仮面舞踏会 2

 

 

 

 
そして、あっという間にホテル・オリエントへと向かう時間が迫って来た。
 
「ザフトのIDカードは置いて行くように、ってラクス嬢から伝言があったぜ。どうやら入口に探知システムがあるらしい。」
「ふん…さすが機械工学の専門家だな。そう言う所は。」
「いやいや、人聞き悪い事言うなよ。一応うちの奥さんも機械工学の専門家みたいなもんなんですけどね、隊長。」
「あいつらは専門家じゃない。あれは副業だ。生計が立てられるレベルだ。」
「…隊長、それ、ちょっと違う気がします…。」
 
 
キラとサイ、そしてミリアリアはヘリオポリスのカレッジに飛び級して入学し、機械工学を専攻していた。
師事していた教授はモルゲンレーテの優秀な技術者でもあり、彼が選び抜いた生徒達は過酷な課題を次々とこなし、果てはMSの設計にまで関わる羽目になっていた。
全ては不可抗力で彼らの意思では無いのだが、それでも大戦直後やその後時折垣間見る彼らの優秀さは、イザークも認めざるを得なかった。
ナチュラルだから、と侮ってはいけない。
遺伝子調整されていなくても、彼らは生まれ持った資質やそれを補う努力でコーディネイターと同じか、それよりももっと優れた能力を開花させる事も出来るのだ。
 
かつてナチュラルを軽視していたイザークであったが、今はもうそのように思う事はまず無い。
親友が愛した女性がナチュラルで、簡単に心を開かない自分が初めてディアッカ以外に深い付き合いをしたいと思ったのもナチュラルで、しかも二人はオーブの特別報道官で、参事官補佐で外交官で。
どこまでも優秀な彼らに、そしてその他にも多数のナチュラルと関わる機会を得て、イザークはナチュラルに対する考えを改めたのだった。
 
 
「シホ、お前どこで着替えんの?」
「へ?」
「いや、俺はミリィ以外に興味ねぇからお前が下着姿になろうが全裸になろうがかまわねぇけど、イザークが…」
「おおおおお前は馬鹿か!!シホは隣の仮眠室で着替えろ!いいか、絶対に覗くなよディアッカ!」
「いや、だから俺はミリィ以外…」
「うるさいこのエロ魔人が!俺たちもさっさと着替えるぞ!」
「いや魔人じゃねぇし。そーいうのはミリィ限定で」
「ああああああのっ!私着替えてきますね!」
 
 
こいつら、狼狽え方まで似て来たな…。
二人の恋路を実はとても気に掛けているディアッカがそんな感慨に浸っているうちに、シホは風のように自分用に与えられた箱を抱えて仮眠室に消えて行った。
 
「ほらイザーク、さっさと着替えちまおうぜ。」
「分かっている!!」
 
ぷりぷりと怒る親友の姿に、ディアッカはこの後の事態を想像して思わずくすくすと笑った。
 
 
 
ーーーそして30分後。
 
 
 
「おい…これは何の冗談だ」
「ラクス嬢の本気が詰まってるって言ったのお前だろー?」
「本気……」
イザークは本棚のガラス扉に映った自分の姿に絶句し、そしてそろそろと自分の首から下を見下ろし、震える声でそう呟いた。
 
 
イザークが身に纏うのは、まずフリルたっぷりの白いシャツ。
細いリボンタイの色は、なぜか葡萄のような濃い紫。
長めのジャケットは黒のダブルで、全体的にグレーで縁取りが施されている。
そして裾には同布のフリル。
ちなみに袖口からは、中に着たシャツの袖口にあしらわれたフリルが覗いている。
ボトムはリボンタイと同じ紫の、やけに細身なシルエットのパンツ。
シルエット的には百歩譲って問題ない、としても、なぜ両サイドに黒いリボンが交差するようにあしらわれているのだろう。
このリボンは果たしてこのパンツにおいて、どのような役割を持っているのだろう。
靴は、どう見ても必要のないベルトや金具がたくさんついた、先の尖った黒いショートブーツ。
この靴は武器としても使えるのだろうか?頑張れば使えそうな気がする。
 
極めつけが、胸元に飾った、これまた大きな薔薇のコサージュ。
生花と見まごうような精巧なそれは、やはりリボンタイと同じ紫。
そしてなぜかイザークの銀髪は、ディアッカによって綺麗に纏められ、フェイスラインに沿って一筋ずつを残して首の後ろで一つに結ばれてしまっていた。
 
 
「普段の髪型のまんまで白い衣装だとどうしたってお前ってバレちまうだろ?ラクス嬢の警備やら何やらでメディアにしょっちゅう顔出してるんだから。
だから、お前はそれな。いやー、美形は何着てもサマになるよねぇ。」
 
