Fashion Check 4

 

 

 

 
「寒くないか?」
ディアッカと二人で駐車場まで歩く道すがら。
しっかりと手を繋がれ、その温かさにミリアリアは思わず微笑んでディアッカを見上げた。
 
「大丈夫。暖かい格好してきたし。ストールもあるから。」
「それじゃ薄手すぎだろ。ほら。」
 
繋いでいた手が外され、ふわり、と首元に暖かい感触。
それが、かつて自分が編んでプレゼントしたマフラーである事に気付き、ミリアリアは少しだけ驚いた表情を浮かべた。
 
 
「これじゃ、ディアッカが寒いじゃない!私はいいから…」
「だめ。俺は寒くても風邪なんてひかねぇの。それより、お前が寒いする方が何倍もキツい。」
 
 
そう言って、拗ねたようにそっぽを向くディアッカ。
ミリアリアは赤くなった頬を隠すように、黙って、マフラーを首に巻き付けた。
ディアッカ用に長めに作ったマフラーは、ミリアリアの細い首に巻くと顎が半分くらい埋もれてしまう。
「…ありがと」
「あったかい?」
「…うん、あったかい。」
ディアッカの手が再びミリアリアの手を取り、指が絡められる。
 
「今日のカッコさ。なんか…いつもとイメージ違うな。」
 
はっとミリアリアは顔をあげた。
「え、あ、へ…変?」
狼狽ぶりが伝わったのだろう。ディアッカは優しく微笑みミリアリアに顔を向けた。
「全然。そういうカッコも似合うなって思って。
お前いつも俺が選んだのばっか着てるだろ?だから、そういうカッコ久しぶりっつーか…新鮮だった。」
「…だって。せっかく選んでくれたから…」
「え?」
ミリアリアは恥ずかしくなって俯いた。
 
 
「こういう動きやすい格好も、好き、なの。でも、その、今更…恥ずかしくて。
それにね、あの、せっかくディアッカが選んでくれたし、どれもかわいいし、それで…」
 
 
だんだん支離滅裂になるミリアリア。
きょとんとしたディアッカだったが、ミリアリアの言いたい事が分かると、また笑顔になった。
 
「ミリィ、大好き」
 
駐車場手前でぎゅっと抱き締められ、ミリアリアは驚き、慌てた。
「ちょ…せめて車まで待てないのっ?!ここは外…」
「…よかった。何もなくて。」
ミリアリアを抱き締める腕に、力が込められる。
ああ、また心配をかけてしまった。
ミリアリアはディアッカの背中に手を回した。
 
 
「…ありがとう。助けに来てくれて。」
「どこにいても助けに行くって、いつも言ってるだろーが」
優しい声、温かい胸。いつも自分を守ってくれる、力強い腕。
「…うん。来てくれるって思ってた。」
 
 
だから、あの子にもそう言ったのだ。
もうすぐ助けが来てくれるから、と。
 
 
「頑張ったご褒美に、今日は俺がうまいもん作ってやるよ。
あとさ、今度そういうカッコでデートしよ?そのブーツも、可愛い。」
「…うん。」
 
 
ミリアリアは顔を上げ、落ちて来たディアッカの唇を受け止めて。
二人は笑いあい、また手を繋ぐと、エアカーに向かって歩き出した。
 
 
*****
 
 
「ーーー怪我は、ないのか?」
窓から外を眺めていたシホは、イザークの言葉に慌てて振り返った。
「はい。大丈夫です。」
「そうか」
イザークは前を見たまま簡潔に答える。
再び、沈黙が車内を支配した。
 
なに?なんなのこの気まずい空気は?!
 
シホは必死で思い当たるふしがないか考えたが、この微妙な空気の理由がどうしても分からなかった。
き、と車が信号にぶつかる。
悶々と考え込んでいたシホは、イザークの顔が自分に向いている事に全く気付いていなかった。
 
 
「シホ」
 
 
びくりとして顔を上げると、イザークの手がすぐ近くにあった。
長い髪をさらりと掻き分けられ、そっと頬を撫でられる。
「え?あの、隊長?」
「イザーク、だろ」
「あ」
白服姿のイザークを前に、つい名前ではなく仕事中の呼び方になってしまい、シホは思わず目を泳がせてしまう。
 
「…これからは、行き先ぐらい、言っていけ。」
「ーーーえ?」
 
信号が青に変わり、イザークは視線を前方に戻すとゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
「俺は、お前を束縛するつもりなどない。」
シホは何を言っていいかわからず、ただイザークの横顔を見つめた。
 
