9, 離れていても

 

 

 

 
ひく、とミリアリアが嗚咽を一つ漏らした。
 
「…落ち着いて来た?」
「…う、ん。」
そう言いながらもミリアリアはディアッカの側から離れようとはしなかった。
ソファに並んで座り、ディアッカの胸に半ばしがみつくように腕を回している。
 
 
「お前、痩せただろ?」
びくり、とミリアリアの肩が揺れる。
「また飯食わないでいたの?」
「…食べてた。」
「じゃあ今日は?夕食食ったの?」
「まだ、だけど。」
ディアッカはそっとミリアリアの体を起こし、頬に手を添えて自分の方を向かせた。
 
 
「…ほんとは?」
 
 
ミリアリアは泣きはらした目を泳がせる。
「…ちょっとは、食べてた。」
小さな声でそう答えるミリアリアに、ディアッカは思わず苦笑する。
心配をかけたくないのか、照れくさいのか。
結婚して2年以上経つのに、そういうところは相変わらずで。
 
「あのさ、あんなにたくさん、俺一人じゃ食えないんだけど。」
「…たく、さん?あんなに?」
 
自覚がないのか、ミリアリアはきょとんと首を傾げている。
 
 
「お前の料理はほんとにうまいんだけどさ、どうせなら一緒に食った方がもっとうまいじゃん?
だから、一緒に食おーぜ?寮でも食ったけど、ミリィの分残して持って帰って来たからさ。」
 
 
ミリアリアはその言葉にまたきょとんとして。
そして、柔らかく笑って頷いた。
 
 
 
 
 
「…出張の準備、しないとね。」
 
結局二人でミリアリアの作った料理を食べ、入浴も一緒に済ませ。
久しぶりに二人で一つのベッドに寄り添いながら、ミリアリアがぽつりとそんな事を口にした。
「これも準備の一つだろ?」
ディアッカはくすくすと笑いながら、何も身に付けていない華奢な体に手を伸ばす。
 
「ん…。もう、無理…。明日だって仕事でしょ?」
「まぁな。だから今日はもうしない。」
「今日はって、え?どういう…」
 
ディアッカはミリアリアを抱き寄せ、額にキスを落とす。
そして耳元で優しく囁いた。
 
 
「これから出発する日まで、毎日抱くから。お前の事。」
 
 
「なっ…」
ぽん!と火がついたようにミリアリアの顔が赤くなる。
 
「離れていても、寂しくないように。お前が安心できるまで何回でも抱くから。
だからもうあんな風にひとりで我慢したり、俺がいない間も泣いたりすんな。」
 
「ディアッカ…」
ミリアリアは、じわり、と浮かぶ涙を堪えた。
 
 
「俺も、寂しいけど。あっちで頑張ってくるから。
ちゃんと連絡もするし、任務も出来るだけ早く終わらせて帰ってくるからさ。
だから、ここで待っててくれるか?」
 
 
ミリアリアはそっとディアッカの首に手を回すと、その唇に自分からキスを送った。
触れるだけの、優しいキス。
 
 
「…うん。待ってる。」
 
 
ミリアリアがふわりと笑う。
ディアッカも目を細めて微笑み、ブランケットごとミリアリアを腕に絡めとって抱き寄せた。
 
「お前が泣いていいのは、俺の前だけな?」
「…独占欲、強すぎよ。それ。」
「いいじゃん、だって俺のだし。」
ディアッカは小さく声を上げて笑いながら、ミリアリアの髪に顔を埋めた。
 
 
「おやすみ、ミリィ。」
「ん。おやすみなさい、ディアッカ。」
 
 
ふわり、と花の香りが二人を包み。
ディアッカは腕の中の小さくて細い体を愛おしげに抱きしめ、心地よい倦怠感に身を任せる。
そのまま二人は、身を寄せ合いながら深い眠りに落ちて行った。
 
 
 
***
 
 
 
そして、出発の朝がやって来た。
仲直りした夜の言葉通り、あれから毎晩、時には早朝にもディアッカはミリアリアを求めた。
ミリアリアも、心と体に刻み付けるようにそれに応え、二人は何度も体を重ねた。
 
 
「忘れ物、ない?」
「ん、だいじょーぶ。まぁ大抵のものはあっちでも揃うし、心配ねぇよ。」
そういうとディアッカは、ミリアリアを抱き寄せた。
 
「体、だいじょぶ?」
 
ミリアリアはその言葉に頬を染め、それでもこくりと頷いた。
「ディアッカこそ…久しぶりにMSで出るんでしょ?良かったの?今朝まで…。」
「いいの。ミリィならいくらでも。」
「もう…。ほんとに、気をつけてね?見送り、行かれなくてごめんね?」
ディアッカはくしゃりとミリアリアの髪をかき混ぜ、微笑んだ。
「さすがにオーブの軍人とは言え、用もないのに格納庫までは入れねぇんだし。いいよ、ここで。」
「うん…。」
 
 
あれだけ体を重ねても、やはり寂しいのだろう。
ミリアリアがこてん、と頭をディアッカの胸に預ける。
「ほら、ミリィ。顔上げて?言ったろ?さっさと任務終わらせて戻ってくるって。」
「…うん、大丈夫。だからディアッカも無理はしないで、ほんとに気をつけてね?」
ディアッカを見上げる、碧い瞳と柔らかい笑顔。
不意にディアッカの心に、ミリアリアへの愛しさがこみ上げて来て。
 
「ん、う…!」
 
ディアッカはミリアリアを抱きしめる腕に力を込めると、深く口付けた。
薄く開いた唇から強引に舌を捩じ込み、蹂躙する。
驚いた様子のミリアリアだったが、すぐに舌を絡ませ、ディアッカのキスに応えて来た。
 
 
「…愛してる。ミリアリア。」
やっと唇を離したディアッカが、ミリアリアの耳元で優しく囁く。
「…私も。愛してるわ、ディアッカ。」
ディアッカの背中に回されたミリアリアの腕に力が籠り。
そして、そっと離れて行った。
 
 
「…もう、時間よ。行ってらっしゃい、ディアッカ。」
にこりと微笑むミリアリアの頬にキスを一つ落とし、ディアッカはキャリーケースのハンドルを手にした。
「ああ。ミリアリアも気をつけろよ?」
「うん。落ち着いたら連絡してね?待ってるから。」
「ああ、じゃ、行ってくる。」
 
そうして優しい笑顔をミリアリアに向けると、ディアッカはくるりと向き直り、ドアを開けて出て行った。
 
 
 
「…行っちゃった…。」
一人リビングに戻り、ソファに座るとミリアリアはぽつりと呟いた。
寂しいけど、でも頑張らなきゃ。
ディアッカと約束したんだから!
ぐっ、と碧い瞳に力を入れて、ミリアリアは俯いていた視線を正面に向けた。
 
その時、バッグに入れておいた携帯が鳴り、ミリアリアは慌てて電話を取り出した。
 
 
「え…?」
 
 
着信画面に表示された意外な人物の名前にミリアリアは驚き、通話ボタンを押した。
 
 
 
 
 
 
 
016

いよいよ、出発。

 

 

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