ミリアリアは、ザフト本部を出た後ぼんやりとアパートまでの道を歩いていた。
あまり足を運んだ事のない居住区で半分迷子のようになってしまい、思いの外時間がかかってしまったせいで外はもう真っ暗だ。
ディアッカが出て行ってしまって、もう4日目。
このまま会えなくても、ディアッカは、そして自分は本当にいいんだろうか?
シホにディアッカの食事事情を聞き、いても立ってもいられなくなったミリアリアは仕事を早く終わらせ、急いで帰宅して差し入れを用意した。
ディアッカの好きなもの、栄養バランスの偏らないもの、食べやすいようにご飯はおにぎりに。
そして大好きなクリスタルマウンテン。
出発まで会えない可能性も考慮して、保存のきくおかずや仕事の道具、着替えも入れた。
本当は直接本人に渡す方がいい。
しかしミリアリアは、どんな顔でディアッカの前に立てばいいか分からなかった。
幸いにもシンが引き受けてくれたけれど、そうでなければ部屋の前に荷物を置いて帰っていただろう。
こんなに長く喧嘩をするなんて、結婚してから初めての事で。
たまに喧嘩をしても出て行くのは専らミリアリアの方で、今回のようにディアッカが怒って出て行ってしまう事など一度もなかった。
自分は、ディアッカに甘えすぎていたんじゃないだろうか。
どうしたらいいか分からず、途方に暮れたミリアリアが行き着いたのが、そんな考えだった。
いつだって優しくて、ミリアリアを何よりも大切にしてくれるディアッカに、いつしか自分は甘えて調子に乗ってしまっていたのではないか?
だから、ディアッカの不安な気持ちにすぐに気づけなかったのではないだろうか。
そう思ったら、ますますミリアリアはディアッカに連絡をする事も、会いに行く事も出来なくなってしまっていた。
ぼんやりしたまま、ロックを解除しアパートのドアを開ける。
部屋はがらんとしていて、もちろん人の気配などない。
ミリアリアはぽすん、とソファに腰を下ろした。
着替える気も起こらず、膝を抱えてそこに顔を埋める。
平気なわけなんか、ない。
寂しくないわけがない。
3ヶ月もこの部屋でひとりだなんて、ミリアリアには想像もつかなかった。
それでも、ディアッカの実力や努力が認められて、臨時とはいえ隊長に抜擢されて、ミリアリアはとても嬉しかったのだ。
だから、寂しくても笑顔でディアッカを送り出そうと思っていた。
でもそれは、独りよがりな考えだったのだ。
ディアッカがどう考えるか、どう思うか。
その事をミリアリアは全く想像していなかった。
だから、一緒に来ないかと聞かれて反射的ににべもなく断ってしまったのだ。
ディアッカが傷つく事など、考えもしないで。
どうしようもない、自己満足だけでディアッカを怒らせてしまったのだ。
「自分勝手もいいところよね…。」
ミリアリアはぽつりと呟いた。
胸が、重くて苦しい。
シホやシンの前、総領事館でもなるべく笑顔で振る舞ってはいたが、ミリアリアの心は今にも折れそうで。
こうしてひとりになると、満足に食事もとれずぼんやりとしてしまういつもの悪い癖が出てしまっていた。
まるで、トールを亡くした時のようだ、とミリアリアは思う。
でも、何かが違う気もする。
ああ、そうか。
ミリアリアはある事に気づいた。
トールの時と、今の違い。
私、泣いてないんだ。
AAにいた頃も、こうやってみんなの前では虚勢を張っていたけれど、ひとりになると毎日のように泣いていた。
それに気づいていたのは、ディアッカだけ。
サイやキラも知っていたかもしれないが、きっとどう言葉をかけていいか分からなかったのだろう。
ひとりになれる場所を見つけては泣いていたミリアリアを探し出し、どんなにきつい言葉で拒絶しても離れようとはせず、隣に座って頭を撫でてくれていたのはディアッカだった。
ミリアリアは、温かくて大きいディアッカの手を思い出す。
優しく頭を撫でてくれて、どれだけあの時安心できたか。
当時は絶対に口にしなかったけれど、今なら分かる。
あの頃から少しずつ、自分はディアッカに惹かれて行っていたのだと。
だけど今、そのディアッカはいない。
ひとりなんだから、遠慮なく泣けばいいのに。
人ごとのようにそう思うミリアリアだったが、なぜか涙は出てこなかった。
あの頃よりも色々な現実を知って、精神的に大人になったからだろうか。
泣いてもなにも変わらない、と知ってしまったからだろうか。
涙を流せば、この胸の重苦しさも取れるかもしれないのに。
泣きたいのに、泣いていいのに、泣けない。
「ディアッカ…」
ミリアリアは、目を閉じて大好きな夫の名前を呼んだ。
「なんだよ」
ミリアリアは閉じていた目をぱちりと開く。
いまの、声、は?
そして、がばっと顔を上げると立ち上がり、後ろを振り返った。
「…ディアッカ…」
そこには、白い隊長服を身に纏ったディアッカが立っていた。
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やっと、向かい合った二人。
2014,8,22up