16, 突破口 2

 

 

 

 
「瓦礫の撤去先は?」
「はい、とりあえずの目処は立ちました。オーブや、それにいくつかの国家も支援を申し出て来ています。」
「そうか。オーブに関しては明日特使と打ち合わせすればいいな。
それ以外の国は?どういう段取りになった?」
「ええ、と…。国別にまとめたデータを、さっき隊長の端末に送りました。」
 
与えられた執務室へと歩きながらの打ち合わせ。
シンは颯爽と一歩前を歩くディアッカの背中を見上げた。
 
 
ベルリンに赴いた初日に起こった、ちょっとした事件。
あれ以来、カーペンタリアの駐屯兵達のエルスマン隊に対する目が変わった事を、シンは肌で感じていた。
 
それまでエルスマン隊は、駐屯兵達から一歩引いた目で見られていた。
杳として進まぬラクス・クライン肝いりの復興支援計画のテコ入れとしてプラントから降り立ったエルスマン隊は、駐屯兵達にとっては自らが無力であるような気にさせられる存在だったのかもしれない。
 
しかし、ベルリンで大勢の兵士達を前にシンと赤服の兵士達の諍いに割って入ったディアッカの言葉が、駐屯兵達の何かを変えた。
聞けば、カーペンタリアの上層部はベルリンで復興活動をする組織に何度も支援の申し入れをしていたらしい。
それでも話はなかなか進まず、徒労に終わる事ばかりだったそうだ。
 
 
ディアッカが初めて組織の門を叩いた時も、結果は門前払い、だった。
だが、普段ならそれでカーペンタリアに引き返すはずのザフト軍がそこに残り、許可を出した場所の瓦礫をあっという間に撤去した事で、相手は相当面食らったようだ。
 
翌日、当然のようにディアッカはシンと駐屯兵達を引き連れ再びベルリンに降り立った。
そして粘り強く組織の責任者への面会を申し入れ、やっとそれが叶った時にはプラント側で提示した復興支援案をさらに事細かく説明した。
書面にすれば軽く数十枚にはなるであろう支援案を完璧に頭に入れ、さらにそれを自分の言葉に置き換え話すディアッカにシンは嘆息したものだった。
 
 
そしてその姿勢は、もやもやとした思いを抱えていた駐屯兵達の心にも響いたようだった。
いつしかディアッカの周りには指示を仰ぐ兵士達が集まるようになり、副官であるシンにも同様に声がかかるようになった。
何より、初日に絡んで来た赤服の兵士達が直々に謝罪に訪れた事に、シンは戸惑いを隠せなかった。
頭を下げる二人の兵士に大げさなくらいおたおたと対応するシンの姿に、彼らは戸惑ったように顔を見合わせ、そして笑顔になった。
シンがこれまでのベルリンでの交渉について知る事が出来たのも、この二人のおかげであった。
 
 
 
 
「隊長。ちょっといいですか?」
執務室に入りそう声をかけると、ディアッカは少し驚いたように振り返った。
「何だよ?」
シンはごそごそと自分に与えられたデスクから包みを引っ張り出し、ディアッカに押し付けるように手渡した。
「…この間は、ありがとうございました。俺、カッとなるとすぐああなっちゃって…。
今更ですけどすいませ…じゃなくて申し訳ありませんでした。」
目を逸らしてぼそぼそと呟くシンに、駐屯兵とのやり取りの事を言っていると気付いたらしいディアッカが破顔した。
 
「何だよ、気にしてたのか?」
「そりゃそうですよ!でも…隊長の言ってた事、俺もあれから考えました。
今出来る事から、って、ほんとにその通りだなって思って。
それに、ここの兵達も隊長のあの言葉で雰囲気変わりましたし。」
「そーかぁ?」
そう言ってへらり、と笑うディアッカを、シンは真っ正面から見据えた。
 
 
「俺…今まで考えるだけで何も動いて来なかったけど、少しずつ動いてみようと思います。
何が出来るか、自分で考えて。
だから、そのきっかけを作ってくれたお礼です、それ。」
「お礼?コレ?」
ディアッカは押し付けられた包みに改めて目をやった。
 
 
「あの時の赤服の兵士達、この間俺の所に謝罪に来てくれました。
ベルリンでのこれまでの交渉についても教えてくれたり、色々話をする事が出来ました。
他の兵達とも、やっと少し意思の疎通が取れてきてます。
そのきっかけは、やっぱり隊長のあの言葉でしょ?
だから、そういうの全部含めたお礼です。」
「…そっか。」
ディアッカは包みを開き、中身を確認し…思わず目を見開いた。
 
 
「本部への定時連絡の際にハーネンフースさんを通してミリアリアさんに確認をとりました。
…銘柄、それで合ってますか?」
 
 
ディアッカの手にした包みの中身は、クリスタルマウンテン。
カーペンタリアのコーヒーでは物足りず、コーヒー豆を買える店が無いか、と口にしたのをシンはしっかり覚えていたらしい。
 
「ああ、サンキュ。お前、なかなか出来る副官だよね。…デスクワークはあんまりだけど。」
「っ!しょうがないでしょ!慣れてないんですから!」
「はいはい。戻ったらメイリンにでも教わっとけよ?
でさ、とりあえずこれでコーヒー淹れて?お前も飲んでいいから。特別に今日だけな。」
 
 
飄々として、時に不遜にすら見える態度を取るシンの新しい上官。
しかしその実、面倒見がよく真摯な一面もある事をシンはもう知っている。
 
 
 
たとえ壁にぶつかっても、出来る事からやってみること。
思いを言葉にする事の大切さ。
シンはディアッカが身をもって教えてくれたこの事を、忘れないようにしようと固く誓った。
 
 
 
 
 
 
 
016

少しずつ、シンの心境に前向きな部分が。

シンはやっぱり、素直な子だと思います。

 

戻る  次へ  text

2014,9,18up