 
からかうようなディアッカの言葉に振り返ったイザークは、目の前に立つ親友の姿に絶句した。
 
 
「お、おま、それ…それは一体、何の冗談だっ!!」
「あ?冗談じゃねーよ。仮面舞踏会なんてこんなもんだぜ?普通。」
「普通も何も、そのようないかがわしい場に足を踏み入れた事など俺は無いわ!!」
 
 
ディアッカの纏う衣装はーーーイザークのそれとは正反対の、白。
白いシャツに細めの黒いネクタイ、肩に房飾りのついたジャケットの中に着たベストはブルーグレー。
パンツも同じ白で、ベストと同色の靴ひもを使った黒の編み上げブーツにパンツの裾をインしたスマートなシルエットだ。
だがそれを全てぶちこわす為に用意された(イザークにはそうとしか思えなかった)、肩からふぁさりと下がる白に所々黒い羽を混ぜたボリューム満点なリアルフェザーのマフラー(厳密には違うのだが、やはりイザークにはマフラーにしか見えなかった)が、ディアッカの派手な外見に薄気味悪い程よく似合っている。
 
 
「シホ、時間かかってんなー。ラクス嬢から、髪型に関しては俺がセットするよう頼まれてんだよね。
時間ねぇし、イザークちょっと見て来いよ。」
「な…何だとぅっ!?」
もはや語尾からして崩壊寸前なイザークに、ディアッカは仮眠室を指差しくすくす笑う。
 
「俺が見て来てもいいわけぇ?」
 
ーーこいつ……完全に、完璧に楽しんでいる!この任務を!
イザークはぎりぎりと歯を食いしばりながらも、仮眠室のドアに立ち控えめにノックをした。
 
 
「シホ?準備はできたか?」
「きゃあぁぁぁ!!」
「な、どうしたシホ!!」
「ちょ、ままま待って下さいっ!!開けないでっ!」
 
 
あまり人前で表には出さないが、恋人であるシホを溺愛するイザーク。
そんな彼が愛しい人の悲鳴を聞き、待てる筈も無かった。
「シホ!無事か!!」
ばん、と大きくドアを開けたイザークは、シホの纏う衣装に顎が外れんばかりに口を開け、絶句し立ちつくした。
「何騒いでんの?二人して」
ひょい、と部屋を覗き込んだディアッカに、シホは怒りに燃える視線を向けた。
 
 
 
「ちょっとディアッカ、何なのよこれ!どこの傘の骨よ!!仮にも任務で行くんでしょ?これじゃ武器一つ隠せないじゃない!馬鹿なの?」
 
 
 
シホの衣装は……大きく開いた胸元が特徴的な(いや、全てにおいて特徴的だが)臀部までの黒いビスチェに、腰の部分に装着したスカート型の骨組みに被さる薄い布、のみ。
足元に落ちているのは、腕にホックで巻き付けて留めるタイプの袖、だろうか。
下着かと思う黒いレースに、薔薇の模様が刺繍されている。
普段滅多に人前にさらさない脚線美は、網タイツとガーターベルト、というどうにも扇情的なアイテムで覆われていた。
装飾と言えばそれくらいで、しいて言えば、骨組みの裾にいくつものタッセルがぶら下がっており、どうやらそれが装飾となっているようだった。
見えそうで見えない、否、微かに透けて見えているスカートとおぼしき布の中身に、ディアッカは内心口笛を吹き、イザークは卒倒寸前になっていた。
 
 
「……あ、ごめん。それラクス嬢のだ。持ってくる箱間違えた。」
 
 
何でも無いような口調でそう告げたディアッカに、シホもイザークもその場に崩れ落ちそうになる。
「ラクス嬢、それに一目惚れしたんだってさ。今度のキラの誕生日はこれでお祝いしたい、とか言ってたな。
とりあえずキラに連絡して速攻シホの衣装持って来させるから、お前それ脱いどけよ。
あと、タイツと靴はそれで合ってるから。一度適当な服着てこっち出て来て。キラが来るまでに髪仕上げちまいたいから。」
「は、え?髪?」
「ほら早く!イザークも出ろって!それとも何?シホの着替え手伝うの?」
「ききき貴様、な…」
 
 
顔を赤くして狼狽えまくる二人を急かすと、ディアッカは携帯を取り出しキラに事の顛末を説明した。
「すぐ持ってくるってさ。イザークはもうそれでOKだろ?ちょっと落ち着けって。」
「俺は充分落ち着いているっ!!」
こいつ、いくつになってもこんなんなのかな…。
アカデミー時代、アスランとの勝負に負けた後のイザークの姿を思い出し、ディアッカはそっと溜息をついた。
 
 
 
 
 
 
 
ma01

衣装だけで一話まるまる使ってしまった…。
さすが短編が書けないと豪語するだけありますね(笑)
それにしてもシホの衣装、どうしようもないですねホント(´-ω-`;)
それを気に入ったラクスといい、それで誕生日を祝われるキラといい、
うん、仲が良くていいですね(違)
次はミリアリアも登場します!!

 

戻る  次へ  text

2014,12,17up