過呼吸症候群の原因は、ストレスであることが多い。
パニック障害や鬱病などの精神的疾患に付随して発症する事もあるが、ミリアリアがそういった病を患ったという話は聞いていない。
それに、トール・ケーニヒが戦死した際も、彼女は憔悴はしていたものの日常生活で過呼吸などになることはなかった。
とすれば、ディアッカがミリアリアとの接触を絶っていたカメラマン時代に、何かあったと考えるのが自然だ。
それも、トラウマになりかねない何か、が。
「ミリィが世界各国を取材で回っていたのは、知ってる?」
「ああ。もっとも何を追いかけてたのかまでは知らねぇけどな」
そうなのだ。
ディアッカは、ミリアリアの仕事について実は大まかにしか知らない。
別れによる音信不通期間と彼女の活動時期が重なってしまっているせいなのだが。
しかし、その間もカガリやアスランが最低限ではあるがミリアリアの近況をそれとなくイザークに知らせてくれていた、と知ったのはいつの事だっただろう。
ミリアリアはそのがむしゃらな性質を存分に発揮し、かなり無茶をしていたようだ。
地道に築いた人脈を元に、今ではカメラマンというよりジャーナリストとしての活動が中心となっているらしい。
「色々手を出してたみたいだけど…ディアッカと喧嘩別れして、半年後くらいかな。北欧のある国に、コーディネイターの傭兵部隊があるって取材に行ったんだ、ミリィ。ねぇディアッカ、ダストコーディネイターって聞いたことある?」
唐突な質問にディアッカは面食らう。
「いや…?」
するとキラは寂しそうに「僕も、聞いたことなかった」と俯いた。
「君も、イザークさんもアスランも、当時のプラントでの最先端技術を用いてコーディネートされて誕生した。僕も、メンデルでたくさんの犠牲の元、スーパーコーディネイターなんて言われる存在として生を受けた…。でも、コーディネイターみんなが親の理想通りの容姿で生まれてこれるわけじゃない、それは知ってるよね?」
ディアッカは言葉を失った。
確かに、そう言った事例があることは知識として知っていた。
特に、ディアッカの父であるタッド・エルスマンは医学博士としても有名な人物であり、当然ディアッカもその道の知識は人より多く持ち得ている。
「瞳の色が希望と違う、稚拙な遺伝子調整で五体満足に生まれて来られなかった、コーディネートしたはずの才能が思うほど開花しない…。そんな理由で、親から捨てられた【出来損ないのコーディネイター】、それがダストコーディネイターなんだ」
ディアッカは愕然とする。
そして自分がいかに恵まれた環境にいたか、改めて再認識した。
「そんな彼らが行き着いたのが地球。彼らは地球で出会い、コミュニティを作り、生活のために傭兵になった。元々、コーディネイターだから身体能力はナチュラル以上に高いしね。体が不自由でも、知力が高ければ後方支援だって出来る。
いつの間にか、ダストコーディネイター達は裏の世界で無視できない存在になっていたんだって」
「まさかあいつ、そこに…」
キラが切なげに微笑んだ。
「うん、ミリィはその組織のトップに単独インタビューを申し込んだんだ。組織にはコーディネイターだけじゃなく、ナチュラルも所属してたらしい。コーディネイターとナチュラルの共存を願うミリィにはうってつけだったんだろうね。でも…」
「でも、なんだよ?」
「ミリィは信用を得るため、AAのクルーだった事実を告げて組織と交渉したらしい。そのおかげで、数回にわたってインタビューに成功したってメールをもらったよ」
ディアッカの頭に血が上る。
「馬鹿な!AAクルーの過去までバラして…」
ブルーコスモスの残党は、今ですら至る所にいるのだ。
万が一そのような輩の耳にミリアリアの素性が知れたら…そう考えるだけでディアッカの胃はキリキリ痛んできた。
「うん、ミリィは大丈夫って言ってたけどさすがにカガリも心配してね。もしもの時にはすぐ動けるよう内密に軍を手配してた。そうしたら、虫の知らせって奴かな。ブルーコスモスが組織に対してテロを起こしたんだ。ミリィは、そこに居合わせた」
ディアッカは次々に聞かされる衝撃的な出来事に、いよいよ目眩を覚えていた。
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2014.6.9up
2015.6.6一部改稿
2017.9.22改稿