仮面舞踏会 1

 

 

 

 
「ラクス、イザーク達が来てくれたよ」
 
ほんわかとした笑顔に、のんびりとした声。
…こいつ、最近平和ボケしてねぇか?
ドアの前に立ち、どうぞ、と微笑むキラ・ヤマト准将を前にディアッカ・エルスマンはそんな事を思った。
元々はヘリオポリスの学生であったキラは、あれだけ腕の立つMS乗りであってもどこかおっとりとしていて。
クルーゼ隊にいた頃散々辛酸をなめさせられた事がまるで嘘のようだ。
 
 
「イザークさん、ディアッカさん!お忙しい中ありがとうございます。…あらあら?シホさんはいらっしゃいませんの?」
 
 
ピンク色の髪に、ミルク色の肌。
イザークとは趣の違う水色の瞳は、柔らかく細められにこやかな笑顔に彩りを添えている。
プラント最高評議会議長、ラクス・クラインはやはりどこまでもプラントのアイドルであった。
 
「シホは別件で遅れています。よろしければ先に用件を伺いたいのですが。」
 
きりりとした表情でラクスに向かい合う、ジュール隊隊長、イザーク・ジュール。
こいつも確かアカデミーの頃、ラクスのファンだったよなぁ…。
当時からライバル視していたアスランの婚約者がラクスだと知った時のイザークの暴れっぷりを思い出し、ディアッカは小さく溜息をついた。
…ま、憧れと実際に好きになった女じゃやっぱ違うよな。
 
「今日お二人にわざわざいらして頂いたのは、特殊任務のお願いがあったからなんですの。」
 
その物騒な響きに、イザークとディアッカは思わず目を見交わした。
 
 
 
 
 
「仮面…舞踏会?」
「はい。」
「それに…おれ…いや、私達が?」
「はい。」
にこにこと微笑むラクス。
 
 
「急な話で申し訳ありませんけれど、明日、“ホテル・オリエント”で開かれる仮面舞踏会に出席して頂きたいんですの。」
 
 
その、非常にいかがわしい響きに、イザークは絶句する。
「…何の冗談ですか?なぜ自分たちがそのようないかがわしい場に…」
あまりの事に、声を震わせラクスに詰め寄るイザーク。
そしてその後ろでは、ディアッカが興味深そうな目でそんな二人をじっと見つめていた。
 
「ラクス嬢。パーティーの主催者は?」
 
ディアッカの問いかけに、ラクスはそちらに向き直り、また微笑んだ。
「ホテル・オリエントの筆頭株主である、ロラン・キンダーソン議員。ご存知ですか?」
「確か…マイウス市出身の議員ですよね?兵器の製造会社を経営している…」
 
 
マイウスは、プラントにおける機械工学・ロボット工学の拠点である。
MSの製造はもちろん、それに関わる兵器工場なども多く、かつての大戦時にオーブから亡命して来た技術者達の多くが今でも暮らしている。
そしてMSの製造について回るものと言えば、やはり兵器の製造だ。
戦争が終わった今でも、ザフト軍は定期的にMSに乗り演習や哨戒活動を行っている。
よって、MSの開発・生産は研究課題として続けられ、また兵器の開発も同じだった。
 
「はい。今回の任務は、キンダーソン議員が主催する仮面舞踏会への潜入、そしてその舞踏会の最中に行われるであろうテロリストへの武器の横流しに関する密談のデータ収集です。…受けて、頂けますか?」
 
小首を傾げてにっこりと微笑むラクス。
そのかわいらしい口から飛び出したのは、形式上“確認”の意味を持つ言葉。
しかし実際は、確認ではなく“命令”と同じ意味である事を、ディアッカも、そしてイザークもよく分かっていた。
 
 
「………ひとつ、お伺いしてもよろしいですか?」
「はい、何なりと。」
 
 
イザークの問いかけににっこりと微笑むラクスと、同じようにその後ろでニコニコと微笑むキラ。
その背後に何となく黒い霧のようなものが見えたのは、ディアッカの気のせいであろうか。
 
