「…くそっ!どうすれば…」
ジュール隊隊長室。
だん、と机を叩くアスランの姿を、ミリアリアはただ呆然と見つめていた。
自分がプラントを出なければ、ウィルスが撒かれる。
カーペンタリアの兵達と同じように、プラントの市民達がウィルスに感染したらーー!
そこまで考えて、ミリアリアはふと顔を上げた。
「ディアッカ…」
ディアッカは、今どこでどうしているのだろう。
まさか、カーペンタリアでウィルスに…?!
「カーペンタリアから何か連絡があったの?イザーク。」
ミリアリアの不安に気付いたのだろう。
サイがイザークに向き直り、そう問いかける。
「まずは、彼女の話の信憑性から知りたい。
でないと、俺達としても今後どうすればいいのか決められないからね。
だから…教えて欲しい。これは、オーブの特別参事官補佐としてのお願いだ。」
イザークはその言葉を受け、アイスブルーの瞳で真っ直ぐにサイを見つめる。
「ーーアスハ代表が間も無く到着すると連絡があった、すぐ、後の事だ。カーペンタリア基地から、一部の兵士達が原因不明の不調を訴え、次々に倒れたとの報告が入った。これはまだ、ごく一部の人間しか知らない情報だ。」
サイが愕然とした表情になる。
そしてシホは、泣きそうな顔をするミリアリアを気遣わしげに見やった。
「ミリアリア。ディアッカは現在任務の為スカンジナビア王国までシン・アスカと共に出向いている。だからあいつはカーペンタリアには、いない。今、オーブ軍の方で連絡をつけてくれているそうだ。」
イザークのその言葉に、ミリアリアの体から力が抜ける。
気が抜け、ふらつく体をシホが庇い、そっとソファに座らせた。
「ーー失礼。地球にいるノイマン一尉と連絡がついた。」
ノックもそこそこに、アマギが息を切らせて隊長室に現れる。
「ジュール隊長。思った通り、セリーヌ・ノイマンはアーノルド・ノイマンの血縁だった。」
部屋に入るなりそう口にしたアマギを、ミリアリアはびくりと体を震わせながら振り返った。
「ノイマンさんの、ですか?」
アマギは厳しい顔で頷く。
「…実の姉、だそうだ。」
ミリアリアは絶句した。
「失礼致します。」
重い沈黙が支配する部屋に、ラクスが現れた。
キラとバルトフェルドがそれに続く。
キラは悄然とするミリアリアに気遣わしげな視線を送るが、ミリアリアは俯いたままだった。
「カーペンタリアの件はわたくしも確認致しました。…あちらの提示したリミットは三日。それまでに、何とかして事態の収拾を図りたいのですが…。残念ながら、私達コーディネイターは、あのウィルスの存在がある限り、下手に動くことが出来ません。」
ラクスの苦しげな声。
ミリアリアの小さな手が、膝の上でぎゅっと握られた。
アマギがラクスに向き直り、口を開く。
「あの女性は、AAの操舵士、アーノルド・ノイマンの実の姉であることが分かりました。」
「ノイマンさんの?!」
キラが驚きの声をあげた。
アマギは頷き、話を続ける。
「ノイマンに確認した所、確かに故郷では医療機関に勤務していたとの事です。しかし、彼らは地球軍を離反した身ゆえ、先の大戦の後はオーブに亡命しています。そのため、ノイマンも現在の姉君の動向は分からないそうです。」
「そうですか…。」
ラクスは何かを迷うように、目を伏せる。
そして、何かを決心したように顔を上げると、懐から小さなカードを取り出した。
「ミリアリアさん。これを。」
「え…?」
ラクスが差し出したのは、停戦協定の時にミリアリアが預けた、ターミナルの許可証、だった。
「これを使って、今回の事件について調査をして欲しいのです。なぜ、あの方がこのようなことをするのか。あの方がおっしゃっていたウィルスの真偽。今の私達には、分からないことが多すぎます。」
ミリアリアは思わずラクスを目を見上げた。
