「タッドの息子がカーペンタリアに?いつだ?」
座り心地の良さそうなソファに深く腰を下ろし、男は少しだけ目を見開いた。
「ああ。確か今日発っているはずだ。連絡が遅くなってすまない。
あちらでの交渉が難航してな。なかなか情報が送れなかった。」
亜麻色の髪の男はそう言うと、一つ息をついた。
「だが、収穫はあったよ。いい駒を見つけて来た。
…あのAAクルーの縁者だ。」
「なに?」
男が興味深げにソファから身を起こす。
「パナマ攻略戦で婚約者を亡くしたらしい。
そこを突いて話を持ちかけたら、やっとその気になってくれたよ。
…楽ではなかったがな。」
「パナマ、か…。確かイザーク・ジュールがその場にいたはずだ。
クルーゼ隊が解散したのはパナマの後だったはずだからな。
ふふ、ちょうどいいではないか。」
男が愉快そうに笑った。
「それで?MSの件はどうなった?」
「ジャンク屋に話をつけた。金は少々かかったが、望み通りのものを用意してくれるそうだ。」
「君も立ち会うんだろう?工学エンジニアである以上、君の力は欠かせないからな。」
びくり、と亜麻色の髪の男の体が強張った。
「Gシリーズの再開発で懲りたんだがね…。
我々の諜報員がエターナルにいなかったら私も危なかった。
…まぁ、君がそう言うなら顔だけは出すとするよ。手は出さないがね。」
その言葉に男は満足げに頷くと立ち上がった。
「奥方の調子はどうだね?」
「…一進一退、と言った所か。体はもういいのだが、息子の戦死以来どうしても心の方が、な。」
「そうか…。」
男は壁に設えられた棚からブランデーを出し、グラスに注ぐと亜麻色の髪の男に差し出した。
「あれから2年待った。奥方に吉報を持ち帰る為にも、動き始めるとしようか。ユーリ。」
一瞬躊躇った後グラスを受け取った亜麻色の髪の男ーーユーリ・アマルフィは、昏い目で微笑む目の前の男に視線をやった。
「愛する息子をナチュラルに殺された恨み、目の前にいながらそれを見殺しにしたジュールやエルスマンの息子達への恨み、忘れたわけではあるまい?」
「…ああ、もちろんだ。」
「ナチュラルとの融和政策を進めるラクス・クラインもまた同罪だ。オーブへ渡ったパトリックの息子も、な。
亡き父の意思も理解せずあのような行動を取るなど…全くもって馬鹿げている。」
男は嘆かわしげに溜息をついた。
「彼らの大事なものを根こそぎ奪いとる。
その為にエルスマンの息子の結婚からこれだけの時間、待ってやったのだ。
愛するものを失う悲しみを、あの小僧どもにも味あわせてやるのさ。」
「だが…私たちの行為によってはもしかしたらまた戦争が起きるかもしれないのだぞ。」
ユーリの苦しげな言葉を、男は一笑に付した。
「そんな事はどうでもいい。何が起きようと、私たちの息子は帰って来ないのだからな。
あいつらは息子を見殺しにした。だから私はあいつらの大切なものを根こそぎ奪い取る。
ただ、それだけだ。」
男は一気にそこまで口にすると、手にしたグラスを一気にあおった。
そして震える手で、サイドボードにたったひとつ飾られた写真に触れる。
「…見ていてくれよ。ラスティ。」
何かに憑かれたようなその姿に、ユーリは背筋が寒くなった。
慌てて自分もグラスの中身を飲み干し、退出を告げる。
「妻の所に行かなくては行けないのでね。失礼するよ、ジェレミー。」
オレンジ色の髪の少年が写る写真を愛おしげに撫で続ける男ーージェレミー・マクスウェルはユーリの声に何の反応も示さない。
ーーー父さんのしている事は、間違ってるのか?ニコル。
記憶の中で穏やかに笑う少年にユーリは語りかける。
一度は手放したはずの息子を愛し、身を案じ続けたジェレミー。
先の大戦後は議員職からも退き、ただ息子の復讐のために働き、生きてきた男。
彼の心の闇は、どこまで深くなっているのだろう。
ユーリは溜息をつくと、黙って部屋を出て行った。
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『あの方』の正体が、ここで判明です。
ユーリが開発の手伝いをしたGシリーズについては、長編『手を繋いで』をご参照下さい。
2014,9,5up