「エルスマン隊長!あと30分後にオーブからの使者が到着予定との事です!」
基地内に臨時で用意された接待用の部屋でシンと打ち合わせをしていたディアッカは、その声に振り返り頷いた。
「了解した。あと少ししたら艦橋に向かう。」
「はっ!」
敬礼をして兵士が立ち去ると、ディアッカはソファにだらしなく腰をかけ、あくびをひとつした。
「使者の前ではきちんとして下さいね。」
「当たり前じゃん。今くらいぼけっとさせろよなー」
呆れ顔のシンにへらり、とディアッカは笑い、んー、と伸びをする。
この人、ほんと大丈夫だよな…
シンの脳裏に一抹の不安がよぎった。
「…お前こそ、だいじょーぶ?」
びくり、とシンの体が揺れた。
「…なにが、です?」
「オーブの軍人と会うんだぜ?オーブ嫌いのお前にはキツいんじゃねぇの?」
シンは赤い瞳を大きく見開いた。
確かに、シンは今朝からどこかそわそわしていた。
かつて自分が住んでいた国である、オーブ連合首長国。
シンが祖国であるオーブに対して、家族を守ってくれなかった、と憎しみを募らせていた事をディアッカはイザークから聞いて知っている。
だからこそ問うたのだ。
オーブの人間と顔を合わせて、冷静でいられるのか、と。
「隊長…何で…」
「ん?ああ、そんくらい見てりゃ分かるさ。で?いいのか?」
「え?」
訝しげな顔をするシンを、紫の瞳が射すくめた。
「キツかったら、お前は無理しないでもいい。今からでもベルリンに飛んで…」
「いえ。大丈夫です。」
きっぱりと答えるシン。
ディアッカはしばし無言でシンを見つめたあと、頷き、立ち上がった。
「吹っ切れた、ってわけ?」
「…そうじゃありません。自分でも分かんないですけど。」
「…けど?何だよ?」
シンは拳をぎゅっと握りしめた。
「オーブが憎い、その思いが完全に消えたかって言ったら嘘になります。
でもそれと、オーブ軍の人間だからどうこう、って言うのは違う。そんな気がするんです。」
ディアッカはぽん、とシンの頭に手を乗せた。
「お前にしちゃ上出来な考えだな。」
途端、シンがむっとした顔をする。
「馬鹿にしないで下さいよ!俺だって一応、色々考えてるんですから!」
すぐムキになる癖は、なかなか直るものでもないらしい。
「分かってるって。じゃ、艦橋いくぞ。出迎えだ。」
「…はい。」
くすくすと笑いながらも颯爽と執務室をあとにするディアッカに付いて、シンも歩き出した。
ディアッカとシンが艦橋に着いた時、オーブの獅子の紋章を背負った専用機が基地内に到着する光景がモニタに映し出されていた。
「へー。特使ってまさか姫さんじゃねぇよな…?」
「は?」
「ああ、失礼。独り言です。」
怪訝な表情で振り返る司令官に、ディアッカは即座に作った有能な軍人の顔で答える。
そしてシンはその隣でじっと目を凝らし、獅子の紋章を見つめていた。
タラップから降り立ったオーブからの特使は、踵を揃えて司令官に敬礼を送った。
「お出迎え頂き、ありがとうございます。オーブ軍第二宇宙艦隊所属、アーノルド・ノイマン一尉であります。」
げ、と小さな声をディアッカが漏らしたのを、シンは聞き逃さなかった。
「オーブ連合首長国代表首長、カガリ・ユラ・アスハ様よりザフト軍カーペンタリア基地司令官殿に親書をお預かりしております。」
「ようこそ、カーペンタリア基地へ。我々は貴殿らを歓迎する。
まずは部屋にご案内させて頂こう。エルスマン隊長、よろしいかね?」
「了解致しました。エルスマン隊隊長、ディアッカ・エルスマンです。どうぞこちらへ。」
さらりと自己紹介をするとディアッカは敬礼を一つ送り、ひらりと身を翻した。
さっきの隊長の反応、何だったんだろう…?
黙って後ろからついてくるオーブの特使にちらりと目をやり、シンは慌ててディアッカのあとを追いかけた。
「シン、お偉方はいつ頃ここに来る予定だ?」
先程の部屋に戻った途端、ディアッカの口調が一気にくだけたものに変わった。
「え?あ。っと、ちょうど1時間後、です。
それまでに、協力頂ける復興支援の…」
シンの言葉が終わる前に、ディアッカは手のひらを翳して話を止めた。
「OK。それだけあればひとまず充分だな。だろ?おひさし、ノイマンさん?」
「…ああ。ハウとの結婚式以来だな。元気そうで何よりだ。彼女はプラントに?」
「そ。まぁ毎日通信でしっかり愛は確かめ合ってるけどね!」
ノイマンはそんなディアッカに苦笑し、溜息をついた。
「それについては後ほどゆっくり聞かせてもらおうか。で、この部屋だが監視や盗聴の心配はないのか?」
「そのはずだ。さっき一通りチェックはしておいたぜ。」
シンはぽかんとオーブの特使とディアッカのやり取りを見ていた。
なんだ?これ。この人達知り合いなのか?
「彼は?」
「ああ、俺の副官。こいつも例の任務に付き合ってもらう事にしたから。」
「へ?」
ディアッカはとん、とシンの背を押し、オーブの特使の前に立たせた。
「こいつはシン・アスカ。俺が隊長になると同時にジュール隊に配属になって、で、そのまま俺の副官に任命されてここに来た。
…もと、デスティニーのパイロットだ。」
その言葉に、シンは思わずディアッカを振り返った。
「デスティニーの…?そうか、因果なものだな。」
「…え?」
オーブの特使は柔和な顔を微かにほころばせ、じっとシンを見つめた。
「シン。ノイマンさんはミリアリアと同じ、AAのブリッジクルーだった人だ。
…意味は分かるな?」
「AAの…?それじゃ…」
「君の攻撃を避けるのは、並大抵の事じゃなかったよ。
…アーノルド・ノイマンだ。戦時中はAAで操舵士をしていた。よろしく、シン・アスカくん。」
そうして差し出された手を、シンは呆然と見つめた。
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オーブからの特使は、ノイマンさんとなりました。
2014,9,24up