そこへ行くことが出来たら 3

 

 

 

 
「…夜の海風はやっぱり冷たいですわね。これでは風邪を引きますわ。」
ふわり、と肩に上着をかけられ、ミリアリアは驚いて顔をあげた。
 
 
そこにいたのは、柔らかく微笑むラクスだった。
 
 
「ラクス…さん」
「あらあら、ラクス、とお呼び下さいな。」
ふわりと微笑むラクスにみっともない泣き顔を見られている事に気付き、ミリアリアは慌ててごしごしと目元を拭った。
「っく、あ、の…」
「大丈夫。泣いて、いいのですよ。」
優しい声に、意識して止めたはずの涙が再び浮かぶ。
 
「ディアッカさんの事を、お考えでしたか?」
ミリアリアは即座に否定しようとした。
だが、それは出来なかった。
ディアッカの名を出された途端にあふれてしまった涙が、ラクスの言葉を肯定していたから。
 
 
「わ、たし…っ、ちが…」
 
 
それでも意地を張って首を振るミリアリアを、ラクスは優しく抱き締めた。
 
「ご安心下さい。ミリアリアさんの望まない事をわたくしは致しません。
だから…今だけは、素直になってもいいのですよ。
心に秘めた想いは口にした方が楽になる事もございます。だから、ね?」
 
ミリアリアの碧い瞳が見開かれ。
ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
 
 
 
「会いたい、の。」
「はい」
「自分から、ひくっ、あいつの手を離したの。
でもっ、好きなの。う、っく、どうしようもなく、会いたいの。」
「はい」
「声が聞きたい。ふっ…く、顔が見たい。ぎゅって、抱き締めて、ほしい…っ」
「…それでも、連絡はなさらないのですか?」
ミリアリアはしゃくり上げながら首を振った。
「そんなずるい、ことっ…できない。
あんなに、ひどいことをした私には、ひっく、そんな資格、ないもの…」
「…そうですか」
「でも、ね。」
「何でしょう?」
ミリアリアは涙に濡れた瞳でラクスを見上げた。
 
 
 
「どうしても、止められないの。
助けて、ディアッカ、って、あいつの事を呼んじゃうの。
私、どうしたらいい?どうしてこんなにずるい女になっちゃったの?」
 
 
 
ラクスは少しだけ目を見張り、また優しく微笑んだ。
 
 
「ミリアリアさんは、ずるくなんてありませんわ。
ディアッカさんの事を求めてしまうのは、それだけディアッカさんの事を愛していらっしゃるからですもの。
とても自然な事だと、わたくしは思いますわ。」
 
 
そう言うとラクスは、ぎゅっとミリアリアを抱き締めた。
「ミリアリアさんとディアッカさん、今は離ればなれかもしれません。
でもわたくしには、お二人の想いや目指すものは同じように思えます。」
ミリアリアは、ラクスの胸に抱かれ目を閉じた。
 
 
「ですから、次にディアッカさんとお会いになった時には、素直な想いを伝えませんか?
そしてそれまでは、ミリアリアさんの出来る事をいたしましょう?
わたくしもお手伝いいたします。」
 
 
「でも…会える見込みなんて、ないじゃない…」
後ろ向きなミリアリアの言葉に、ラクスはふふ、と笑った。
「それは分かりませんわ。それにわたくしは、お二人の再会は必然だと思いますもの。」
「必然…?」
また、会えるの?ディアッカに?
ミリアリアは閉じていた目を開いた。
 
「ミリアリアさんも本当は、ディアッカさんにまた会えると思ってるのではありませんか?
わたくしの勘は、意外と当たりますのよ?」
笑みを含んだ、ラクスの声。
 
 
そう、あの時も、そう思った。
会える見込みも無いくせに、もう一度あいつに会うまで、死ぬ訳にはいかない、と。
矛盾した考えかもしれないけど、自分はその想いを支えに、なんとか正気を保って来たのだ。
ミリアリアは、ひとつ息を吐いた。
 
 
「ラクス。ありがとう。ひとつだけ、お願いがあるの。」
「まあ、何でしょう?」
ミリアリアはラクスの胸から顔を上げた。
 
 
 
「私、明日からまた前を向くから。
だから今だけ…あいつを想って、思いきり泣いてもいいかな?」
 
 
 
ラクスは微笑んで、頷いた。
「もちろんですわ。」
 
 
その言葉が終わると同時に、ミリアリアの顔が歪み。
遠い空の向こうにいる大切な人の名を呼びながら、ラクスにそっと背中を撫でられミリアリアは子供のように泣きじゃくった。
 
 
 
 
 
 
 
007

最後までお読み頂き、ありがとうございます!
今回、お題サイト様よりお借りした素敵なお題に挑戦してみました。
長編「手を繋いで」で触れた北欧でのテロ事件後、過呼吸になってしまう程の
トラウマに苦しんでいる頃のミリアリアのお話です。
拍手小噺11「スーパームーン」と少しだけリンクしています。

自分から別れを切り出してしまったけど、本当は大好きで会いたくて、助けて欲しくて。
会いたいけど、助けて欲しいけどそれを求めることが出来ないミリアリアの苦しみが
うまく表現出来ていればいいのですが…。
そして、ラクスの慈愛に満ちた行動。
ラクスはきっと、二人の気持ちが何となくわかっていたんでしょうね。
すぐにでも連絡を!というカガリの想いもきっとミリアリアの胸に染み渡った事でしょう。

いつも私の拙いお話をお読みいただき、本当にありがとうございます!
あっという間の4000hit、本当に感謝の一言です!
サイトに遊びに来てくださる全ての方に、感謝の気持ちとこのお話を捧げます。
楽しんでいただければ幸いです。
これからも、当サイトをよろしくお願いいたします!!!

 

 

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2014,9,9up

お題配布元「確かに恋だった」