22, モニタ越しの会話 1

 

 

 

 
『…そう。あの時の空母に…。』
 
シンの口からトダカの話を聞き、ルナは納得の行った様子で頷いた。
『それで?シンはどうしたいの?』
「…わからない。」
シンは頭を振り、目を伏せた。
 
「一人で考えようと思って、エルスマン隊長にも部屋に戻ってもらった。
でも、やっぱり俺、一人じゃ決められなくて…。それで、気付いたらルナに連絡してたんだ。」
『…そっか。』
 
沈黙が部屋を支配する。
 
 
『ねぇシン。私たちはあの時、戦争をしていたわよね?』
ルナマリアの声は、とても静かだった。
「え?うん…」
『私たちがしていたのは戦争で、私もシンも、MSに乗ってたくさん敵を撃ったわ。
それによって、幾つもの命が奪われた。
それは取り返しのつかないことで、辛いことだと私も思うわ。』
 
驚いた顔をするするシンに、ルナマリアは柔らかく微笑んだ。
『戦争が終わって、月基地に移動して私も色々考えたわ。本当にこれでよかったのかなって。』
 
 
戦争の爪痕に苦しんでいたのは、自分だけではなかった、というのか?
シンは言葉を失い、モニタに映るルナマリアを見つめた。
 
 
『レイが死んでしまって、すごく悲しかったし悔しかった。
でも、そこで止まってたらダメだ、って思ったの。
こんな思いをする人が少しでも減るように。いいえ、いなくなるようにしたい。
だからこそ、私はザフトに残ったの。』
 
 
ルナマリアの言葉は、シンの心に衝撃を与えた。
それは、これまで考えたこともなかった視点で。
シンは、どこまでも自分中心にしか物事を考えられていなかった己を恥じた。
 
 
 
『綺麗事を言うつもりはないわ。ただの自己満足かもしれない。
ただもう、あんな戦争が起きないように、あんな思いをする人が少しでも減るようにって考えて、自分に出来る事をしようと思ったの。
パイロットである私に出来る事なんて限られてると思ったけど、意外と何とかなるわよ?』
「ルナ…」
くすりと微笑むルナマリアがなんだか眩しくて、シンは目を細めた。
 
 
『トダカさんて人、きっといい軍人さんだったんでしょうね。
シンを助けてくれて、そんな情勢の中プラントへの渡航まで手配してくれたんだもの。』
「…うん。あの時は大したお礼も言えなかったけど、見ず知らずの俺にすごく良くしてくれた。」
『…私はトダカさんて人を知らないから、推測でしか物は言えないけど…。
きっとその人は、シンにこれ以上辛い思いをして欲しくない、って考えてたと思う。
ご家族の分も、前を向いて生きて行って欲しいって思ってたんじゃないかな?』
 
 
シンは、トダカの顔を思い出した。
「…トダカさん、元気でな、って言ってくれたんだ。
それなのに俺、プラントで暮らし始めてから一度も連絡しなくて…」
『…うん。』
「でも、カーペンタリアに降りてきて、いろんな人と触れ合って。
それで思い出したんだ。トダカさんの事。
とにかくお礼が言いたかった。でも、それももう出来ないんだよな…」
『それは、シンの気持ち次第だと思うわよ?』
「え?」
シンは顔をあげた。
 
 
『トダカさんのこと、話を聞く事は出来ても私からこうしろ、ああしろなんて言えない。
シンが自分で考えてどうするか決めなきゃ、結局解決になんてならないでしょ?
相談にはもちろんいつだって乗るけど、どうしたいかを決めるのはシンよ?』
 
シンは新しい機体を受領する際のディアッカの言葉を思い出した。
 
 
ーーこの機体で何が出来るか、それはお前次第だ。それをまず、自分で考えろ、シン。
 
 
「隊長にも…似たような事言われたよ。」
『あら。エルスマン隊長にも?…何か、すごい褒められた気分だわ』
そう屈託なく笑うルナマリアを見ているうちに、先程まで荒れ狂っていたシンの心が少しずつ凪いでくる。
「ルナ。いきなり取り乱してごめん。俺、自分で考えてみるよ。
取り返しのつかないことをしちゃったのは分かってるけど…。
ルナの話聞けて、何かきっかけが掴めた気がする。だから、ありがとう。」
『…他に言うことはないの?』
「他に?」
目を眇めるルナマリアに、シンはきょとんとした。
 
 
『連絡が取れなくなっちゃって…心配したし、寂しかったんだからね?』
 
 
シンは、自分がルナマリアとの連絡を絶っていたことを思い出し、少しだけ目を見開いた。
「あ…」
『言っとくけど。私、お見合いなんてしないから。
婚姻統制や遺伝子の適合率なんて関係ない。自分の結婚相手は自分で決めるわよ。だから…』
「だから?」
『また、連絡してよね。私だってシンのこと、すごく心配してるんだから。』
 
照れたようにそっぽを向くルナマリアは、ついさっき自分を叱咤してくれた彼女とは別人のようで。
自分の知っているルナマリアだ、とシンはまた涙が出そうになった。
 
 
「…心配かけてごめん。また、連絡するから。約束する。
あの、今通信入れてるナンバーも俺のだから、良かったら…」
『…うん。私も連絡するわ。』
 
 
嬉しそうに頷くルナを見て、シンは通信が繋がって初めて笑った。
それはとてもぎこちない笑顔であったが、それでもルナマリアはほっとした表情を見せたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
016

ディアッカにもルナマリアにも言われた『自分で考えること』。
シンはトダカの件について、どう考えどう動くのでしょうか。

 

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