12, 春

 
 
 
 
ブリッジまでの道はまだしっかりと記憶していた。
マリューは新しい設備がどうとか言っていたが、ここに至るまで目新しいものは何もなかったように思う。
手慣れた様子でブリッジのロックを解除したディアッカが最初に目にしたのは、意外なことにイザークだった。
 
「あれ?何やってんのイザーク」
 
その声に振り返ったマリューがディアッカを見て、目を見張ると優しく微笑んだ。
 
「しっかり話ができたみたいね、ディアッカ君?」
「何のお話でしょう、艦長?」
「あら、随分とスッキリした顔をしているから。てっきりミリアリアさんと【開かずの間】で一緒かと思っていたのだけれど?」
 
ミリアリアをよく知り、かつ好ましく思っているであろう古くからのブリッジクルーたちも、言葉は発さないものの興味津々といった様子なのが感じ取れる
こうなると、ディアッカも降参するしかなかった。
それに、考えてみればちょうどいい機会だ。
 
 
「ええまあ、じっくりと有意義な話し合いをさせて頂きました。貴重なお時間を頂き、ありがとうございます」
 
 
イザークがぎょっとした顔でこちらを振り向いた。
生真面目で女性経験が極端に少ないイザークは、今の言葉をどう解釈したのだろう。
マリューは明らかに面白がっている。
その姿が、ディアッカの生来備え持つ悪戯心をくすぐらないはずもなく。
 
「それと彼女は体調があまり優れないようで、今は自室で眠っています。話し合いが大変有意義だったので、少々疲れさせてしまいまして」
 
マリューは目を見張った後堪えきれず吹き出し、ノイマンとチャンドラがほぼ同時に、飲んでいたドリンクを盛大に吹いた。
イザークはと言うと、ごほごほ噎せ返るクルーに驚き、目を丸くしている。
「そう、それはお疲れ様。…良かったわね、本当に」
くすくすと笑いが止まらないマリューだったが、ブリッジ前方での惨劇に目をやると、途端に呆れ顔になった。
 
「ちょっとあなたたち。機材が壊れる前に綺麗にしておいてちょうだいね」
からかうようなマリューの口調に、ディアッカは目を細める。
まるで春に咲く桜の花のような柔らかく暖かい笑顔。
おっさん、戻ってきたんだもんな。マリューさんも良かったよな…。
 
ドミニオンの陽電子砲の前に散ったストライクの姿を、ディアッカも同じ空間で目にしていた。
つい先刻までともに出撃し、戦っていた戦友の散る姿に、ディアッカ自身動揺しないはずがなかった。
しかし、ストライクが撃破された今、AAを護るのはバスターのみである事がディアッカの意識を戦場に戻した。
結局はその後イザークに助けられて今に至るのだが、ザフトのエースパイロットであった自分を相打ちとはいえ墜としてくれた、ナチュラルのエースパイロットをディアッカは少なからず尊敬していた。
 
「んで、おっさんはまだ医務室ですか?」
「ムゥ?彼なら艦長室じゃないかしら。診察も終わったみたいだし」
 
相変わらず、艦内で半同棲かよ…。
いわゆる、大人の恋愛、だからなのだろうか。
この二人の関係は、艦長とパイロットという特殊な組み合わせながら常に自然で、嫌味がない。
一緒に居る事に違和感がないのだ、なんとなく。
自分とミリアリアも、いつかこの二人のようになれるのだろうか。
ふとそんなことを考えたディアッカは、思わず込み上げる笑いを隠そうと口に手をやった。
ミリアリアと、また想いが通じ合えた。
このまま行けばナチュラルとコーディネイターとの融和政策も再開されるであろうし、自分とイザークはその中枢に近い立場に立たされるであろう。
特に、ディアッカの父は評議会でも穏健派の代表格にまで登り詰めている。
 
自分たちで、未来を創る。
焦らずとも、ミリアリアとディアッカのやり方で、愛を育めばよいのだ。
マリューとフラガのように。
 
「ミリアリアさんがまだ戻れないのであれば、ジュール隊長とディアッカ君の滞在中の部屋には私が案内します。ディアッカ君、ジュール隊長、こちらへどうぞ」
「すみません。ほら行こうぜイザーク。ノイマンさんたち、また後でな!」
 
とびきりの笑顔でノイマンたちに言葉をかけたディアッカが踵を返す。
続いてイザークが生真面目に「失礼する。」と敬礼をしてディアッカの後に続きブリッジを出て行った。
呆然としたままノイマンとチャンドラはそれを見送り、どちらからともなく呟いた。
 
「あいつ、【振られた】んじゃなかったっけ…?」
「ああ…それより俺は、今のエルスマンの発言をハウが知った時の方が恐ろしいよ…」
 
意識を失う程に疲れる話し合い…。
次にミリアリアに会ったら、どんな顔をすればいいのか。
二人は思わず顔を見合わせ、がっくりと肩を落とすのだった…
 
 
マリューの案内で、二人には士官用の個室がそれぞれ与えられた。
ミリアリアの部屋とは、通路を二本挟んでいる。
「夕食は十八時からよ。それまではゆっくりしていてね」
イザークはマリューに感謝の意を表すと早々に部屋に入り、ディアッカも新たに与えられた自室の前でマリューに礼を言い別れようとした。
その時、マリュー宛に内線が入った。
「キラ君から?ええ、ちょうど今ディアッカ君と一緒だけど…少し待って頂戴」
そう言うとマリューは内線を保留にし、ディアッカを振り返った。
 
「キラ君からあなたに通信ですって。ここに繋いでもいいかしら?」
 
アスランならともかく、キラから?
珍しい事もあるものだが、断る理由もない。
「お手数ですがお願いします」
ディアッカの言葉に頷いて、マリューが部屋に入り端末を操作する。
「じゃあ私はブリッジに戻るわね」
「お気遣い感謝します」
マリューが出て行くと、一つ息をつきディアッカはヴィジホンのスイッチを入れた。
 
 
 
 
 
 
 
016

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2017.9.23改稿