23, 海でも、空でも 1

 

 

 

 
「おはようございます」
ディアッカが食後のコーヒーを飲んでいると、食堂にシンが姿を現した。
「よぉ。具合はどうだ?」
「はい、あれからゆっくり休んだんで、もう大丈夫です。昨日はありがとうございました。」
そう言って微笑むシンの姿に、ディアッカは内心驚いていた。
目にはまだ力は無いものの、昨晩の打ち拉がれた様子はほとんど消えている。
昨晩、何かシンに立ち直るきっかけを与える出来事があったのだろうか。
 
 
キサカとミリアリアの話から大体の想像はついたが、シンはクレタ海での戦いで自分の恩人をそうとは知らず沈めたのだろう。
状況は全く違うが、かつてイザークもそうとは知らず民間人の乗る脱出艇を撃ち落とした。
それについてイザークが深い自責の念を心に抱えている事もディアッカは知っていた。
 
撃つべきでない相手を撃ったイザークとシン。
あいつなら、シンの気持ちを俺よりも分かってやれるのだろうか。
 
新鋭艦ミネルバに配属され、新鋭機であるインパルスを駆って地球、そして宇宙でも大きな功績を上げたシンだが、その内面は幼く、脆い。
アスランやキラと拮抗する程の実力を持ちながら、その不安定さゆえに議長の駒となってしまった少年は、こうして年を重ねた今でもまだ道に迷っている。
いや、一晩でここまで平静を取り戻したところを見ると、シンの中で何かが変わったのであろうか。
ディアッカは黙々と朝食を口に運ぶシンを、いつしかじっと見つめていた。
 
 
「…なんですか?」
突然シンから話しかけられ、ディアッカは我に返った。
「あ、ああ、ごめん。あのさ、お前今日予定ある?」
「え?予定、ですか?」
予想外だったのだろう、シンが驚いた顔になる。
「そ。今日は久しぶりの休暇だろ?もし予定がなければちょっと付き合ってほしくてさ。」
シンはしばらく逡巡するそぶりを見せたが、やがてこくりと頷いた。
「特に予定もないですし…俺でよければ。」
ディアッカはにやりと笑った。
「じゃ、決まりな。1時間後にヘリポート、来れるか?」
ここはオーブ本島から離れた列島の中にある島だ。
ディアッカは昨日のうちにカガリに了解を取り、本島への足を確保していた。
「はい。これ食べたら支度して行きます。」
「りょーかい。じゃあ俺も支度あるからさ。」
ディアッカは立ち上がり、シンに手をあげると自室に戻った。
 
 
 
 
「エルスマン隊長…ここ…」
 
シンは何とも言えない表情を浮かべていた。
それもそのはずで、今シンとディアッカが立っているのは、オーブ本島にある共同墓地だった。
先の大戦、そして2年前に起きた戦争の犠牲者達が数多く眠るこの場所には、今も献花が絶えない。
 
「ん?見ての通り、共同墓地だけど?」
「そうじゃなくてっ!何で俺をこんなとこに連れてくるんですか?トダカさんの事なら…」
 
昨日、恐らくキサカから話を聞かされたであろうトダカの事を気遣ったつもりなのか、と思ったシンは、相手が上官である事も忘れてつい声を荒げていた。
しかしディアッカは肩を竦めて首を振った。
 
「違うって。俺の用事に付き合ってもらいたいだけ。」
「用事…?隊長の?」
「そう。分かったらほら、こっち。」
 
花束を手に、ディアッカがさっさと歩き出す。
それは、本島についてすぐに立ち寄った花屋でディアッカが用意したもの。
シンは訝しげな表情のまま、仕方なくディアッカの後について歩き始めた。
 
 
 
 
 
 
 

016

ディアッカの目的は?
 

 

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2014,10,19up