31, 内通者

 

 

 
 

 

 

 
ディアッカ達がキサカから事件の一報を受けていた、同時刻。
ミリアリアはカガリを出迎えるため、サイやアマギとともにプラントの宇宙港にいた。
 
 
「ミリィ、カガリと会うの久しぶりなんじゃない?」
サイの言葉に、ミリアリアは嬉しそうに頷く。
「うん。ディアッカは地球でもうアスランとカガリに会ったらしいんだけどね。
新婚旅行で地球に行った時以来だから…直接会うのは1年半ぶりくらい、かな?」
 
 
 
カガリとミリアリアは、今や気軽に通信で連絡を取り合う仲だ。
一国の代表として慣れない政治の世界で苦労していた頃から、カガリはディアッカとミリアリアの仲を何かと気にかけ、色々と便宜を図ってくれた。
二人が別れ、ミリアリアがカメラを手にオーブを出た後も、北欧でテロに巻き込まれ心身を病んだ時も、カガリは手を尽くしてミリアリアを助けてくれた。
 
 
そしてミリアリアも、アスランとカガリの不器用な恋路を陰ながら応援していた。
最も、優柔不断で鈍感、煮え切らないアスランに腹を立てていたのが半分位だった気がするが。
それでも今、こうしてアスランがザフト軍属とはいえカガリのそばに戻った事をミリアリアは嬉しく思っていたし、自分達よりもたくさんの障害があるのは分かっていても、二人には幸せになって欲しいと思っていた。
 
一度は互いの手を離してしまった二人だが、ミリアリアはディアッカと結婚し、アスランが在オーブ大使として地球に向かったのがちょうど2年と少し前。
カガリとは通信でたまに近況報告をしているが、二人が直接顔を合わせたのは新婚旅行で地球に赴いた時以来だ。
そして今回の来訪は、ザフトの大使であるアスランも別便であるが随行すると聞かされている。
 
 
二人の仲は、あれから進展しているのだろうか?
ミリアリアは、カガリに会ったらどんな話をしよう、と心が浮き立った。
 
 
 
「あれ…アスランの乗った艦かな?」
 
 
 
サイの声にミリアリアが振り返ると、中型の戦艦が入港してくる所だった。
「そうみたいね。クサナギは後から来るんじゃない?」
ザフト兵の動きが活発になった所を見るに、その艦にはやはりアスランが乗っているようだ。
元から停泊していた黒い艦の横に静かに停泊すると、程なくハッチが開きアスランの姿が現れる。
ザフトの白い隊長服を身に纏ったアスランは、出迎えたザフト兵に美しい敬礼で応えると顔を上げた。
そして、ミリアリア達の姿に気付いたのだろう、微かに目を見開くと端正な顔が少しだけ緩み、そうして柔らかく微笑む。
 
ーーまた、ちょっとだけ…いい男になった、かも?
 
ディアッカが聞いたら目をむいて怒りそうな事をちらりと考え、ミリアリアもそっとアスランに微笑んだ。
 
 
「ハウ、アーガイル。クサナギだぞ。」
アマギの声に、ミリアリアとサイは姿勢を正す。
あっという間に近づいてくる、懐かしい艦。
かつてあの艦と共に、幾多の戦火を乗り越えた事が嘘のようだ。
ミリアリアが目を細めて見入っているうちに、クサナギもまた静かに入港し、エンジンが止まった。
キサカに促され、ミリアリアとサイはカガリを出迎えるべくクサナギの近くに移動する。
アスランもまた、何名かの部下を引き連れこちらに向かってくる所だった。
 
と、タラップが下りる前にクサナギのドアがゆっくりと開く。
 
 
「……え?」
 
 
ミリアリアの口から、驚愕のあまり声が漏れる。
開いたドアの向こうにーーー見知らぬ女性に拳銃を突きつけられて立ちつくす、カガリ・ユラ・アスハの姿があった。
 
 
 
「カ…ガリ?」
 
 
 
アスランの声に、俯いていたカガリははっと顔をあげた。
 
「誰だ!あれは!」
「どうした?どうなってる?」
「ジュール隊長とヤマト准将に連絡しろ!」
 
呆然とクサナギを見つめるミリアリアの耳に、周囲のザフト兵の声がこだまする。
 
 
何がどうなってるのかは分からないけど…落ち着いて事態を見極めなければ!
ミリアリアは詰めていた息をゆっくりと吐き出す。
そして、開いたドアの向こうに立つ見知らぬ女性とカガリをじっと観察した。
 
 
長い黒髪に切れ長の目。
どこか覚えのある雰囲気の女性だ。
一体、どこでーー?
 
そして、カガリはさすがに緊張しているのだろう、青ざめた表情で一点を見つめている。
 
 
ーーいや、違う。
ミリアリアは目ざとく気づいていた。
 
 
カガリが何かを言いたげにじっと見つめているのは、アスラン、だった。
 
 
銃口が一斉に上がる音が、ミリアリアの意識をこちらに戻した。
いつの間にか駆け付けたのか、イザークとシホがクサナギに銃を向けていた。
それに倣うように、護衛に当たっているザフト兵達が、カガリとその隣に立つ女性に銃口を向けたのだ。
 
