日付も変わろうとしている頃。
オーブ近海の施設内の与えられた部屋にディアッカが戻ると、通信のランプが点滅していた。
自分のいない間に通信があったらしい。
パネルを操作すると、そこに残っていたのはミリアリアからの着信履歴だった。
そう言えば、今日はジュール家のパーティーに行くと言っていたはずだ。
ディアッカは慌てて再びパネルを操作し、プラントとの回線を繋げた。
『あれ…ディアッカ。おかえりなさい』
モニタの向こう、寝ぼけ眼で現れたミリアリアの姿に、ディアッカはつい笑顔になった。
「ただいま。ごめんな、寝てたか?」
『…ううん。ちょっとぼんやりしてただけだから、大丈夫。』
「そっか。ならいいけど。」
いつもより派手に跳ねている髪は、きっと通信機器一式が置かれているリビングのソファで眠っていたせいだろう。
そうまでして自分からの通信を待っていてくれたのかと思うと、申し訳なさとともに何とも言えないくすぐったさが胸に広がる。
『ディアッカ?どうしたの?』
「ん?ああ、いや。なんでもない。」
ディアッカは、まだどこかぼんやりとしているミリアリアに優しく微笑み、今日のパーティーについて尋ねた。
『パーティー、楽しかったわ。久しぶりにエザリアさんにも会えたし、シホさんのドレス姿も綺麗だったし。
あ、そうだわ。今日ね、ニコルさんのお父様に会ったのよ。』
ミリアリアの口から出た意外な人物の名に、ディアッカは目を丸くした。
「ニコルの…?アマルフィ議員にか?」
『うん。もう今は議員じゃないって言ってたけど。工学エンジニアなんでしょ?』
「ああ…まぁな。何か話したの?」
アマルフィ議員はニコルの死後、反ナチュラル思想に目覚めクライン派からザラ派に傾いた。
自身の父であるタッドとは正反対の行動だったが、息子を無くした悲しみがそうさせたのではないか、とディアッカは思っていた。
戦争が終わり、議員職を退いたとは言え反ナチュラル思想を持っていたユーリ・アマルフィとナチュラルであるミリアリアの邂逅に、ディアッカは内心ひやりとしていたのだ。
だが、当のミリアリアは笑顔で頷いた。
『うん、ちょうどイザークと一緒にいたから。ニコルさんのお父さんらしい、穏やかな雰囲気の人ね。』
「ん…まぁ、そうだな。あいつは母親似だったらしいけど。」
『ふぅん…お母様、体の具合でも悪いのかしら?確かお客様の相手はなかなか出来ない、って…』
「…ニコルが戦死して、相当ショックだったみたいでさ。その頃から病床に伏してるらしい。
親父が昔そう言ってただけで、俺も詳しい事は知らないんだけどな。」
『そう…。それで早い時間に会場を出て行ってたのね。』
ミリアリアが痛ましげな表情になった。
「一度見舞わなきゃと思ってはいたんだ。でも、なかなか、な…。」
『…ニコルさんのお父様、普段はマイウス市にいるって言ってたわ。こっちに戻ったら尋ねてみたら?
あと、この間墓前に供えた百合、喜んで下さってたわ。』
「そっか…。それ聞いて、ちょっと安心したわ。サンキュ、ミリィ。」
『ううん。…あ。そう言えば。』
「え?」
『ディアッカ…そっちで復興支援の任務に就いてるんですってね。』
ミリアリアの言葉に、ディアッカは不意をつかれた。
「え…?お前、何でそれ…」
『イザークがニコルのお父様にそう言ってたから。それで。』
「…そ、か。ああ、そうだ。別に隠すつもりじゃなかったんだけどさ。
一応軍から与えられた任務だから。」
と、ミリアリアがくすくすと笑い出した。
『黙ってた事気にしてるんなら、別に怒ってなんかいないわよ?
ただ、きっと大変だろうなぁって思って、そっちの方が心配だっただけ。』
「大変…?」
意外な言葉にディアッカは虚をつかれる。
『うん。そういう現場、取材した事あるから。
…だから、辛い事もあると思うけど無理だけはしないでね?
私には何も出来ないけど…ちゃんとここでディアッカの事、待ってるから。』
そう言ってにっこり笑うミリアリア。
彼女がその気になれば、“何も出来ない”はずはないのだ。
ターミナルの許可証を使えばジャーナリスト時代の伝手を辿る事も可能なのだし、それでなくてもミリアリアにはディアッカの知らないコネクションがあるはずだ。
しかし今、あえて“何も出来ない”とわざわざ口にしたのは、自分といる間はジャーナリストの仕事に戻るつもりは無い、という事を伝える為だろう。
こんな時までも自分を気遣ってくれるミリアリアの優しさに、ディアッカの心が温かくなる。
「…ごめんな。寂しい思いさせて。」
ミリアリアの碧い瞳が、その言葉に大きく見開かれた。
一瞬泣きそうな顔になったのは、きっと気のせいでは、ないはず。
だがミリアリアは、再びにっこりと微笑んだ。
『やだ、大丈夫よ。あと1ヶ月とちょっとで戻って来られるじゃない。
難しい任務だとは思うけど、ディアッカなら出来る、って信じてるから。
だから、私の事は心配しないで、任務に集中してね?』
ディアッカは微笑み、頷いた。
「ん。ミリィにそう言われると、何でもうまく行きそうな気がする。」
『そんな訳ないでしょ。でも、そうであるように祈ってるわ。』
地球とプラントがどれだけ離れていても、二人の心はともにある。
自分を待っていてくれる人がいるという事がどれほど幸せか。
ディアッカは改めてそう感じ、心を引き締める。
ーーープラントに戻ったら、たくさんあいつに話したい事があるな。
そんなことを考えながら、ディアッカは愛しい妻と通信越しにとりとめの無い会話を楽しんだ。
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何だか会話ばかりになってしまいました。
ぐだぐだかな…?すみません;;
次はシンです。
2014,11,6up