夕食はシフォンケーキ 3

 

 

 

 

「…疲れた?」
 
 
間接照明のみの寝室は、オレンジ色の暖かい光に包まれている。
アリーに腕枕をされたシェリーは、その胸に埋めていた顔を上げるとふわりと微笑んだ。
 
「…そうね。お昼過ぎからずっとお料理してたし。それに、いきなり…あんな事するし。」
「嫌だった?」
 
顔にかかった長い髪をそっと指でどかしてやりながら、アリーが少しだけ顔を曇らせる。
 
「嫌だったらひっぱたいてるわ。私の性格、知ってるでしょ?」
そう言って可笑しそうにふふ、と笑うシェリーを、アリーはそっと抱き締めた。
「強引にしたいときも…あったんだ。でも、出来なかった。しちゃいけないと思ってた。」
「…どうして?」
本当の事を告げていいのか少しだけ迷って、アリーは言葉に詰まる。
だがーー先程シェリーが行為の最中に口にした言葉を思い出し、アリーは意を決してシェリーの瞳ーー深い、藍色の瞳を見つめた。
 
 
「俺はアイツとは違う、って…分かってほしかったから。シェリーがアイツを諦めきれないまま俺と結婚したって、分かってたし。」
「……気に、してくれてたの?ディアッカの事。」
シェリーが驚いたように目を丸くした。
「情けない話だよな。でも…気付いたんだ。それって、シェリーに対する侮辱でしか無い、って。
だから、俺の為に、汚れるのも構わずアイツの奥さん達まで頼って俺の好きなものを作ってくれたんだ、って思ったら…もう、止められなかった。」
 
シェリーは無言のまま、アリーの緑色の瞳を見上げ、その告白を聞いていた。
そして、そっと手を伸ばすとアリーの頬を両手で挟み、掠めるだけのキスを送る。
「シェリー…?」
「私達、婚姻統制に従って結婚したわよね?」
唐突に話し始めたシェリーを、アリーは訝しげに見下ろした。
 
 
「コーディネイターに課せられた最大の使命は、子孫を残すこと。
そう両親から言い聞かせられて育って来たわ。だから、そう言うものだと思ってた。
そこに愛なんて、あっても無くても関係ない。プラントでは、恋愛と結婚は別だ、って。」
「…うん。」
「だから、ディアッカがナチュラルの女性と婚約したって聞いて、ものすごく驚いたしショックだったわ。
戦争が終われば、また前のような付き合いに戻れるって期待してたし。
それを横から攫われたみたいな気になって、ミリアリアさんにひどい暴言を吐いたりしたわ。」
「うん。」
「あなたとの結婚が決まった時、すごく複雑だった。
ディアッカの幼馴染だってことも知ってたし。初対面の時、私ディアッカと一緒だったものね。」
「そう…だったな。」
 
 
いかにもディアッカが連れて歩きそうな、派手な美人。
ディアッカに肩を抱かれたシェリーを初めて見た時、そう思った事をアリーは思い出した。
 
 
「ディアッカは愛のある結婚をして、私は制度で決められた相手と結婚する。
どう捉えたらいいか、正直最初は分からなかったわ。でも…だからってあなたの事、嫌いな訳じゃなかった。」
「え…」
アリーは目を丸くした。
「何?嫌われてるとでも思ってたの?」
「あ、いや…そうじゃないけど。俺の事になんて、興味無いのかな、って思ってたから…」
その言葉に、シェリーが小さく溜息をついた。
「私だって複雑だったわ。最初のうちはあなたを見ると、どうしたって彼を思い出したし。」
「まぁ…そうだよね。」
アリーもまた、小さく溜息をつく。
 
 
「…でも、あなたはいつだって優しかった。どんなときも、私を大切に扱ってくれた。
抱かれてるときも、そう。だから、私…嬉しかった。」
 
 
「ーーーえ?」
シェリーはアリーの背中に腕を回し、ぎゅっとしがみつく。
「大切にされている、そう感じて…それって、何よりも嬉しい事なのよ?
私だけを見てくれている、って実感出来る事が、何より嬉しくて…それで、だんだんあなたに惹かれて行ったわ。」
「シェリー…」
 
「さっき、ミリアリアさんにも言ったの。ディアッカはただの過去の男。
私が愛してるのは、アリーよ、って。」
 
しがみつかれたまま発せられた、くぐもった言葉に、アリーの心臓がどくん、と音を立てた。
「さっき…あんな風に強引にされて、びっくりしたわ。でも、嬉しかった。
ディアッカといる時、あんな気持ちになった事なんて一度も無かった。
…どうしてだろう、って考えたわ。」
「…答えは、出た?」
掠れた声で囁いたアリーを、シェリーは顔を上げてじっと見つめる。
 
 
「私が、あなたの事、愛してるから。そしてあなたも、私を愛してくれてるから。
お互いがお互いを大切に想ってるから。
…私、間違ってるかしら?」
 
 
シェリーの瞳に、いつもの勝気な光が宿る。
だがその顔は、微笑みを浮かべていて。
アリーもふわり、と微笑み、自分もシェリーの背中に腕を回すとぎゅっと抱き締める。
 
 
「間違ってない。俺も、そう思う。」
 
 
その答えに満足したのか、シェリーがふふ、と嬉しそうに微笑む。
アリーはそっとシェリーの唇にキスを落とすと、その耳元で囁いた。
「…愛してるよ、シェリー。」
「私も、あなたの事愛してるわ。アリー。」
いつのまにかシェリーを組み敷く体勢になったアリーは、腕の中の愛しい人をじっと見つめる。
 
「…なに?」
「…ごめん。我慢、出来ない」
 
そう囁きながら落ちて来たアリーの唇を受け止めると、シェリーはうっとりと目を閉じる。
そして、アリーの手がナイトウェアの間から侵入し、いつものように優しく素肌をなぞり始めると、シェリーは甘い吐息を漏らしてアリーの柔らかい髪に指を絡めた。

 
 
 
 
 
 
 
c1

全3話、いかがでしたでしょうか?

全くのオリキャラである二人をいつしかこんなに愛でるようになってしまい、

何とも不思議な感じです(笑)

今回はえみふじ様によります豪華なパロディ(ほんとこう呼んでいいのか迷いますが)も

掲載する事が出来、重ね重ね感無量です。

えみふじ様、本当にありがとうございます!

やはりディアッカの事が気になっていたアリーと、アリーの優しさに気付きどんどん

惹かれて行ったシェリー。

こうして腹を割って話し合えて、互いの意外な一面が見えて、また絆が深まったのでしょうね。

この二人、本当にお気に入りキャラなのでまたいつか登場するかもしれません(笑)

 

いつもサイトをご訪問下さり、本当に感謝しております。

私の拙い話をお読み下さる全ての方に、ありがとうの気持ちとともにこのお話を捧げます!

 

 

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2014,11,22up