「…でも、私はもう…」
「分かっています。ミリアリアさんがどのようなお気持ちでわたくしにこれを託されたか。それでも…ごめんなさい。わたくしのわがままです、これは。」
ターミナルからーージャーナリストの職から離れて久しい。
そんな自分がどこまでやれるか分からないが、手をこまねいて見ているわけには行かないのだ。
「…分かったわ。やってみる。」
ラクスはミリアリアに向き直り、許可証を差し出す。
ミリアリアは少しだけ躊躇った後、そっとそれを受け取った。
***
連れ去られた艦の中、カガリはセリーヌの手を振りほどき、きつい眼差しで睨み付けた。
「ミリアリアをどうするつもりだ!」
「…コーディネイターに、教えてあげるのです。愛するものを失う悲しみを。一人取り残される恐怖を。」
先程の口調から打って変わり、歌うようにセリーヌは告げる。
「…アスランは来ないぞ?コーディネイターはそこまで馬鹿ではない。罠と分かっていて、来るはずがないだろう!」
「…では、ディアッカ・エルスマンは?彼はカーペンタリアにいるのでしょう?」
カガリは言葉に詰まった。
ディアッカが極秘任務でスカンジナビアに出向いている事をセリーヌは知らないのだろうか?
だとすれば、それをおいそれと口にするべきではないだろう。
「…カガリ様には、私の部屋に待機して頂きます。こちらへ。」
黙り込んだカガリに微笑むと、セリーヌは銃を構えたままカガリを促し歩き出した。
クサナギにいるオーブの兵士達は、カガリが人質としてセリーヌとともにある以上、手など出せないであろう。
何より、ここで焦って自分が死ぬ訳にはいかない。
カガリは黙って、セリーヌに従った。
通されたセリーヌの部屋には、数台のラップトップや本が乱雑に積み上げられていた。
「コードキーのナンバーはすでに変更済みです。下手に弄らないでくださいませね?トラップを仕掛けてありますので。」
「…私は、元来機械には弱い。」
くすくすとセリーヌは笑った。
「そのようですね。ではますます、余計な真似はせぬようお気をつけ下さい。私は、オーブにいる弟と話して参ります。」
「…弟?アーノルド・ノイマンか?!」
セリーヌの黒髪がふわりと揺れる。
「ええ。この先どうなるかわからぬ身の上ですもの。少しくらい話をしても罰は当たらないでしょう?」
「ならば、ここで話したらどうだ?」
なんとかチャンスを掴もうとするカこガリを、セリーヌはせせら笑った。
「その手には乗りません。では、どうぞ大人しくしていてくださいね、カガリ様。」
セリーヌが部屋から出て行く。
カガリは、イライラと部屋を歩き回りながら必死で考えた。
ミリアリアとアスランの顔が頭に浮かび、カガリはそっと左手の薬指に右手を添える。
そこには、シンプルだが繊細な意匠を凝らした指輪があった。
目の前に二人がいたのに、自分は一言、来るなとしか言えなかった。
悔しさに、カガリの琥珀の瞳に涙が浮かぶ。
そんな自分の顔が机上のモニタに映り、カガリは慌てて涙を拭いた。
「…待て、よ?」
ドアに細工がされていると言っていたが、ラップトップは?
セリーヌにはああ言ったが、カガリもパソコンくらいは動かせた。
ーーもしかして、ウィルスについての何かがこの中に入っているかもしれない!
カガリは端末の電源を入れた。
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再びターミナルの許可証を手にしたミリアリア。
しかし、その胸中は複雑です。
そしてカガリは、目の前の端末から何かを掴む事が出来るのでしょうか?
2016キラカガ誕小噺に合わせ、少し改稿しました。リンクの修正もいたしました。
2015,1,8up
2016,5,19リンク修正・改稿