仮面舞踏会 6

 

 

 

 
「…仮面舞踏会に、任務で、ねぇ…。」
 
 
ディアッカの必死の説明に、サイは頬杖をつきもう一度上から下までそのド派手な格好を眺め、頷いた。
 
「イザークとシホさんは?」
「外のエアカーで待機してる。とりあえずこのカッコ見せてあいつに納得してもらわないと俺の疑いが晴れないじゃん?証拠保全だよ、証拠保全!」
 
別にそれ以外でも、疑いを晴らす方法などたくさんあると思うのだが、当の本人は全くそれを考えていないようだ。
…こいつ、コーディネイターの中でもかなり優秀なはずなんじゃなかったっけ?
 
「で、どうするの?」
「あ?そりゃあいつを追いかけるさ。なぁサイ、あいつどこに行くって言ってた?ここに来るのか?」
「え?あ…」
 
サイはどこまで話すべきか、ぐるりと思考を巡らせる。
本人同士で話をするのが一番だが、頭に血の昇ったディアッカに果たしてそれが出来るかどうか…。
それに、ミリアリアに“お願い”した事もあり、すぐ二人が再会するのは難しいだろう。
 
 
「えっと。とりあえずミリィは、ここには来ないよ。」
「じゃあどこにいる?」
仮面を付けたまま詰め寄られ、サイは椅子ごと体を仰け反らせた。
「…ミリィは、その、宙港の近…」
「宙港っ?!」
何を勘違いしたのか、ディアッカの声がひっくり返る。
  
「そういやお前さっき、シャトルの話してたよな?最終便がどうとか…」
「え、や、あれは」
「まさか…あいつ……っ!」
「は?」
「くそっ!宇宙超えての家出かよ!」
「はあぁ?」
  
あまりの発想の飛躍に、サイはぽかんと目の前のド派手仮面を見つめる事しか出来ない。
 
「サイ、仕事中に悪かったな。じゃ、俺急いでるから。」
「ちょ、ディアッカどこ行くのさ?!」
「宙港。地球行きの搭乗口で待ってりゃあいつを捕まえられるだろ?」
  
ーーーやっぱり、とんでもなく勘違いしてる!!
  
「いや、そのカッコで宙港うろつくってどこから見ても不審者だし、それで万が一ミリィの事追いかけでもしたらお前ただの犯罪者」
「大事な奥さんに逃げられるかの瀬戸際に、カッコなんか気にしてられっか!!じゃな!」
「ディアッカ!だからそれは勘違い…!」
 
慌てて呼び止めたサイの声は、残念な事にディアッカへは届く事がなく。
ド派手仮面姿のまま執務室を飛び出して行ったディアッカを、サイは呆然と見送るしか無かった。
 
 
「…ま、いいか。最終的にミリィも宙港には行くんだし。」
 
 
サイ・アーガイル特別参事官補佐は、この数年で随分と大雑把…ではなく、楽観的な性格へと変貌を遂げていた。
 
 
 
 
「宙港行くぞ。」
風のようにエアカーへと舞い戻ったディアッカの言葉に、イザークとシホは目を剥いた。
「ななな、なんで?」
「おま、そんな人の多い所に行ってどうする!もう少し場所を絞ってだな…」
「ミリアリアが、家出するらしいんだよ。ーーー地球に。」
低い声で告げられた内容に、二人はぴきん、と固まった。
 
 
ーー家出はともかく、行き先がおかしいでしょうミリアリアさんっ!!
ーーどれだけスケールのでかい家出だ、ミリアリアっ!!
 
 
どちらがどちらの心の叫びだったかは、この際どうでもいい事で。
「俺は宙港の中を捜索する。お前らは入口付近を見張ってくれ。この車で巡回してくれるだけでもいい。」
「あの、ディアッカ…」
「わかったな?」
ぎろり、と射殺すような視線を向けられ、シホは震え上がってこくこくと頷いた。
 
 
 
三人を乗せた車は程なくアプリリウスの宙港に到着した。
「俺は地球行きの搭乗口付近を見張る。もし先にお前達があいつを発見したらすぐに確保して俺に連絡してくれ。」
「……了解」
これ以上何か口答えしたら、どうなるか分からない。
これまた風のように宙港内に消えて行くディアッカを、二人は呆然と見送った。
 
「ディアッカ…仮面付けたまま行っちゃいましたね」
「あ?ああ…本人は気にしてないようだし、いいんじゃないか?」
 
何でこんな事になったんだろう…。
二人は同じ事を心の中で思いながら、どこか疲れた表情で顔を見合わせ、溜息をついた。
 
 
 
***
 
 
 
一方その頃ミリアリアは、宙港に隣接したカフェにいた。
「良かったのかい?アーガイルが来るとばかり思っていたんだけど…」
目の前に優雅に腰掛ける、どこか知的な雰囲気を漂わせる男性に、ミリアリアはにこりと微笑む。
 
「ええ。大丈夫です。それよりこの後どうされますか?シャトルの時間までまだ2時間はありますよね?」
「そうだな…せっかく君が来てくれたんだし、どこかで軽く飲もうか?」
「あ、いいですね、それ!!じゃあ早速行きましょう?」
  
ディアッカだって私以外の異性と仲良くしてるんだもの。それに、この人は…そんなんじゃないし!
  
少しだけざわつく心にそう言い訳すると、ミリアリアは男性ににっこりと微笑み、宙港に隣接するホテル内のバーに向かって歩き出した。
 
 
 
「本当にミリアリアさん、地球に家出するつもりなんでしょうか…」
宙港の周りをぐるぐると巡回しながら、シホがぽつりと呟く。
「普通なら考えられんが…相手はミリアリアだからな。彼女の剛胆さは、俺もよく知っている。」
「でも…私、さっきの二人の会話、聞こえたんです。」
「シホ?」
イザークは車を停め、シホを振り返った。
 
 
「ミリアリアさん、ディアッカに“嘘つき”って言ってました。
“お前しか要らない、って言ったくせに”って。
だからきっと、ものすごくショックだったんだと思うんです…。」
 
 
不安げなシホに、イザークは表情を緩め、優しく微笑んだ。
「とにかくミリアリアを探そう。彼女の誤解を解かない事には、な。」
「…そうですよね。でないと…え…」
言葉の途中で、シホの紫の瞳がまんまるに見開かれる。
「な…あ、あれ…」
「何だ?」
シホが震える指で窓の外を指差す。
そこには。
 
 
「ミリアリア…?」
 
 
ミリアリアが見知らぬ男性と談笑しながら目の前を通り過ぎ、宙港に隣接したホテルへと消えて行くのを、二人は驚きに固まったまま見送った。
 
 
 
 
 
 
 
ma01

誤解が誤解を生む展開になって参りました(笑)

残り2話、もうしばらくお付き合い下さいませ!

 

 

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2014,12,20up