「…それは、君個人の言葉かね?」
ごとり、という音とともに、ザイルは義手である左手を器用に机に乗せ、生身の右手も同じようにして肘をつき手を組むと、その上に顎を乗せる。
黒曜石のような瞳が、値踏みするようにディアッカを見つめた。
「俺は、プラント最高評議会議員であるイザーク・ジュールから依頼を受けてここへ来ている。
今回の話に、最高評議会もプラント政府も直接の関わりはない。
…ラクス・クラインは別だがな。」
「ラクス・クライン?なぜ…」
「あの歌姫だろ?ラクスって。今は政治家だけどよ…」
側近達のざわめきをひとつ手をあげるだけで簡単に鎮めたザイルは、鋭い視線をディアッカに向けた。
「……話だけは、聞こう。そこへ座れ。ーーーおい、客人に飲み物を。」
ディアッカはザイルの正面にあるソファに腰を下ろす。
そしてシンはディアッカを守るように、そのすぐ後ろに立った。
程なく温かいコーヒーが運ばれてくる。
一瞬緩んだ空気に息をつき、シンはそっと周囲に視線を巡らせた。
腕の無い者、義足をつけて歩いている者、色素の抜けきった真っ白い肌と髪を持つ者。
年齢も性別も様々。少数だが女性や子供の姿もある。
そっと奥のドアからこちらを覗いているのは、まさに左右の瞳の色が違う少女。
ちょうどシンの妹、マユと同じくらいの年頃だった。
ここにいるのは、自分と同じコーディネイター。
だが、コーディネイターとは、遺伝子操作により優れた知性と高い身体能力を有する、ナチュラルよりも優れた人種ーーー。
今までそう思って生きて来たシンに取って、目の前の光景はある意味衝撃的だった。
稚拙な遺伝子操作の結果、コーディネイトに失敗して親に捨てられた“出来損ないのコーディネイター”達。
ノイマンやディアッカから話は聞いていたものの、シンはその姿を実際に目にし、複雑な思いを禁じ得なかった。
シンは2世代目のコーディネイターだ。
両親は中立を宣言したアスハの理念に賛同し、オーブに居を構えシンとマユを育ててくれた。
優しく、時に厳しく二人を育ててくれた両親。
シンにとっての“親”とは、まず子を慈しみ守ってくれる存在だ。
だから、いくら自分の思ったようなコーディネイトの成果が得られなかったとしても、実の子を捨てるなどと言う行為は、正直に言うと想像もつかなかったのだ。
しかし目の前の現実に、シンもその事実を認めざるをえなかった。
ナチュラルのように、愛し合って自然に子を成していれば、このような悲劇も起きなかったのだろうか。
他者より上へ、先へ、と出来うる限りの可能性を注ぎ込んだのは、親の愛ゆえ、ではなかったのか。
ならば何故、思い通りの成果が得られないだけで、子を捨てるーーー?
シンはそこまで考え、ぎゅっと目を瞑った。
これ以上考えてしまえば、自分達コーディネイターの存在を否定する事に繋がるような気がしたのだ。
「ーーーさて。エルスマン隊長、と言ったかな?」
ザイルの視線を、ディアッカは正面から受け止める。
「我々に、プラントの政治の場に出て証言をしてほしい、という事かね?
なぜそんなことをする必要がある?…失礼ながら、意図が全く分からないのだが。」
その冷たい声に、シンは思わず体を固くした。
「我々は、出来損ないのコーディネイターだ。
遺伝子調整の成果が得られず、家族であったもの達に疎まれ捨てられた。
だが、ここにいるもの達はそれでも今、自分の出来ることをして生きている。
プラントにいては出来ない事を、な。」
「…そうでしょうね。それは俺も理解しています。」
ディアッカは静かな声で答え、頷く。
「ラスティのようなイレギュラーなケースもあるが…。
あいつはあいつなりに考えて自分の意志で我々の元に残った。
我々は、現状に不満など持っていないのだよ。
ジュール議員とやらが何を考えているか知らないが…。
中途半端な同情でものを言っているのなら、それはいらぬ気遣いだと伝えてほしい。
我々はこうして地球で生きている事に満足しているのだからな。」
素っ気ない、拒否の言葉。
だがディアッカは真っすぐな瞳でザイルを見つめ、口を開いた。
「ジュール議員…イザークが世に問いたいのは、あなた方の現状じゃない。
ダストコーディネイターの存在そのものだ。」
ザイルの黒曜石の瞳が、驚きを湛えて見開かれた。
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コーディネイターの定義って、実は難しいですよね。
例えばハーフコーディネイターと一口に言っても、出産前に遺伝子操作をすればその子は
“ハーフ”ではなくなるのでしょうか?
ASTRAYのイライジャのようなコーディネイターもいるし、うーん、難しい。
2014,11,10up