29, 教えられたこと、貰ったもの 1

 

 

 

 
「俺たちは2度目の大戦が終わってすぐ、ラスティに再会した。
その時にラスティはこう言ったんです。
ダストコーディネイターの事を、プラントでいつか公表してほしいと。」
「なん…だと?」
ディアッカはコーヒーを一口飲み、言葉を続けた。
 
 
「あいつは確かに、記憶が戻りかけている中でも地球で傭兵をやりながら暮らして行く道を選んだ。
それはあなた方に対する同情でも何でもない。あいつ自身が決めた事だ。
だがそれとは別の問題として、あなた方のような存在を…親が子を簡単に捨てる、そんな現実をあいつは憂いていたんだと思います。」
 
 
ザイルは黙ってディアッカを見つめている。
その表情からは、何の感情も読み取れない。
 
 
「稚拙な遺伝子操作の結果、思い通りにコーディネイト出来なかった我が子を捨てる者達がいる。
それがまかり通る世の中になってはいけない。
…ラスティは、プラントで何も知らずに生活しているコーディネイター達にその事を公表してほしい、と考えていると俺は受け取りました。
ジュール議員も…ラクス・クラインも同じでしょう。
この事はコーディネイターなら知っておかなければいけないことだ。
コーディネイターの未来のためにも。とも彼は言っていましたから。」
 
 
「コーディネイターの…未来…」
 
 
ザイルがぽつりと呟く。
 
「俺達コーディネイターは、れっきとした知性と感情を持つ人間だ。
生まれてくる命の大切さ、尊さはナチュラルもコーディネイターも同じはずだ。
それが理解されれば、あなた方のような存在は必ず減って行く。」
 
「…では聞こう。君のような完璧なコーディネイト施された人間に、私達の気持ちが本当に理解出来るのかね?」
ザイルの問いに、ディアッカはふっ、と笑みを浮かべた。
 
 
 
「多少は、理解出来るつもりです。ーーー俺も、出来損ないですから。」
 
 
 
シンはディアッカの背中を見つめ、息を飲んだ。
プラントの技術の粋を集約してコーディネイトされたであろう目の前の男が、出来損ない?
 
「…面白くもない冗談だな。それだけの容姿と実力を持ちながら。」
 
ザイルもシンと同じように感じたのだろう。
その表情に少しだけ苛立ちが混じる。
 
 
「…俺は、緻密すぎた遺伝子操作の弊害で、生殖能力が極端に低いんです。
次世代に子孫を残せる可能性を殆ど持ち得ない、という検査結果が産まれてすぐに出ています。」
 
 
「な…」
シンはつい、声を上げていた。
ザイルも驚愕の表情を浮かべて固まっている。
ただでさえ第二世代以降は生殖能力の低下が大きな問題となっているコーディネイターにとって、それはある意味致命的な欠陥、とも言えるからだ。
 
 
「けど俺は、こうしてプラントで生きて来た。
その理由は、両親と周囲の環境だと俺は思っています。
俺の両親は、産まれて来た命を捨てる事を良しとしなかった。
それはエルスマン家が代々医者の家系だったという環境も大きい。
だが、もしそうでなかったら…俺もきっと、あなた方と同じような運命を辿っていたでしょう。」
 
 
ディアッカは、黙ったままのザイルの前に身を乗り出した。
 
 
 

「あなた方の存在ーーーそれは、産まれて来た命を簡単に捨てる現実がある事を意味している。
ラスティもイザークも、ラクス・クラインも…そして俺自身も、そんなことがあってはならない、と強く思っている。
そして、その現実が一部でとは言えまかり通っているプラントにその事を問題提起したい。
だから、生き証人であるあなた方にプラントへ来てほしい。あなた方の証言が欲しい。
これが…今回俺がここへ来た理由です。」
 
 
 
部屋を、沈黙が支配する。
ザイルは温くなってしまったコーヒーに口を付け、再びディアッカを見つめて口を開いた。
 
 
「ひとつ聞かせてほしい。君は…自分の境遇を呪った事はないのかね?」
 
 
ディアッカは少しだけ驚いた顔をした後、ゆっくりと微笑んだ。
 
「ない、と言えば嘘になります。
自分の欠陥のせいで両親は離婚し、母は亡くなりました。
自分の存在が家族をばらばらにしたのではないか。子供の頃はそれで悩みました。
出生率が低下する一方のコーディネイター社会において、自分は命題とも言える種の存続に貢献出来ない。それで悩んだ事も昔はありました。」
 
「今は、どうなのかね?」
 
ザイルの表情が幾分柔らかくなる。
それに釣られるように、ディアッカの表情も、また柔らかくなった。
 
 
 
「俺は、結婚しています。相手はナチュラルですが、それでも妊娠の可能性は殆ど無いと思っています。
そして仮に妊娠しても、無事に産まれる保障も無い。
ナチュラルの妻とコーディネイターの自分では、検査の結果もあてにならない。はっきり言って未知数です。
…それでも、俺は妻がいてくれれば幸せです。子供についても、自然に任せよう、と決めています。」
 
 
 
「…奥方はそれについて何と?」
 
ザイルの質問に、ディアッカははっきりと答えた。
 
 
「子供について、はっきり話し合った事はありません。ただ、結婚する前に事実は伝えてあります。
彼女は、子供が出来にくかろうと関係ない、と言ってくれました。
生い立ちも体質も関係なく、俺は俺なんだと。今ここにある、そのままの俺を愛していると。
受け止めてくれると、そう言ってくれました。」
 
 
きっぱりと宣言するディアッカの後ろで、シンはあまりの衝撃にただ黙ってその言葉を聞いている事しか出来なった。
 
 
「彼女から教えられた事、貰ったものはとても大事なものばかりで。
こんな俺を愛してくれて、帰りを待っていてくれる彼女と出会って、俺は自分の存在をようやく自分で認められたから…。
もちろん仲間の支えもありますが、俺は、俺に出来ることをするだけだ、と今は思っています。」
 
 
 
ディアッカの飾らない言葉を聞きながら、シンは、ミリアリアの柔らかい笑顔を思い出していた。
 
 
 
 
 
 
 
016

ミリアリア以外に対して、ここまで自分について深く語ったディアッカを初めて書いたかも。
過酷な運命を受け入れ、強く生きて来た彼らに敬意を払ってこその行動なのでは、と思います。

 

 

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2014,1,28up