それに先立って、地球で入手できた分のGのデータをこちらに送ってもらいました。ひとまず先にミリアリアさんに目を通してもらいたいのだけど、いいかしら?」
 
その言葉に、了解しました、とミリアリアが頷く。
 
「次に、悪い知らせです。別便でこちらに向かっていたカズイ・バスカーク君のシャトルが何者かに襲われました」
 
ミリアリアの顔からさっと血の気が引いた。
「今、フラガ大尉とキラ君たちがMSで偵察に出たわ。ディアッカ君たちのどちらかだけでも出てもらおうと思ったけれど、こちらにミリアリアさんがいる以上、守りをおろそかにはできないでしょう。こうなってしまった以上、当面の目標は、サイ君とミリアリアさんをこの艦隊に合流させることですから」
ディアッカはそっとミリアリアのそばに近づいた。
気配に気づいてほんの少しそちらに目を向けたミリアリアが、不安そうな表情を覗かせたのを彼は見逃さなかった。
カズイ・バスカークの事はディアッカの記憶にない。
以前ミリアリアに聞いたところによると、捕虜時代に独房まで数回食事を運んでくれた奴らしいが、ディアッカが解放されると同時にカズイが除隊したせいで入れ違いになり、面識はほぼない。
 
「艦長、自分たちはどうすれば?」
 
先程の熱弁が嘘のように、怜悧な表情を纏ってイザークが指示を仰ぐ。
「カズイ君を襲撃したのは、ヴァレンタインと見てほぼ間違いないでしょう。シャトルはオーブの専用機で、それと分かる紋章付きの機体をわざわざカガリさんが用意したそうだし。とりあえずあなた方には、この艦とミリアリアさんの護衛と、明後日にサイ君が合流ポイントまでやって来た時の護衛をお願いします」
「了解しました」
イザークとディアッカが頷いた。
 
「あの、マリューさん」
 
それまで固唾を飲んで話を聞いていたミリアリアが、突如口を開いた。
「カズイは…襲われたってどんな状況なんですか?」
マリューは一瞬口ごもる。
かつて学友であり恋人でもあったトール・ケーニヒが戦死した時のミリアリアを、マリューは見ている。
だからこその艦長の逡巡を感じ、思わずディアッカは口を開いていた。
 
「カズイ・バスカークは奴らにとって殺していい対象じゃないはずだ。お前やサイと同じく、奴らが解析出来ないデータを解読できるであろう人材を、簡単にテロの犠牲者にするとは思えない」
 
ディアッカ発言の狙い、そしてミリアリアの考えていることに気づいたのだろう。
イザークもディアッカの意見をフォローする。
「だろうな。おおかた生け捕りにしてデータ解析をさせつつ、こちらとの交渉材料にするつもりだろう。奴らも必要なデータを持ってこちらに向かっているはずだからな」
「じゃあ、カズイは無事なの?」
ミリアリアの声が、ほんの少しだけ震えた。 
 
「ああ、確約はもちろん出来ねぇけど、こういう事例のセオリーで考えたらまずいきなり撃墜されたり殺されるって事はそうそうねぇな」
「そう…なの」
 
これで、少しでもミリアリアの気持ちが楽になればいい。
ディアッカもイザークも本当は気づいている。
テロリストの人質への扱いに、セオリーなど通用しないことを。
それでも、ミリアリアの不安を解消するために言葉を選んで説明してくれた親友に、ディアッカは心の中で感謝した。
後は、ここでは難しいデータ解析のためにミリアリアがブリッジを出てから、ラクス達も交えて改めて話し合えばいい。
 
「ではミリアリアさん、これがサイ君から届いたデータディスクです。解析はライブラリで?」
「いえ、ひとまず自室で見てみます。ターミナルの方も覗きたいですし。目ぼしい情報がなければライブラリに行きます」
 
そう言うとミリアリアは立ち上がり、マリューからディスクを受け取ると大事そうに胸に抱えた。
「分かりました。ただ移動の際にはジュール隊長かディアッカ君に必ず連絡を。それだけは守ってね」
そう言ってマリューが微笑むと、ミリアリアも弱々しいながらも笑顔を返した。
「了解しました。では私は自室に戻ります」
「あ、じゃあ俺送ってく」
そう言うとミリアリアは一瞬眉をあげたが、すぐに微笑み首を振った。
「ありがとう、ディアッカ。でも大丈夫よ」
そうしてブリッジを見渡し一礼すると、ミリアリアは一人でそこを後にした。
「ったく、あーゆーとこは相変わらずだよなぁ」
ボヤくディアッカだったが、エターナルとの通信が始まるとその表情は、すぐさま有能な軍人の顔に切り替わるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
016

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