墓地を後にしたディアッカは、これまたカガリに頼んで用意してもらったエアカーに乗りこんだ。
シンが、あのメモをどう扱うかは分からなかった。
自分が同じ状況になったらどうするか。
昨日ミリアリアとの通信を終えたディアッカは、もし自分ならーーーと考えたが、結局最善の策は見つからないままだった。
それでもキサカに連絡を取り、トダカの墓の区画を聞き、シンに渡した。
シンに掛けた言葉はとても気の効いたものとは言えなかったが、シンにとって、感じた事を抱え込まず、言葉にする事で少しでも気持ちが楽になるのではないかとディアッカは思ったのだった。
シンを、信じるしかない。
ディアッカはひとつ息をつくと、エアカーのエンジンをかけた。
目的地までは、ここから約1時間。
正式に訪れた事は一度しかないが、数日滞在していたせいでまだしっかり道は覚えている。
ディアッカは気持ちを切り替えると、ぎゅっとハンドルを握りしめアクセルを踏んだ。
涼やかなチャイムの音。
程なく現れた人物は、ディアッカの最愛の女性と同じ色を持つ瞳を大きく見開き、そしてすぐに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「ディアッカくん!どうしてここに?ミリィは?」
「こんにちは、お母さん。お久しぶりです。すみません、突然来てしまって。」
ミリアリアの母、エイミーは娘そっくりの笑顔で頷いた。
「そんなのは全く構わないわ。だってここは、あなたの家だもの。
いつ帰って来たっていいのよ?」
「ありがとうございます。今回は仕事でこっちに来る機会があって。
なのでミリアリアは一緒じゃないんです。」
「あら、そうなの。とにかくほら、入って?今お茶を淹れるから。コートも貸してくれる?」
「はい。お邪魔します。」
そう答えて玄関をくぐろうとすると、エイミーがいたずらっぽく笑って振り返った。
「ディアッカくん?前にも言ったけど。自分の家に帰るのにお邪魔します、は無いんじゃない?」
ディアッカは少しだけ面食らった後、はにかんだように笑い。
久しぶりに、その言葉を口にした。
「…ただいま」
「お帰りなさい、ディアッカくん」
エイミーは笑顔で、ディアッカのコートを受け取った。
***
その墓地には、綺麗な百合の花が供えられていた。
何も用意していなかったシンは、墓石の前にしゃがみ込む。
そしてそこに掘られた名前をそっと指でなぞった。
トダカは、仲間や家族に愛された軍人だったのだろう。
無機質な灰色の墓石が並ぶ中、そこだけ百合の他にもいくつかの花が供えられた跡がある。
枯れてしまったそれらを、シンはひとまとめにして脇に置いた。
手で払える部分の土埃を払い、そのまま墓石の前に立つ。
「…俺、オーブに戻ってきました。」
ぽつり、とシンの口から言葉か零れ出す。
「もう少し落ち着いたら、って思いながら、そのうち連絡する事も忘れてしまって。
赤服になってミネルバに配属されて。新鋭機を与えられて、戦いました。
議長からFAITHに任命されて、また新しい機体を与えられて戦いました。
…そして俺は、タケミカズチを、沈めました。」
シンの拳がぎゅっと握りしめられた。
「…怖かったんです。目の前で大切なものをいっぺんになくして。
だから、守る為の力が欲しいと思って、軍人になりました。
でも、それだけじゃ…ダメだったんです。」
さわやかな風が、俯いたシンの髪を優しく揺らす。
がくん、とシンは膝をついた。
「やっと分かったんです。トダカさんだって…俺の大事な人だった。
俺を助けてくれて、何も見えなくなっていた俺に進む道を与えてくれた、だいじな…大事な、恩人だったのに。
俺は、何も知らずに、あなたを…」
赤い瞳から零れ落ちるのは、涙。
シンは耐えきれず、嗚咽を漏らしながら墓前に蹲った。
今なら、あの時はありがとうございました、と言えるのに。
生きて、こうしてオーブに戻ってきました、と言えるのに。
なぜ自分は、自分の悲しみだけに捕らわれ、こんな簡単な事すら出来ずにいたんだろう。
「…あの時は、ありがとう、ございました。トダカさん。
連絡しなくて、ごめん、なさい。
こんな事言ったら、軍人失格だ、とあなたは言うかも、しれないけど…っ!」
シンは溢れる涙を拭う事もせず、顔を上げてトダカの墓石を見上げた。
「…ごめん、なさい…!俺、おれ…が…!!あなたを…殺してしまった…っ!」
供えられた百合が、風に優しく揺れる。
頬を伝う涙が零れ落ち、地面に吸い込まれて行く。
シンは握った拳で地面を叩いた。
「うっ…う、あ…あああっ!」
人気の無い、穏やかな風が吹く墓地。
シンは辺りを憚らず、トダカの名を呼び号泣した。
![]()
ディアッカの「ただいま」と、シンの「ただいま」。
全く意味は違うけど、それでも、「ただいま」なんです。
2014,10,22up