8, 白服 2

 

 

 

 
見慣れない白服のディアッカは、まるで知らない人のようで。
ミリアリアはぽかんとディアッカを見つめる事しか出来ない。
なぜだろう、ディアッカがだんだんとにじんで、ぼやけて行く。
まるで水の中にいるかのように。
 
 
「ふっ…う…」
 
 
いつのまにか、ミリアリアの碧い瞳からはぽろぽろと涙が零れていた。
ディアッカが驚いた顔でそんなミリアリアを見ている。
さっきまで、泣きたくても泣けなかったのに。
ディアッカが目の前にいるだけで、どうしてこんなになっちゃうの?
 
 
「…たった…4日、で、こんな、なのに…」
「え、おい、ミリ…」
少しだけ慌てたような、ディアッカの声。
 
 
「…3、ヶ月…なんて…」
 
 
次の瞬間。
ミリアリアは、ディアッカの元に駆け寄り、その胸に飛び込んでいた。
 
 
 
「…っ…や、だっ…はなれる、のっ、やだ、よぉ…ひくっ、う…」
 
 
 
ディアッカはその言葉に目を見開く。
そして、自分にしがみついて泣きじゃくるミリアリアをそっと抱きしめた。
「…うん。」
「ごめっ…ごめん、なさい…っ。ひっく、わ、たしっ…う、っく…」
「うん。」
ディアッカの手が、ミリアリアの頭を撫でる。
その温かさに安心して、ミリアリアの目からは涙がさらに零れた。
 
 
「っく、ディアッカ、の、きもち…かんがえ、ないで…っ、じぶん、かってで…」
「うん…え?」
「ひっく、うっ…ディアッカ、いつ、も、やさしいからっ…わたし、ひくっ、あまえて、ばっかり、で…」
「ミリィ…」
「ディア、ッカを、ささえ、て、あげられ…うっく、なか、った…ふ、ぅっ」
ディアッカは泣きじゃくるミリアリアを思わず見下ろした。
 
 
「ごめ、なさい…っ、でも、ひく、やっぱ、り、やだ…ふ、ぅっ…さみしい、よぉ…」
 
 
まるで幼い子供のように感情を爆発させるミリアリア。
結婚してから、いや、付き合ってる頃だってここまで声を上げて泣く事なんかなかったよな、とディアッカは思いながら、ゆっくりとミリアリアの柔らかい髪を撫で続ける。
 
また一人で勝手にあれこれ想像して突っ走って。
大人げなかったのはディアッカの方なのに、自分が悪かった、と落ち込んでいたんだろう。
甘やかされてるのは自分だ、とディアッカは思った。
ほんとにこいつは、俺に優しすぎる。
 
 
 
「俺も、ごめんな?いきなりついて来いなんて無理言って。」
 
 
 
ぎゅっと抱き締めて耳元でそう囁くと、ミリアリアは弱々しく首を振り、さらに泣きじゃくった。
 
 
「こっ…このまま、ディアッカ、ひく、いっちゃうかも、て…でも…っく、ど、したら…いいか、分からな、くて…っ」
「俺も、分かんなかった。でも、お前が勇気をくれたから帰って来れた。」
「…っく、え…?」
 
 
ミリアリアは思わず顔を上げた。
泣きはらした瞳で、ディアッカを見上げる。
 
 
 
「差し入れ、サンキュ。やっぱ、お前の飯がいちばんうまいな。」
 
 
 
ずっと恋しかった、ディアッカの笑顔。
ミリアリアの目から、またぽろぽろと新しい涙が零れた。
 
「…ごめんな。寂しがりのお前が、3ヶ月も離れてて平気なわけ、ないのにな…。
俺も、大人げない事言って悪かった。」
「うう、ん…わたし、も、ごめん、なさい…っく…」
「あー…もう泣くなって。な?お前は悪くなんかねぇよ。全部俺のわがままだ。」
「そん、な、かんたん…に、とまん、ない…ひ、くっ」
子供のようにしゃくりあげるミリアリアの姿にディアッカは困ったように笑う。
そして、そっとその小さな肩を押し、少しだけ体を離した。
 
 
 
「見て?白服。お前に一番に見せたくて、ずっと着ないでいたんだ。」
 
 
 
ミリアリアは、しゃくり上げながらその姿を見つめる。
 
 
「どぉ?似合う?」
「…っく、うん、すごい…ひっく、かっこ、いい…」
 
 
ディアッカは思わぬ言葉に目を丸くし、少しだけ頬を赤らめて目を逸らした。
「ひっく…ディ、アッカ…?」
ミリアリアはその反応に意味が分からず首を傾げる。
 
「…たまに無自覚で、すげぇかわいい事言うよな、お前。」
「へ…?」
「あー、まぁ気にすんな。」
 
そう言うとディアッカは、再びミリアリアを抱きしめ、顎に手をかけた。
まだしゃくり上げているミリアリアは、されるがままになっている。
 
 
「仲直りのキス、していい?」
「…っく、うん…。」
 
 
ミリアリアはディアッカの紫の瞳を見つめた後、そっと目を閉じる。
そしてすぐに、熱くて柔らかい唇がミリアリアのそれに優しく重ねられた。
 
 
 
 
 
 
 
016

黒服のままでいたのは、一番最初にミリアリアに自分の白服姿を見てほしかったから。

 

 

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2014,8,22up