そこへ行くことが出来たら 2

 

 

 

 
ミリアリアは夜の海が好きだった。
こうして一人、裸足になって砂浜を歩く。
過呼吸の発作を起こしたばかりなのに、とキラやカガリが知ったら酷く心配するから、ミリアリアはこっそりとマルキオ導師の孤児院を抜け出して来ていた。
キラ達は、ミリアリアが眠っていると思っているだろう。
 
 
心配してくれるのは、とても嬉しい。
テロ現場である北欧のコミュニティからオーブ軍部隊によって救出され、カガリの計らいでこの孤児院で静養を始めて2ヶ月。
自分がどれだけカガリ達に心配をかけたか、そしてどれだけ気を使わせているかも分かっている。
 
 
 
『あいつに連絡すべきじゃないのか?アスラン!』
発作を起こして気を失ったミリアリアが目を覚まし、皆のいる部屋に行こうとした時にその言葉は聞こえて来た。
『連絡手段はあるが…。二人の問題だろう?俺たちが安易に首を突っ込んでいい事じゃない。
彼女がそれを望むなら話は別だが…。』
『ミリアリアは、まだあいつの事が好きなんだ!お前らだってもう気付いてるんだろ?』
『だとしても!ミリィの意思を聞かずに勝手な真似は出来ないよ。』
『だけど!こんなの悲しすぎるだろ!?』
 
 
 
ミリアリアの事を思い、涙声でキラとアスランにくってかかるカガリ。
声は聞こえなかったが、ラクスも多分その場にいたのだろう。
身分も違えば、背負うものの重さも違う。
それなのに、こんな自分を心配してくれる彼女達に、ミリアリアは感謝と申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 
 
 
***
 
 
 
裸足で砂浜を歩いていたミリアリアは、立ち止まると空を見上げた。
「きれい…」
そこには、大きな満月と満天の星空。
 
「スーパームーン…二人で見たのよね」
 
 
ーー離れている間、お前がもう、一人で泣く事がありませんようにーー
 
 
そうミリアリアの隣で願ってくれた人がいるのは、この星空の向こう。
大好きで、大切で、でもなかなか素直になれなくて。
結局、自分から手を離してしまった、ミリアリアがこの世で一番大切に想う人。
 
 
「ほんと馬鹿よね…。あいつも、私も。」
 
 
ぽつりと呟いたミリアリアの頬を、つぅっと涙が伝った。
自分だって軍事裁判にかけられたり降格したり、大変な事がたくさんあったはずなのに、いつもミリアリアの事を一番に考えてくれて。
むちゃくちゃな理屈を並べて休暇をもぎ取って、遠いプラントから何度も会いに来てくれて。
 
「願い事…全然叶ってないじゃない…あんたのも、私のも。」
 
 
ずっと一緒にいられますように。
離れていても、気持ちが一つでありますように。
 
 
そう願ったのは、自分。
だけど、その優しい手を離したのも自分。
 
「ふ…っ、う、ひっく…」
 
ミリアリアは砂浜に蹲って、嗚咽を漏らした。
会いたい。
優しい声で、名前を呼んでほしい。
今すぐに、あの温かい胸に抱き締められたい。
 
 
 
「たすけて…ディアッカ…」
 
 
 
それは、辛い時、苦しい時、数えきれない程願ったこと。
けれど、どんなに願っても口にしてはいけない、叶わない想い。
彼の想いを踏みにじり、優しい手を振り払ったのは自分なのだから。
ミリアリアは一人砂浜で泣き崩れた。
 
 
 
 
 
 
 
007

繋がっているのに、繋がらない、二人の想い。

 

戻る  次へ  text

2014,9,9up

 
お題配布元「確かに恋だった」