「クレタ…沖?死んだ、って、え?」
キサカは沈痛な表情で立ち上がり、ダストボックスに紙コップとペーパーナプキンを投げ捨てた。
「トダカ一佐は、オーブ黒海派遣軍の司令として空母タケミカズチに乗艦していたんだ。
そして3年前、クレタ沖での戦闘においてザフト軍と交戦した。
その際、劣勢を悟ったトダカは部下を逃がして自分だけ残り、そのままザフトの新鋭機体に空母ごとやられ、戦死した。」
シンの脳裏に、自分が操るソードインパルスの攻撃によって撃沈するオーブ軍旗艦の姿が浮かんだ。
あの空母の名前は、確か、タケミカズチーーー。
「…残念だったな。良ければオーブ本島に彼の墓がある。
こちらにいる間、時間が取れるようなら一度行ってみるといい。場所はーー」
「…ありがとう…ございました」
ふらり、と揺れるシンの姿に、キサカは驚いたように手を伸ばした。
「おい、大丈夫か?」
シンの赤い瞳は虚ろに揺れ、焦点も合っていない。
「…平気です。すみません。失礼します。」
先程までの生気は消え失せ、悄然と休憩室を出て行くシンを、キサカは心配そうに見送った。
頭が、がんがんと痛んだ。
シンは思わず壁に手をつき、立ち止まる。
気を抜けばそのまましゃがみこんでしまいそうだったが、僅かに残った何かがそれを押しとどめた。
オノゴロで家族を失い錯乱寸前だった自分を叱咤し、安全な場所に連れ帰ってくれたトダカ一佐。
一佐と言う階級すら覚えていない程のショックを受けていた自分を気遣ってくれ、プラントへ渡る手続きまでしてくれた、シンにとっての恩人とも言える人物。
そんな人を、自分は殺したのだ。この手で。
シンは自分の手をじっと見つめた。
「俺が、殺した…。」
オーブを、アスハの理念を憎んでいたあの頃ですら、もしまた会うことが出来たならきちんと礼を言いたいと思っていた。
再び戦争が始まりそれも叶わなくなったが、それでもシンにとってトダカは大切な恩人だった。
「俺が…インパルスで…殺した」
シンは思わず手で口を覆った。
『シンですか?いえ、先程用事があると別れたきりですが、何か?』
内線から聞こえるディアッカの声に、キサカは重い溜息をついた。
「いや…たいした事ではないんだ。勤務外の時間にすまなかったな、エルスマン。」
『いえ、お気遣いなく。』
落ち着いたディアッカの声。
「…エルスマン。副官殿の事で一つ聞いてもいいか?」
『ーーーはい。俺に答えられる事なら。』
すぅ、とキサカは息を吸った。
「副官殿…シン・アスカの大戦時の機体は?彼はMSパイロットだろう?」
一瞬の沈黙の後。
「シンはザフトの新鋭艦、ミネルバに乗艦していました。
与えられていた機体は、『インパルス』です。後にデュランダル議長から『デスティニー』を与えられて、そのまま終戦を迎えたと聞いています。」
キサカは、言葉を失い目を瞑った。
![]()
恩人であるトダカを殺したシンを思い、絶句するキサカ。
そしてシンは、この事実をどう受け入れるのでしょうか…。
2014,10,10up