20, 恩人 1

 

 

 

 
「スカンジナビア共和国?マジかよ?」
デスクに置かれた書類を手に、ディアッカは目を丸くした。
 
 
「ああ。フラガ大尉から先程詳細な場所についてメールがあった。
お前がオーブに来てるって言ったら、会えなくて残念、って言ってたぞ?」
「ああ…俺も残念だけどさ、それより、そこにラスティはいるのか?」
カガリは重々しく頷いた。

 
 
「あいつはミリアリアがテロに巻き込まれた北欧のコミュニティが無くなってから、各地を転々としていたそうだ。
それは私も本人から聞いているが、それきり会っていないからな。
今はスカンジナビアのコミュニティを拠点に傭兵活動をしているらしい。」
「…って事は、あいつ、無事なんだな。」
ディアッカは思わず安堵の息をついた。
これでラスティに万が一の事があったらイザークに何と言えばいいのか、と内心危惧していたのだ。
怜悧なように見えて情に厚いイザークの事だ。
職務を放り出して地球に降りてきかねない。
 
 
 
「どうするんだ?ディアッカ。必要なら足は手配するぞ?」
カガリの提案。
それは、ディアッカにすぐにでもコミュニティを訪問する気があるか?と暗に尋ねているのと同じだった。
ディアッカはしばらく思案した。
カーペンタリアに降りて1ヶ月と少し。
オーブに滞在出来る期間は4日間。
あちらに戻れば、シン共々さらなる復興支援の任務が待っている。
 
 
「…悪い、姫さん。足、借りていいか?俺とシンで、スカンジナビア共和国に行く。」
 
 
後ろに控えるシンが、息を飲むのが分かった。
「ああ。操縦はどうする?ノイマン一慰に任せるか?」
「いや、俺がする。万が一の時はシンも操縦出来るし。だよな?シン。」
「え?あ、はい!」
ぼんやりしていたシンは、ディアッカの言葉に慌てて頷いた。
「今から行くのか?」
「いや、これからじゃあっちにつく頃には夜になっちまってる。
それに、情報を整理して行きたいから…そうだな、明後日の早朝に出発する。」
「分かった。キサカ!いいか?」
「ああ。軍の整備士達に言って明後日までにそれなりのものを用意させよう。」
頼もしいキサカの言葉に、ディアッカは笑顔で礼を述べた。
 
 
 
「あ、隊長。先に宿舎に戻っててもらえますか?」
「え?ああ、いいけど。」
ディアッカは訝しげにシンを振り返った。
「このまま行けば、明日って休暇ですよね?」
「ああ、そのつもりだけど…」
「了解しました。すぐ戻ります!」
シンは慌てたように走り出した。
 
 
 
「あの、すみません!」
目当ての人物を見つけ、シンは慌ててそう声をかけた。
「きみは…エルスマンの…」
「はい、副官をしているシン・アスカです!あの、ちょっとお聞きしたい事がありまして…」
息を切らせたシンの言葉に、引き止められたキサカは目を丸くした。
「…ああ、構わんよ。あちらに休憩室がある。今の時間なら人もいないだろう。そこでいいか?」
「はい!すみません、お時間を取らせてしまって。」
シンはぺこりと頭を下げると、先を歩くキサカについて休憩室のドアをくぐった。
 
 
 
「それで?私に聞きたい事とは何かね?」
紙コップに注がれたコーヒーを差し出しながら、キサカは首を傾げた。
「あの…実は俺、じゃなくて自分はオーブの出身なんです。
先の大戦で…家族を亡くして、それでプラントに渡りました。」
キサカが目を見開いた。
 
「そうだったのか…。それは、苦労したな。」
「…いえ…。それで、その時に自分を助けてくれたオーブの将校がプラントへ渡る手配をしてくれたんですけど、その時に自分はきちんとお礼も言えないままで別れてしまったんです。
なので、もしその方をご存知であれば、通信越しでも一言お礼をと思いまして…」
 
キサカは頷いた。
「そうか。その将校の名前や階級は分かるか?」
「はい。階級は覚えていないのですが名前なら分かります。
トダカさん、という方です。」
 
 
 
その瞬間、キサカが手にしていたコーヒーを床に落とした。
 
 
 
「ちょ…大丈夫ですか?!」
シンは驚いて思わず立ち上がったが、呆然としたキサカを見て訝しげな表情になった。
「あの…?何か…」
「トダカ、と言ったな?その名に間違いはないか?」
鋭い視線に射抜かれ、シンは狼狽えた。
「は、い。間違いありません。」
 
キサカは床に転がった紙コップを緩慢な動作で拾い上げた。
そして、テーブルの隅に置かれたペーパータオルを取り、そっと床のコーヒーの上に乗せる。
 
 
 
「トダカは死んだ。クレタ沖でザフト軍との戦闘の際に、な。」
 
 
 
シンの赤い瞳が大きく見開かれ、揺れた。
 
 
 
 
 
 
 

016

シン、試練の時です。

 

 

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2014,10,10up