ディアッカは、先ほどのキラから聞いた話について考えていた。
ミリアリアに、話を聞くべきなのだろうか。
聞いて、いいものなのだろうか。
コンコン!
唐突にドアをノックされ、ディアッカは慌てて飛び起きる。
ロックを解除すると、そこにはミリアリアが立っていた。
「ミリィ…」
「入っていい?」
そう言ったものの、ディアッカが返事をする前にミリアリアは室内に入りドアに向き直るとロックをかけ、そのまま振り返ることなくぽつりと言った。
「…なんでいなくなるのよ」
「え?」
ディアッカは、ミリアリアが泣くのかと焦り、思わず顔を覗き込む。
しかし、ミリアリアの目は濡れていなかった。
「久しぶりにあんな事しといて、目が覚めたらいないなんて、私」
ぱぁっと顔を赤らめ、ミリアリアは俯き小さな声で呟いた。
「夢かと思っちゃうじゃ、ない…」
ああ、ミリアリアだ。
強気で無鉄砲だけど、意地っ張りでなかなか素直になれないけれど、本当は寂しがりで優しいミリアリア。
守りたい。
こいつが感じた喜怒哀楽、全部引っくるめて受け止めたい。
受け止められる、男でありたい。
ディアッカはミリアリアを抱き寄せた。
「ごめんな」
そう一言だけ口にすると、俯いたままのミリアリアを上向かせ、唇を重ねる。
恥ずかしさであわあわとするミリアリアを再び腕に抱くと、ディアッカの好きな、花の香りが鼻腔を擽った。
「ミリィ、俺が選んだトワレまだ使ってくれてたんだな」
それまでのしょんぼりした様子から一転、がばっとミリアリアが顔を上げた。
「…気付いてたの?」
「これでも真剣に選んだんだぜ?俺が気づかないはずないだろ?」
するとミリアリアは、ぽふんとディアッカの胸に顔を埋めた。
「浅ましい、って思わない?」
「浅ましい?」
意外な言葉に首を捻るディアッカ。
顔を埋めたまま、ミリアリアは先ほど感じた事を話した。
「自分の勝手で別れたはずの男がくれたトワレを後生大事に身に付けて、好みのコーヒー豆まで艦内に持ち込んで。何処かで期待してたのよ、宇宙に出ればまたディアッカに会えるかも、って。助けに来てくれるかもしれない、って。さっきだって、ディアッカに気づいて欲しくてわざわざあのコーヒーを煎れたわ。ずるくない?都合がいいにもほどがあるわよ、こんなの」
ディアッカは思う。
ミリアリアは、誠実なのだ。誠実であろうとしすぎているのだ。
だから、ディアッカを試すようなことをした自分にどうしても納得ができない。
黙っていればわからないようなことでも、こうして懺悔してしまう。
「自分がこんなに打算的で浅ましいなんて、恥ずかしいわよ…」
ディアッカは、ミリィの頭を優しく撫でた。
「俺はそんな風に思わないけど。むしろ嬉しかったぜ?俺の好みをまだ覚えていてくれて、俺が贈ったトワレを使っていてくれた」
ミリアリアの肩に手をかけ、そっと体を離してその碧い瞳をまっすぐ見つめる。
「勘違いかもしれないとは思ったけどさ。俺の事、まだ好きでいてくれたんだってすげえ嬉しかった。だから、そんな卑屈になんなよ。たとえお前がズルくても浅ましくても、俺はお前を嫌いになんてならない。そういうのも全部ひっくるめた、それがお前だろ?だから、もうそんなんで悩むなって。な?」
そう言って笑うと、ミリアリアはくしゃりと顔をゆがませた。
「ディアッカは、私に甘すぎる気がする、いつも…」
「いーの。だってさぁ、好きな子に甘くしないでどーすんの?」
そんな軽口を叩くと、ミリアリアはようやく笑顔を見せた。
かつて、自分のためだけに見せて欲しいと願っていた笑顔。
花のような、ディアッカが愛してやまない笑顔を。
「ごめんね、ありがとディアッカ。私、今日は甘えすぎよね」
「俺はいつでも甘えて欲しいけどね、お前なら」
それは、ディアッカの本音。
でも目の前の愛しい女は、決してそうやすやすと彼に甘えたりはしないだろう。
それでも構わないとディアッカは思う。
先程のキラの話も、きっとミリアリアから聞くことは難しいだろう。
今は、それでもいいさ。
時間はあるはずだ。
二人の道はようやく一つになったのだから。
2014,6,9up
2017,9,22改稿