艦内通路に人気はなく、誰ともすれ違うことないままディアッカはミリアリアの部屋までたどり着いた。
「うわ、懐かし…」
「そりゃ懐かしいでしょうねぇ。ディアッカ?」
ベッドに降ろされたミリアリアが、眉間に皺をよせてディアッカを軽く睨んだ。
「あんた、プラントに戻る時この部屋のロックにひどい細工して行ったでしょ。おかげでこの部屋だけ、私が乗艦するまで開かずの間だったんだからね!乗艦して初仕事が、部屋のパスの解除ってどうなのよ?」
そのせいで、この部屋は全く改装されていないそうなのだ、が。
「まさか、お前が解除したの?」
ディアッカはプログラミングに関してはそれなりの自信があった。
キラには流石に敵わないと分かっているが、アカデミーでの成績もプログラミングは常にトップ3を争っていたのだ。
「そうよ!キラは忙しくて時間取れないし、チャンドラさんは専門外。半日かかっちゃったわよ!」
AAを去る時、ディアッカは自室にそれは厳重なセキュリティーロックを施したのだ。
それは、自分のいた証を残す為。
捕虜だった自分に私物などほとんどあるわけもなく、空っぽになった部屋を去る時ふと思いついた悪戯だった。
思えば、その時はだいぶ感傷的になっていたのだろう。
キラにかかればそう長くない時間で解除されてしまうとわかっていても、限られた時間で出来る限り精密なロックを何重にもセットした。
とは言え、普通のナチュラルにはそうそう解除できる代物ではなかったはずなのに。
「ディアッカ?どうかした?」
思わずぼぅっとしてしまったディアッカを訝しんだのか、ミリアリアがディアッカの手を掴んで揺さぶった。
「いや…まさかお前が解除したとは思わなかったから、ちょっと驚いちまって…」
すると、ミリアリアは先程とは打って変わって穏やかな表情のまま話し始めた。
「私ね、昔から家中の時計を分解したりしてる子供でね。機械工学の専門家になりたかったの。で、宇宙空間で、その…いろんな作業をするロボットとかあるでしょ?専用のMSとかも。ああいうものの開発をするのが夢だったの」
ミリアリアはディアッカに分かりやすいようにと、専門的な用語を避けるように言葉を選んで話しているようだった。
「だから、飛び級して試験を受けて、カトーゼミに入ったの。カレッジでカトーゼミのゼミ生になるってことは、そのままモルゲンレーテに就職できる可能性がとっても高くなるのね。だから、カトー教授から出された課題はみんな必死でこなしたわ。セキュリティ解除もその一つよ」
まさか、出された課題がGシリーズの開発、設計とは思わなかったけどね。と苦笑いするミリアリアを、眩しそうにディアッカは見やった。
「ミリィ、実はすげぇ優秀だったんだな…」
すると、ミリアリアがそれまで掴んでいたディアッカの手をぱっと離した。
実は、が余計だったか?と内心焦るディアッカだったが、ミリアリアはそれに気づかず、ディアッカを見つめ。
本当に嬉しそうに、笑った。
「ミリィ、って、やっと呼んでくれた」
…その花のような笑顔にしばらく呆けていたディアッカだったが、その後の行動は早かった。
ベッドに身を起こしたミリアリアの隣に優雅に腰掛ける。
「ミリィ、って呼んでいいの?」
「い・や」
「…はい?」
「うそよ」
「…ミリィ」
「なに…って、ちょっ、ディアッカ!」
焦るミリアリアをそっと抱き締め、そのままディアッカはベッドに倒れこんだ。
「ななな、なにして…」
「ミリィ、俺のこと好き?」
「それはそのっ、すき、だけど…って、さっき言ったじゃない!」
「俺とまた、付き合ってくれる?」
「…それって、今更言葉にしなきゃいけないもの?」
言わなくても分かるでしょ?
そう言いたいのだろう、ミリアリアは。
だが。
「俺は聞きたい。返事して?ミリィ。」
ミリアリアは綺麗な碧い瞳をしばらく泳がせて、観念したようにディアッカの紫の瞳を見上げる。
「一回しか、言わないからね」
「うん」
「私でよければ、ディアッカとまた一緒にいたいから…その、えっと、付き合ってください…」
しどろもどろな、それでも精一杯の告白。
ディアッカの胸が、暖かいもので満たされていく。
「ミリィ、愛してる」
「私も、だけど、ねぇディアッカ、今はそんな…ん…!」
「悪い、もう無理」
一年半近く待ったディアッカがそれ以上待てるわけもなく。
数刻後、一糸纏わぬ姿でぐったりと眠り込んでしまったミリアリアの疲れた顔にそっとキスを落とし、ディアッカは軍服をきっちり着込むと部屋を後にし、ブリッジへと向かった。
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