「カガリ様!」
 
食い入るようにカガリを見つめていたアマギの叫びに、ミリアリアはびくりと体を震わせる。
 
 
「…アスハ代表を殺されたくなければ、銃を下ろせ。」
抑揚のない声が、静まり返ったデッキに響いた。
 
 
「貴様、何者だ!カガリ様から即刻離れろ!」
アマギの怒声に臆する様子もなく、女性がくすりと笑った。
 
 
「…アマギ、落ち着け。」
 
 
不意にカガリが口を開いた。
顔色は悪いが、口調はしっかりとしている。
 
 
「そちらの要求を聞きましょう。」
 
 
そう言って前に進み出たのは、サイだった。
女性が訝しげな顔になる。
「…誰だ?」
 
「在プラントオーブ総領事館の、サイ・アーガイル特別参事官補佐です。
あなたはどなたですか?要求は?」
 
サイは丁寧な口調で女性に問う。
女性の視線がぐるりと一周し、ミリアリアの元でぴたりと止まった。
ミリアリアは女性の視線に気付き、一瞬体を強張らせる。
しかし、生来の負けん気が顔を出し、きっ!と碧い瞳で女性の視線を正面から受け止めた。
 
 
「…こちらの要求はふたつ。
オーブ首長国とプラントの国交断絶。そして、在プラント、オーブ首長国総領事館の完全撤退だ。」
 
 
後方で銃を構えるイザークの体がびくりと震え。
サイの後ろに庇われるミリアリアの碧い瞳が、驚愕に見開かれた。
 
 
「…国交断絶に、総領事館の完全撤退?」
 
 
サイの声は、落ち着いたままだ。
 
 
「…そうだ。3日、猶予をやる。それまでに、まずはミリアリア・エルスマンをプラントから出せ。
オーブ総領事館宛に、専用回線のコードを送った。
その通信コードに連絡をよこせば、責任を持って彼女を回収する。
彼女を収容後、アスハ代表には正式に国交断絶を表明して頂き、残りの大使館員もプラントを出てもらう。」
 
 
ミリアリアは愕然とその言葉を聞いていた。
 
「3日、ですか。なかなかタイトなスケジュールですね…。もし、拒否したら?」
 
女性はふっと笑って小首を傾げると、ポケットから無造作に小さな瓶を取り出して高く掲げた。
 
 
「これを撒く。私が開発した、コーディネイターのみに作用するウィルスだ。
カーペンタリアの件は聞いているだろう?」
 
 
サイが訝しげな表情になり、ミリアリアの碧い瞳が驚きに見開かれた。
 
 
「カーペンタリアの件…?」
「まだ、聞いていないと?…なるほど。ここにずっといたなら無理もないな。」
 
 
ミリアリアは心臓を鷲掴みにされたような衝撃と戦っていた。
カーペンタリアに何があったの?!
確かディアッカは、任務で滞在していたオーブから、今日カーペンタリアに戻るはずだ。
ミリアリアの脳裏に、ディアッカの優しい笑顔が浮かぶ。
 
 
「ザフト軍には既に一報が入っているのではないか?
…カーペンタリアの一部の兵士に、このウィルスを感染させた。このまま放っておけば…そう、一週間もすれば死ぬだろう。」
 
 
ミリアリアは思わず口元に手をやった。
 
 
「こちらの要求が聞き入れられないようなら、プラントにもカーペンタリアと同様のウィルスを撒く。」
 
 
カガリが泣きそうな顔でアスランを見つめる。
 
「コーディネイターのみに作用する特殊なウィルスだ。
カーペンタリアに仕掛けたものは経口投与用に調整したが、本来は空気感染も可能で感染力も強い。
そして感染すれば、1週間ともたず死に至る。」
「…なぜ、そんな事を?」
 
サイの言葉に、女性はひらひらと小瓶を振って微笑んだ。
 
 
「…復讐。ただそれだけだ。」
 
 
その言葉が合図のように、カガリが立つドアの前にタラップが現れる。
 
「艦を移動する。道を開けてもらおうか。」
 
ミリアリアが慌てて辺りを見回すと、アスランが乗って来た艦の横に停泊していた黒い艦のドアが開き、同じようにタラップが下ろされるところだった。
 
 
ーー内通者が…いたってこと?!
 
 
ミリアリアは思わずイザークに目をやる。
イザークは、ピタリと銃口をカガリの隣に立つ女性に合わせ、アイスブルーの瞳できつい視線を送っていた。
 
「私を狙い撃つのは自由だが…同時にアスハ代表も死ぬことになる。
あちらの艦からも複数の狙撃手がアスハ代表を狙っているのでな。」
 
そして女性はカガリを促しタラップを降りると、割れた人垣を悠々と歩き、カガリを促して黒い艦のタラップを上がらせる。
 
 
「待て!まだ貴方の名を聞いていない!」
 
 
穏やかだったサイの声に、初めて焦りが混じった。
 
 
「…セリーヌ。セリーヌ・ノイマン。」
 
 
こちらに背を向けたまま、それだけ答え。
タラップを上がりきった女性はドアの開閉ボタンを押した。
と、カガリが女性を振り切りこちらを振り返った。
 
 
「…ミリアリア!私は大丈夫だから!絶対に来るな!!アスランも!!」
 
 
その言葉に込められたカガリの想いが、ミリアリアの胸に突き刺さる。
 
「カガリ!」
 
一歩踏み出したアスランの前で、無常にもドアが閉まり。
二人の乗った艦は静かに出港し、宇宙へと消えた。
 
 
 
 
 
 
 

016

あの方の手により続発する事件。
そして、セリーヌはノイマンさんと何か関係があるのでしょうか…
急展開が続きます。

 

 

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2014,12,23up