 
「だが、今日の事があって…ディアッカの気持ちが、ほんの少しだけわかった気がする」
 
 
その言葉の意味をシホが理解するのに、しばしの時間を要した。
「いくらお前が優秀な軍人だからと言って、無茶はするなよ?
今日のお前は非番で、丸腰だったのだから。怪我でもしたらどうする?」
「イザーク…」
不器用で遠回しだけど、この人は自分を心配してくれている。
そう思うとシホは嬉しくて、思わずそっとイザークの軍服の裾を摘んだ。
運転中の彼を、邪魔したくはなかったから。
まるで子供のような、その仕草に気付いたイザークは、前を向いたままふわり、と表情を緩めた。
 
 
「今度からは、どんな手段を使っても俺を呼べ。いいな?」
「…はい」
 
 
また、信号にぶつかりエアカーが停まった。
「…呼ばなくても、きっと来てくれるって。そんな気がしてたんです。」
イザークがはっと助手席を向くと、自分をじっと見つめる綺麗な薄紫色の瞳がそこにあった。
 
「だからミリアリアさんや他の方達を守らなきゃ、って思えたし、イザークが来てくれるって思ったら、頑張れました。」
 
ミリアリアがディアッカを信じて、あの子供にすぐ助けが来る、と口にしたように。
シホもまた、イザークは必ず来てくれる、という確信めいた想いがあったのだ。
 
「行き先も告げていなかったのにおかしな話、ですよね。でもどうしてだか、そう思えたんです。」
イザークは少しだけ身を乗り出し、自分を見つめるシホに顔を寄せる。
シホは目を閉じ、そっと重ねられた唇の感触に体を震わせた。
 
 
「…今日、泊まってもいいか?」
 
 
耳元で囁かれるイザークの声。
「…食材が心もとないですが、それでも良ければ。」
「食事なら外ですればいい。」
 
信号が青に変わり、再び車が動き出した。
「それなら、一度家に帰って着替えないと…。汚れてしまいましたし。」
すると、イザークがちらりとシホに目を向け、ふふ、と声を出して笑った。
「なっ…!なんですか?!」
そんなに汚い格好だったろうか?
シホは慌てて自分の姿を見下ろした。
 
「いや、すまん。…お前は、自分に似合うものがよく分かっているな、と思ったんだ。」
シホは、おそるおそる、ずっと気になっていた事を口にした。
 
「あの…イザーク?」
「ん?」
「この格好…変じゃないですか?嫌い、とかないですか?」
「は?全く変でもないし、嫌いも好きもないが?とても良く似合っている、と思うぞ?」
 
 
イザークは時々ずるい、とシホは思う。
こうしてさらりと無自覚で、シホの不安を取り除いてしまうような言葉を口にするのだから。
 
 
そうか。不安に思わなくても、いいんだーーー。
 
 
「家に帰ったら、今日買った洋服、見てくれますか?ミリアリアさんが選んでくれたんです。」
「ミリアリアが?…それは楽しみだな。よかろう、帰ったらすぐに着替えだ。」
「はい!」
 
やっといつもの笑顔を見せてくれたシホに、イザークは安堵の溜息をついた。
難しい顔をしていると思えば…女というものはやっぱりよく分からない。
 
 
ーーー脱がせた服をすぐに着せられる程、俺には理性が残っているだろうか。
ディアッカが思っている以上に、実はシホを案じて神経を尖らせていたイザークは、頭に浮かぶ邪な思いを振り払うようにアクセルを少し強く踏んだ。
 
 
 
 
 
 
 
007

最後はひたすらに甘い、それぞれの帰宅風景で締めてみました。

全4話、いかがでしたでしょうか?

ライトな話を書くつもりが、ちょっとでも事件が絡むと途端に長くなってしまうこの力量のなさorz

自己満足でかきあげたお話ですが、楽しんで頂けましたら幸いです。

ミリィのディアッカに対する信頼は、3話目の子供に掛けた言葉からも見て取れますよね。

『どこにいても絶対に助けに行く』と言ってくれた言葉を、ミリィはずっと信じ続けています。

表には出しませんが、イザークの脳内もなかなか大変な事になっていたようですし(笑)

…というかミリィもシホも、なにげに乙女な悩み(●´艸`)

若い女性にとって、ファッションというのはとても重要な項目ですからね!

そう言うネタで悩めるようになったのも、少しずつ和平への道が進んでいる証拠なのかもな、と

お二人が感じたように私も思いました。

 

いつも当サイトに足をお運び頂く皆様に、自己満足で拙いですがこのお話を捧げます!

どうか多くの方にお楽しみ頂けますように(●´艸`)

 

 

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2014,9,23up