 
「なぜ、我々にそのような任務を?」
 
 
ラクスは少しだけ目を見開き、そしてふんわりと微笑んだ。
その天使のような笑顔に見とれるイザークの姿に、ディアッカは心底、ここにシホがいなくてよかったと思う。
いくら二人の絆が強くても、自分以外の女性の笑顔に頬を染めるイザークの姿など、シホも見たくはないだろうから。
…当然ディアッカだって見たくはないが、これはもう不可効力である。
 
 
「わたくしの知り得る中で、あなた方が一番こう言った場に適任だと思ったからですわ。
きっと仮面もお似合いですわ。ねぇ、キラ?」
 
 
イザークは、うん、そうだよね、とこれまたにこやかに笑うキラとその恋人ーーかつて小鳥のように愛らしい、と評したこともある歌姫を前に、ただ呆然と立ち尽くした。
 
 
 
 
そして翌朝。
 
「行ってらっしゃい、ディアッカ」
 
ちゅ、とかわいらしい唇にキスを落としたディアッカを恥ずかしそうに見上げ、ミリアリアはにっこりと微笑んだ。
「ん。あ、そうだ。俺、今日任務で遅くなるから。先に寝てていいぜ?」
「え?そうなの?」
驚くミリアリアに、ディアッカはどこか曖昧に微笑んだ。
 
 
「ああ。夜からの任務で…ちょっと何時になるか読めねぇからさ。出かける直前になっちまって悪い。昨日言えば良かったよな。」
「それは全然いいけど…大丈夫なの?危険な事じゃないわよね?」
「だいじょーぶ。イザーク達も一緒だし、問題ないって。」
 
 
任務という名目で、ミリアリアの考えている危険とは別の意味で危険たっぷりな場所に行く訳だが、そんな事を愛しい妻に言える筈も無い。
「そう…でも、気をつけてね。」
「ああ。心配いらないから。早く帰って、先寝てろよ?」
「うん…ん」
いらぬ心配をかけてしまう事が後ろめたくて、ディアッカはもう一度ミリアリアの唇に自分のそれを優しく重ねた。
 
 
 
 
「………で、こちらがラクス様から私宛に」
「………ああ。個別に用意してくれたらしい。これを着てホテル・オリエントに行くように、との事だ。」
 
 
シホはイザークから渡された箱をそっと受け取り、執務机に置く。
「中身を……確認しても?」
「ああ、その方がいいだろう。……色々と心構えが出来る。」
心構え?何に対する!?
そう問いただしたいのを堪えて、シホはそっと蓋に手をかけ、箱の中身を確認しーーーばふん!と音が鳴る勢いでそれを元に戻した。
 
 
「たたたたた隊長、これは一体何の冗談ですかっ!?」
「残念ながら本気だ。ラクス嬢の本気がその箱に詰まっている。」
 
 
イザークもやや錯乱気味なのだろうか。言っている意味がよく分からない。
「あの、そこの箱ももしかして…」
おそるおそるイザークを見つめたシホ。
イザークは黙って頷いた。
「……うそでしょ」
そこには、金の装飾文字で“イザーク・ジュール様”と書かれたラクスの本気、ではなく箱、が数個、積み重ねてあった。
「ディアッカがラクス嬢から預かって来た。
衣装選びを手伝ったらしい。自分の分は、すでにどこかへ持って行ったんだろう。」
ラクス×ディアッカ、というある意味夢のコラボレーションに、何で誰も止めないのかと突っ込みたいシホだったが、そこはグッと堪える。
 
「と、とにかく!どうしてもこれ、その、き、き、着なければいけないのですか?」
「……任務だからな。特殊な。」
「特殊任務なだけに衣装も特殊、って?うまい事言うじゃんイザーク」
 
シホとイザークは、はっと後ろを振り返る。
そこには、いつの間に入って来たのだろう。ご機嫌な表情のディアッカ・エルスマンがニヤニヤと笑いながら立っていた。
 
 
 
 
ma01

本当にお待たせしてしまいすみませんでした!!!
ぴぷ様より頂きましたリクエストを元に作成しました、6666hit
御礼小説となります。
今回2度目のキリ番ゲットなぴぷ様、大変お待たせ致しました!
ギャグタッチ、という部分がきちんと出来ているかとっても不安ですが、
お楽しみ頂ければ幸いです。
さて、この後二人はどんな感じで“すれ違う”のか?
全7話(予定・笑)、お楽しみ頂ければ幸いです!!

 

 

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2014,12,16up