シンはぼんやりと天井を眺めていた。
鈍い頭痛はまだ残っていたが目眩はだいぶ治まり、この分なら点滴の世話にはならずにすみそうだった。
あとで、ディアッカにもきちんと礼を言わなければ。
喉の渇きを覚え、シンはゆっくりと起き上がった。
備え付けのキッチンまでゆっくりと歩き、ミネラルウォーターを取り出すと一気に半分以上飲み干す。
ふぅ、と息をついてーーーシンは、トダカに助けられた時の事を思い出した。
一瞬にして奪われた家族の命。
蹲ってただ泣き喚く事しか出来ないでいた自分を助け起こし、安全な場所まで連れて行ってくれたトダカがシンに差し出したのがミネラルウォーターだった。
こんなものしかなくて、すまないな。
その無骨な言葉に潜む優しさに、どれだけシンは救われただろう。
ショックで動けないシンに変わってプラントへの移住の話を進め、身元引き受け人の欄に迷わず署名もしてくれた。
出発の際には宙港まで送ってくれて、元気でやるんだぞ、と優しく声をかけてくれた。
プラントに移り住んで、戦災孤児の奨学金でアカデミーに入学して。
当時シンは、トダカへの感謝の気持ちよりも家族を奪ったオーブへの憎しみの気持ちの方が強く、プラントに渡って以来トダカに連絡一つする事はなかった。
いつかまた会う事が出来たら、その時はきちんと礼を言おうーー。
そう思ってそれで満足し、それ以来思い出すことすらしなかった。
それは戦時中も変わらず、自分が戦っている相手の中に恩人がいるなど考えた事もなかった。
オーブの軍人に助けられたのだから、充分にあり得る話なのに。
それがこうして地球に降りてくるまで思い出す事もなかったのだから、自分は相当な薄情者だとシンは自嘲した。
自分はどうしたらいいか。
答えは、全く見えない。
一人で考えたい、と思ってディアッカにも出て行ってもらったくせに、頭が考える事を拒否しているかのようだ。
誰かと、話したい。
ディアッカの所へ行こうか。
そう思いながらも、シンの手は自然とヴィジホンに伸びていた。
暗記していたナンバーを押すと、しばらく呼び出し画面がモニタにちらつき、通信が繋がる。
『…シン?』
モニタには、驚いた顔のルナマリアがシンを見つめていた。
『知らないコードだから…出るの迷ったの。でも良かった。シンだったのね。』
ルナマリアは風呂上がりだろうか、Vネックのカットソーに首からタオルをかけたラフな格好だ。
『シン?何で黙ってるのよ?』
「ル…ナ」
ショートカットだった髪は、少し伸びた気がする。
大きくて快活な瞳をくりくりとさせ、ルナマリアはシンの様子に首を傾げていた。
『シン?今どこにいるの?メイリンから軽く話は聞いてるけど…』
「ルナ…おれ…」
モニタに映るルナマリアの顔がぼやけて滲む。
シンの膝に、ぽたりと水滴が落ちた。
『泣いて…るの?シン?』
燻る自分をよそに月基地で活躍するルナに引け目を感じ、結婚の話を耳にした事も手伝って自分から連絡を絶った。
なのになぜ、ルナマリアの顔を見ただけで自分はこんなにも安心し、無防備な姿を晒せるのだろう。
ミリアリアと話した時に感じた感覚と似ているが、それよりももっと強い、安心感。
「…おれ…恩人を、殺したんだ…」
その言葉に、ルナマリアの眉が顰められる。
『…最初から、事情を話してくれる?』
シンはあふれる涙を拭おうともせず、ただ頷いた。
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シンが無意識に求めたのは、ルナマリア。
やっぱり、自分に嘘はつけません。
2014,10,10up