10, 決意 1

 

 

 

 
ディアッカはエアカーを走らせながら、ぼんやりとミリアリアのことを考えていた。
 
 
初めて白服を身に纏ったあの日、子供のように泣き喚いたミリアリア。
寂しい、離れたくない、と何度も口にして、ディアッカの子供じみた行動すら自分のせいだと思い込んで、一人で我慢して悩んで。
 
結婚してから、まず滅多な事では泣かなくなったミリアリアだったが、今回はきっと必死で感情を押さえつけていたのだろう。
そう、かつて恋人が死んでしまった時のように。
 
 
しかし、あれだけ感情を露にしたミリアリアだったが、一言も「行かないで」とは口にしなかった。
ミリアリアは気づいていたのだろう。
それを言えば、ディアッカに迷いが生じるかもしれない、という事に。
 
 
 
寂しがりやで意地っ張りで、脆いけれど優しく、そして強くあろうとひたむきに努力するミリアリア。
いくら慣れてきたとはいえ、コーディネイターばかりのプラントで心細くないはずがないのに、どこまでもディアッカの事を想い支えようとするミリアリア。
ディアッカは、そんなミリアリアが自分を愛してくれることを、誇りに思った。
そして、挫けそうだった自らの心を奮い立たせた。
負けていられない。
自分はそんなミリアリアを生涯かけて守ると決めて、二人は今夫婦としてここにあるのだから。
 
 
 
ディアッカはここ数日の間、時間を作ってはミリアリアを抱き、その体に自分の感触を刻み付けた。
離れていても、寂しくないように。
自分の事を思い出して、ミリアリアが泣く事の無いように。
そして、自分自身の心と体にも、愛しい妻の感触を刻み付けた。
離れていても、心は共にあるのだと自分自身に言い聞かせるように。
 
 
3ヶ月という期間は短いようで長い。
しかも自分に与えられた任務は、ダストコーディネイターの調査だけではない。
正規に与えられた任務をこなしながら、調査も行う。
簡単に済むものではないだろう。
ふと、ディアッカの頭にイザークの言葉が浮かぶ。
 
 
『ラスティの居場所の件。ミリアリアなら分かるかもしれない。』
 
 
ミリアリアと過ごしている間、ディアッカは結局その事を彼女に告げなかった。
言えばきっと、すぐにでもミリアリアはラクスに掛け合い、ラスティの居場所を調べてくれただろう。
ただ、自分の意志でジャーナリストの仕事から離れ、ターミナルの許可証をラクスに預けたミリアリアの気持ちを、ディアッカは無駄にしたくなかった。
 
とは言え、状況次第では手段を選んでなどいられない。
何より、カーペンタリアでの滞在が延びるなどという事は、間違ってもあってはならない。
ミリアリアが、ここで自分の帰りを待ってくれているのだから!
 
「…マジで最後の、最終手段だな。」
 
ディアッカはそう独り言を呟くと、エアカーをパーキングスペースに停め、隊長室に向かって歩き出した。
 
 
 
 
新しく与えられた隊長室に入ると、そこにはイザークが立っていた。
「やっと馴染んできたようだな。」
「白服?言ったじゃん、着こなす自信あるって。」
おどけた口調で切り返すディアッカを、イザークはいつになく穏やかな表情で見つめた。
「シホはこの時間、メイリンの指導に出ている。
お前に直接言えないから、と伝言を預かってきた。」
「シホから?」
 
「ああ。『ミリアリアさんの事は私に任せて、さっさと任務を終わらせて来なさい。気をつけて行ってくるように。』だそうだ。」
 
シホらしい物言いと、つんとした物腰が頭に浮かび、ディアッカは思わず笑顔になった。
「シホに、礼言っといてよ。あと、ミリィの事もよろしくって。
あいつ、ここじゃ女友達なんてシホかラクスぐらいしかいないからさ。」
 
 
先の大戦の頃からラクスと多少馴染みがあるディアッカだったが、今となってはさすがにそう簡単に話のできる相手ではない。
その点、シホなら安心してミリアリアの事を任せられる。
いざとなれば、キラやイザーク、それにサイ達だっている。
そう言った意味で、ミリアリアが寂しい思いをする事はないだろう。
もちろんラクスとて、ミリアリアを気にしていない訳ではないのだが。
 
 
「分かった。心配はいらん。
お前こそ気をつけて行って来い。…例の件、頼むぞ。」
いつもと変わらぬイザークの声。
しかし付き合いの長いディアッカには、その声に含まれる感情が手に取る様に分かった。
 
先の大戦からずっと共にあった二人だ。
不安が無いわけがない。
 
「ああ。サンキュー、イザーク。お前も無理すんなよ?
戻ってきたらお前が問題起こしてて緑服とか、シャレになんねぇからさ。」
「そんな話があるか!馬鹿者!」
途端に顔を真っ赤にしてぷりぷりと怒り出す親友を見て、ディアッカはおかしそうに笑った。
お前もがんばれよ、とこれで伝わるだろうか。
いや、きっと伝わるだろう。
伊達に長い事、親友をやっているわけではないのだから。
 
 
 
 
 
 
 
016

イザークとディアッカの友情は、きっと一生ものでしょうね。

 

 

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2014,8,29up