Fashion Check 3

 

 

 

 
「シホさん、子供の近くに移動しましょう」
ミリアリアの声に、シホは目を見開いた。
「だめです!目立った行動を取っては…」
「子供がいるのよ?私は自分でどうにでも出来るから、そっちを優先させましょ?
大丈夫、シホさんの指示通りに動くわ。」
 
そう言ってにこりと微笑むミリアリア。
シホはミリアリアの度胸と優しい気遣いに感服しながら、こくりと首を縦に振った。
 
 
幸い子供連れの女性とミリアリア達の距離はそう離れておらず、犯人に何か言われる事も無く二人はそこまで移動出来た。
「…大丈夫よ。もうすぐ助けが来てくれるからね。」
おびえて母親にしがみつく男の子にそう言って微笑みかけるミリアリア。
そしてシホは青い顔をする母親の目を見つめ、安心させるように頷いてみせた。
 
「…恐らく、ザフト軍に一報が入っているはずです。落ち着いて、様子を見ましょう」
「…はい…」
 
程なく、タイヤを軋ませながらこちらに向かって走ってくる車の音が聞こえた。
 
 
「まだザフトも警察も来てない!逃げるなら今だ!」
割れたガラスの向こうで、運転席から男が顔を出す。
「ああ!ちょっと待ってろ!」
拳銃を手にした男はぐるりと客を見回しーーーミリアリアの隣で母親にしがみついて震える子供に目を止めた。
「おい、そこのガキ!ちょっと一緒にドライブしてもらうぜ?」
母親がびくりと震え、慌てて子供を胸に抱き寄せる。
ミリアリアはきつく男を睨みつけ、シホは素早く身構えた。
 
 
「ほら、死にたくねぇなら早くしな!こっちも時間がねぇんだよ!」
「お願いです!子供だけは助けて!」
 
 
母親の悲痛な叫びに男は舌打ちし、いきなり母親に向かって手をあげた。
「きゃあぁっ!」
「ママ!」
突き飛ばされ、危うく床に倒れかける母親に、シホは咄嗟に手を伸ばした。
ミリアリアは子供を庇い、男の前に立ちふさがる。
 
「子供の前で…なんて事するのよ!」
「うるせぇ、どけ!」
「どかないわ!人質なんて取る暇があったら、さっさとどこへでも逃げたらいいじゃない!」
 
男がミリアリアと一触即発の状態となる。
と、母親を支えていたシホの耳に、聞き慣れたエンジン音が飛び込んで来た。
これはーーーもしかして。
 
 
「じゃあお前でもいいから来い!こっちは急いでるんだ!」
男がミリアリアの腕を掴む。
それに気付いたシホは咄嗟に立ち上がろうとして、ミリアリアが発した言葉に思わず息を飲んだ。
 
 
「別にいいけど、おすすめは出来ないわよ?多分、1時間もしないうちにあんた達は確保されるわ。
…ザフトの、精鋭部隊にね。」
 
 
「おい!ザフトだ!」
 
ミリアリアの言葉と同時に、運転席にいた男が悲鳴のような声を上げる。
男は舌打ちすると、ミリアリアの腕を離してそのまま子供の手を引っ掴み、外に駆け出した。
「ママ!」
子供が泣き叫ぶ。
「ミリアリアさん、下がって!」
 
シホは手近にあった花瓶を掴むと、走る男の足下を狙って思い切り投げた。
「うわっ!?」
それは見事にヒットし、男は痛みと衝撃で足下をふらつかせる。
そこへすかさずシホが飛び出し、男に綺麗な蹴りを食らわせた。
長い黒髪がふわりと広がる。
「シホさん!」
ミリアリアが思わず声を上げた時、ぎし、と嫌な音が天井から聞こえた。
はっと上を見あげると、先程男が発砲したシャンデリアがゆらりと揺れているのが目に入る。
その下には、男の手から解放され呆然と立ちすくむ、子供。
 
 
「あぶない!」
 
 
ミリアリアが子供に向かって飛び出した瞬間。
ワイヤーが切れる音とともに、シャンデリアが落下した。
 
 
 
 
 
イザークとディアッカのエアカーが角を曲がると、割れたウィンドウとその前に停車するエアカーの姿が見えた。
「あれだ!行くぞディアッカ!」
急停車したエアカーから、イザークが拳銃を手に飛び出す。
ディアッカも同じように銃を手にすると、イザークの後を追って飛び出した。
店内からは子供の泣き声と、男の怒鳴り声が聞こえてくる。
そして。
 
 
「あぶない!」
 
 
間違いようもないミリアリアの声にディアッカだけでなくイザークも表情を変えた。
続けて、ガラスが割れる盛大な音。
 
 
 
「ミリアリア!」
 
 
 
ディアッカはイザークを押しのけ、店内に走り込んだ。
そこら中に広がる、ガラスの破片。
どうやら、何らかの理由でシャンデリアが落下したようだ。
 
 
「…ディアッカ…?」
 
 
その、シャンデリアの残骸の向こう側に。
小さな子供を胸に抱えてしゃがみ込む、ミリアリアの姿があった。
 
 
*****
 
 
「本当にありがとうございました!」
「いえ、本当にたいした事はしていませんから。顔を上げて下さい。」
 
何度も頭を下げる女性に、ミリアリアは困ったように微笑んだ。
「おねえちゃん、ありがとう」
ミリアリアのストールを巻かれ、涙のあとが残る顔を上げてにっこり笑う小さな少年。
その小さな頭をミリアリアは優しく撫で、「ね?ザフトのお兄さん達、すぐに助けに来てくれたでしょ?」といたずらっぽく笑った。
 
 
母親と少年を見送り、ミリアリアとシホは思わず顔を見合わせ笑いあった。
「シホさん、やっぱりすごい。花瓶、しっかりヒットさせてたわね。」
「ミリアリアさんも。よくシャンデリアが落ちると気付きましたね。」
「ああ、紛争地域の取材とかしてると、よくあったの。瓦礫が崩れたり家屋が崩壊したり。
ぼんやりしてたら下敷きだものね。」
 
去り際に返されたストールを手に、ミリアリアは自分の格好を見下ろした。
「だいぶ汚れたけど…今日の格好、やっぱり正解だったわね。」
「そうですね。お互いだいぶ汚れてしまいましたけど。」
「…なにが正解?」
 
 
背後から聞こえた声にぎくり、と二人は肩を震わせ、ゆっくりと振り返る。
 
犯人は警察に任せて、こちらにやって来たのだろう。
そこには、二人の大切なパートナーである、ディアッカとイザークが立っていた。
 
 
*****
 
 
「ではミリアリアさん、私はこれで。」
エアカーを取りに行ったイザークが戻り、シホは荷物を手に立ち上がった。
ミリアリアの荷物は既にディアッカが自分のエアカーに運び込んである。
「イザーク、淡々としてるけどすげぇ心配してたから。ちゃんとフォローしとけよ?」
笑いを含んだディアッカの言葉に、シホはつんと顎をそらした。
「わかってるわよ。あなたこそ!ミリアリアさんは疲れてるんだから。
夕食くらい、あなたが作ってあげなさいよね。」
「はいはいわかりました」
 
 
ミリアリアはシホと目を見交わしてくすりと笑うと、イザークにも笑顔で手を振った。
 
 
 
 
 
 
 
007

出動要請がなくとも、しっかり現場に駆けつけた二人。
そして今回は、今までの本編に比べてミリィに無茶させてないつもり(キリッ

 

 

戻る  次へ  text

2014,9,22up